[KATARIBE 32358] [HA06N] 小説『春うららのひざまくら』

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Date: Tue, 27 Apr 2010 02:08:06 +0900
From: Subject: [KATARIBE 32358] [HA06N] 小説『春うららのひざまくら』
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[HA06N] 小説『春うららのひざまくら』
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登場キャラクター
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 蒼雅紫(そうが・ゆかり) かわいい旦那さま
 蒼雅渚(そうが・みぎわ) かわいいお嫁さん


本文
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 暖かい日が続く四月下旬。
 渚のお気に入りの場所といえば、こぢんまりとした離れと、お屋敷の縁側だ。
離れは茶室というには少し大きな、庵とでも呼ぶのがふさわしい建物で、庭の
木々の間にひっそりと立っていて、暑気を避けるのにちょうどいい。だから、
この季節はまだ離れにはあまり近づかず、縁側で座ったりしていることが多い。

 しかし、暖かい。
 抄訳の練習にと開いていたイギリスの児童文学を傍らにおいて、渚は小さく
あくびをした。なんとなくまぶたが重くなってきたので、目を閉じて考え事を
始める。どちらかというお夢に近いものなのだが……そしてまたあくび。

 少し体がぐらりと揺れそうになって、慌てて顔をあげて。三度目のなんとや
らで、忍耐の限界に達して。

 大きくあくびをして……カシャ、という音で意識がはっきりした。目をあけ
ると、携帯を構えた紫が嬉しそうな顔をしていた。

「え、うそ、撮った? 今、うちあくびしてたとこ」
「はい! とても可愛らしい渚さまを激写しました!」

 宝物を手に入れた、まさにそんな表情で、どうやら保存しているらしく携帯を
ぽちぽちといじっている。

「もう、うちの眠い顔なんていっぱい見てるやん」
「はい、さっきのお顔はその中でも、一番です。普段しっかりしてる渚さまの、
無防備なお顔……」

 少し頬を染める紫。そんなに気を張っているつもりはなかったのだが。

「その写真、もしかして保存した?」
「はい、これでいつでも一緒です」

 渚さまフォルダが今どうなっているのか、少し気になったが、紫フォルダと
比較すると大差ないと思ったのでそれは横に置いておいて。それよりも、紫の
携帯が傷だらけになっているのが気になった。

 扱いが雑というわけではなくて、むしろ丁寧に取り扱っているのだが、山に
登ったり川を上ったり、猪と戦ったりしているのでどうしても傷がついてしま
う。

「そろそろ携帯、買い換えたほうがええんちゃうかな」
「え、まだ普通に使えてますよ?」
「うん、頑丈なやつ買ったから、普通に動いとるけど……見て」

 同時に買った同じ機種を、渚はポケットから取り出して、紫の携帯と並べる。
比べると、紫の携帯は百戦錬磨の古強者、といった風情を醸し出していた。

「歴戦の勇者、といったところでしょうか」

 紫はこの傷が気に入っているらしい。黙って立っていれば楚々としているし、
バイト先で働いているときは可憐なのだが、やはり彼女の本質は、男前な一面
が強い。

「彼が倒れ力尽きるまで、私は使い続けたいと思います」

 擬人化するほどに思い入れがあるらしい。大事そうに手で携帯を包む姿に、
渚は少しモヤモヤする。

「ねえ、紫、お願いがあるの」
「なんでしょう!」
「あのね、笑わんと聞いてくれる……?」
「もしかして、大事なお話、でしょうか……」
「うん……」

 紫の真摯な表情に安心して、渚は言葉を続けた。

「膝枕……してほしいの」
「はい! あ、ここのところ……してなかった、ですね」
「あ、ちがうの、それはその、うちが夜更かししてただけで……」

 わがままを聞いてもらいたいだけで、バイトで疲れていた紫を責めるつもり
はまったくない。まして、携帯電話に嫉妬したなんて言えるわけもない。
 紫は縁側に太ももを揃えて座って、どうぞ、とほほえんだ。

「はい、渚さま。ここ、暖かいですから」
「う……うん……ありがとう」

 そーっと横になって、頭を載せて。載せ心地を確かめるまでもなく、柔らか
くて暖かい。そして、耳のすぐ上を紫の手が軽く撫でた。

「うん、暖かい……紫のひざまくら」
「渚さまの髪、ふわふわで撫で心地すごくいいです」
「眠くなっちゃう……」
「おやすみなさい、渚さま」

 うん、と小さく口が動いてすぐに寝入ってしまった。
 しばらく渚の寝顔を眺めながら、髪を撫でているうちに、やはり紫もうと
うととして寝入ってしまったのだった。


時系列
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 四月下旬

解説
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 HA06lovecome:
 大あくびしたので困ってしまう
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