[KATARIBE 32359] [HA06N] 『異界の糸』

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Date: Wed, 28 Apr 2010 00:20:34 +0900
From: Subject: [KATARIBE 32359] [HA06N] 『異界の糸』
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 ごんべです。
 三十分一本勝負と言いつつ時間がかかってばかり。

>>[Role] http://kataribe.com/HA/06/C/0397/
 霞原陽(かすみはら・よう) さんでいかがですか☆
>>[Role] rg[gombeLOG]HA06event:
 割れた陶器などの中から赤い糸がでてきた ですわ☆

 ……今回は難産でしたよ。


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小説『異界の糸』
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本編
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 赤い芋虫。傍目にはそう見えるに違いない。
 なめらかな曲線からなる形、もぞもぞと不自由にうごめく様。
 ……それが、人間大でさえなければ。

「……何だ?」

 夕暮れ時、郊外の間道を通り過ぎようとしたとき、陽はその光景に出くわした。
 「それ」は人通りの無い道のさらに路肩から周囲の草むらに落ちようと言う
位置で、全体を曲げたり伸ばしたりしながら懸命に何かをしようとしている。
よく聞けば、唸るような声も聞こえる。が、移動にしろ行動にしろ全く要領を
得ず、進展は無い。
 やがて「それ」は、じたばたともがいていた動きを緩慢にし、やがてぐった
りと動かなくなった。

「これは……布? いや……」

 近づいてみると、「それ」の表面は何かでこぼこした布のような手触りに見
えた。むしろ、強く巻きすぎた包帯のような、と言うべきかも知れない。
 もう少し調べようと陽が手を伸ばしたその時、「それ」は唐突に活動を再開
した。
 しゅるしゅると「それ」の表面がほぐれ、幾条もの糸になって陽に襲いかかっ
たのである。

「なっ!?」

 糸は陽の腕に、足に、首に、次々とからみつきまとわりつく。
 いや――「それ」の正体こそがまさしく、赤い無数の糸そのものであった。
 腕を固定するように絡め取り、口を塞ぐように巻き付いていく。陽の姿が赤
い芋虫と化していくに連れ、路傍の「それ」は次第に糸から解放されて力無く
倒れ伏した犠牲者の姿を露わにした。
 ほどなく完全に赤い芋虫そのものとなった陽は、目も耳も鼻も口も塞がれ、
バランスを崩して路面に倒れ込んだ。

 ……ジジッ

 突然、何かがはぜるような鋭い音がして、糸の一部が薄く煙を上げる。
 その煙は身体の中央付近から段々と強く上がり始め、ついには糸に焦げ目が
広がってきた。

 ジャッ!

 それとほぼ同時に、顔の辺りに閃光が閃き、糸が大きく裂けた。強く巻き付
いていたせいで勢いよく糸がはじけ、陽の顔が再び現れる。

「残念だったな。窒息させて動きを止めるつもりだったか」

 言いながら、人工眼球に仕込まれたビーム砲を次々と照射する。出力を調整
されたビームは、熱線となって糸を次々と炎で包んでゆく。空中に舞って逃げ
ようとする糸も、薄暗がりもものともしない陽の低光度視野に視認されて逃れ
る術はなかった。手に仕込まれたレーザーメスで自由を取り戻した陽は、わず
かな糸も取りこぼすことなく、殲滅戦を続行した。

 ほどなく糸は、数条のみが残り、草むらの奥へと漂っていった。
 そこには、古めかしい様式の陶器の壺が転がっていて、そのわずかな割れ目
から、糸は壺の中へと入っていく。

「そこが根城というわけか」

 最大出力。
 一瞬辺りが昼間のように明るくなり、それを以て陽は戦闘を終了した。

「……おい、大丈夫か? 起きられるか?」
「…………う……うぅ……」
「良かったな、病院にでも連れて行ってやる」

 最初の犠牲者も、命に別状はなさそうだ。
 病院か、警察か、どちらを先に呼ぼうかなどと考えながら、陽は彼を肩に
担ぎ、現場を後にした。


登場人物
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霞原陽(かすみはら・よう)
   :正体を隠して大学に通うアンドロイド。元々戦闘担当で、
   :仕込み兵器も多数取りそろえている。姉ラブ。


解説
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 過去の遺物と不幸な出会いをした人物を目撃してしまった陽。
 ……人間じゃなかったことが功を奏したようで。


時系列
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 2010年春とか。


$$


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 ネタを見てから書き上げるまでで70分越えちゃいました。
 では。

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ごんべ

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