[KATARIBE 32354] [HA06N] 小説『沈丁花の陰に居るモノ』

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Date: Thu, 22 Apr 2010 00:20:14 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 32354] [HA06N] 小説『沈丁花の陰に居るモノ』
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2010年04月22日:00時20分14秒
Sub:[HA06N]小説『沈丁花の陰に居るモノ』:
From:久志


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小説『沈丁花の陰に居るモノ』
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登場キャラクター
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 本宮幸久(もとみや・ゆきひさ)
     :小池葬儀社勤務。霊感の強い見えすぎる人。

本文
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「マジかよ」

 思わず呟きが漏れた。
 仕事を終えた帰宅時、日の暮れた道の途中で立ち止まりくしゃくしゃと頭を
かく。近道に、と。途中にある小さな公園を横切ろうとして。

 それは居た。

 公園の芝生に植えられた沈丁花の香りがあたりに満ちている。
 すっかり日も落ち、まばらな街灯の明かりだけが照らす公園は昼間とうって
変わっておどろおどろしい雰囲気を醸しだしている。

 ここは良くない場所だ。
 立ち止まったまま、ゆっくりと周りを見回す。無意識に胸ポケットを探り、
煙草を一本くわえる。
「まず、第一に……方角、だな」
 公園の入り口の位置、方角は丑寅。鬼門からよくないモノを招き入れる。
 ライターの火がちらちらと揺れ、赤い煙草の火が薄暗い公園の中でかがり火
のように燃える。
「そして……水、か」
 丑寅の丁度反対、裏鬼門といわれる未申。丁度この場所にしつらえられてい
るのは小さな水飲み場。水はけ悪いのか水漏れでもしているのか、コンクリ製
の水のみ場の周りに小さな水溜りが出来ている。

 鬼門に入り口、裏鬼門に陰の水気。

 ちょっと目端の利く者ならばすぐさま気づくだろう。
 昼間の陽気が満ちている時間には欠片も見られなかったこの公園の別の顔が。

「……それと」
 煙草をくわえたまま、一点をじっと見る。
 むせ返るような沈丁花の香りの中、『それ』は荒い息づかいでこちらの様子
を伺っている。
 ちらり、と。沈丁花の木の間から覗かせた姿は公園を満たす気からは想像も
出来ないほどに小さい。
「畜生霊か」
 ふぅ、と。溜息交じりに白い煙を吐き出し目を細める。
「ま、ほっとくわけにゃいかねえな」
 煙草を指先でつまみ、薄闇の中でこちらを伺うモノを見据える。

「逃げも隠れもしねえよ……こい」

 まとわりつく様に、肌に感じる負の気。
 動物霊とは厄介、とは。以前から知っている幸久でさえ這い寄るような違和
感に一瞬体を固くした。

 ずるり、と。小さな黒い影が茂みから姿を現す。
 薄闇にまぎれるような灰色の羽、ずるずると片足を引きずりながら、赤く
濁った瞳で幸久を見あげる。
 元はこの公園の一員だったと思われるものの、変わり果てた姿だった。

「鳥、か。珍しいもんだ」
 煙草を片手でつまんだまま、冷ややかな目で『それ』を見下ろす。
 死してなお、この公園に満ちた気に当てられ、死にぞこないとなった姿。
 このまま放っておけば、いずれ灯り虫が群がるように良くないモノが寄り集
まりもっと手に負えないモノに成り果てるだろう。

 ぴん、と。つまんだ煙草を弾いた。
 弧を描いて赤い点が飛ぶ。

「還りな、あるべき場所に」


 立ち込めた沈丁花の香り。
 地面に落ちた煙草を拾い上げ、携帯灰皿に押し付けて。さっきまで鳥が潜ん
でいた沈丁花の木の枝を掻き分ける。
 喪服の袖に引っかかる葉を払いつつ、慎重に枝を寄せた先。
「こいつか」
 沈丁花の木の根元、物言わぬハトの死体が静かに横たわっていた。
「よっ、と」
 枝にひっかからないよう、そっとハトの屍骸を引寄せて。
 薄汚れた羽、ぼさぼさの羽毛、片足にはどこかで巻きついたのかビニール紐
が食い込み黒く変色していた。
「……ったく、めんどくせえな」
 少し離れた位置、中央に植えられた桜の根元に屍骸を埋めて。

「やれやれ、無駄に時間食っちまった」
 袖についた土を払い、もう一度だけ振り返ってから公園を後にした。

時系列 
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 四月。
解説
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 rg[Hisasi]HA06event: 
 物陰から様子を伺っていたのは傷ついた足をひきずった鳥だった ですわ☆
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