[KATARIBE 32341] [HA06N] 小説『再会(第二稿)』

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Date: Sat, 10 Apr 2010 23:55:06 +0900
From: Subject: [KATARIBE 32341] [HA06N] 小説『再会(第二稿)』
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蘇芳です。
どうにかアイデアが沸いたので、最後まで(?)書き上げてみました。
……相変わらず尻切れトンボっぽい感じがしますがorz

かずこ先生の口調や行動等、「これは違う!」というのがありましたらご指摘お願い
しますです m(_ _)m
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小説『再会(前編)』
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登場人物
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一目蓮(いちもく・れん):http://kataribe.com/HA/06/C/0839/
                                妖怪。外見年齢と実年齢が伴っていない。

山形かずこ(やまがた・−):http://hiki.kataribe.jp/HA06/?YamagataKazuko
                                     ひまわりの家の園長。市原魔女の一人。

山形陽介(やまがた・ようすけ):http://hiki.kataribe.jp/HA06/?YamagataYousuke
                                           山形かずこの夫。数十年前に夭逝。

本編
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 澄んだような青空の下、凍るような風の吹く日のことだった。
 
 バスから降りた一目蓮は、身体の芯まで染み込むような寒さに思わず身を
 縮めた。
 
 3月の終わりのその日は、雪こそ降りはしなかったものの、まるで冬に戻った
 かのような寒さの日だった。
 
 背後でバスの自動扉が音を立てて閉じる。
 唯一の乗客だった蓮を山間のバス停に降ろし、バスは気だるげなエンジン音
 と共に走り去って行く。
 
 「うぅ、寒ぃ」
 
 誰に言うでもなく呟き、手に持ったボストンバッグを肩に担いで歩き出す。
 山間の細い道には蓮の他には誰もおらず、時折、何かの鳥が啼く声が小さく
 聞こえるのみであった。
 上を見上げると、淡い緑の新芽を抱いた木々の梢が目に留まった。
 
 アスファルトの舗装は途中で途切れ、砂利道に変わっていたが、特に気にせ
 ず歩いて行く。
 でこぼこの道を歩く度、ボストンバッグの中身がチャプン、チャプンと音を
 立てた。
 草の生えた砂利道を歩くこと暫し、新緑の木々の間に薄墨色の霞を纏ったか
 のような大樹が鎮座しているのが見えた。
 
 山桜である。
 道すがら、急な寒波でやられてはいないかと心配していたが、杞憂でしかな
 かったようであり、桜の古木は四方に広げた枝という枝に、白い花を咲かせ
 ていた。
 
 蓮の親友である山形陽介は、この花をこよなく愛していた。
 いつか、死ぬときには山桜の下で眠りたいと言っていたのを蓮はよく覚えて
 いる。
 その『いつか』は、誰もが思っていたよりずっと早くに来てしまったのだが。
 
 陽介がこの世を去ってから数十年あまりの時間が過ぎているにも関わらず、
 桜の大樹も、辺りの景色も数十年前と変わりは無いように見えた。 
 
 大樹が大きく枝を広げたちょうど真下にある小さな石の墓標が、そこに陽介
 が眠っていることを示していた。
 
 「見えてるか?……咲いてるぞ、今年も」
 
 墓標の前に座り、話しかける。
 蓮に答えるかのように、風が吹いて大樹の梢をさぁっと揺すると、白い花弁
 が舞い上がる。
 
 「うわっ」
 風雨の冷たさと肌に張り付いた花弁のくすぐったさに、思わず目を細める。
 
 と、そこに
 
 「何をなさっているのですか?」
 
 唐突に、声が掛かった。
 ハッと我に返り、蓮は声のする方を見た。
 
 ***
 
 蓮が振り返ると、いつから居たのか視線の先には女が一人佇んでいた。
 
 見た目は一見すると20代くらいに見えるが、ほっそりとした体の内側から
 滲み出る気配は、明らかに20代の女性のものではなかった。
 あえて例えるならば年経た木や石に近いような、超然とした雰囲気があった。
 
 目の前の女性が自分のよく知る人物だったことに気付き、蓮は笑みを向ける。
 
 「かずこちゃんだろう?久しぶりだなぁ」
 「やっぱり蓮さんでしたか。……しばらく見ないうちに随分と変わりましたね」
 
 蓮の目の前に立つ女性、山形かずこは微笑みつつ言葉を返す。
 数十年前、最後に会ったときには当時の自分とさほど変わらない程度の年格
 好だった筈の蓮が、いつの間にか12、3歳程度に若返っていたのは予想外
 だったようで、些か驚きを含んだ様子が言葉の中にあった。
 
 「変わっちまったのはお互い様だろ。……かずこちゃんだって随分変わっち
 まったじゃないか」
 「あら、やっぱり分かりますか?」
 「そりゃあ分かるさ。何たって『見える』からね」
 
 言いつつ、目の辺りを片方の掌で覆い隠して退けると、二つの目や鼻が消え、
 それまで目鼻があった筈の場所には大きな単眼が現れる。
 一つ目の妖怪を本性に持つ蓮にとっては、かずこが一族に伝わる『書化』と
 呼ばれる秘術によって、人でない存在になったことを見通すことは造作も無
 いことだった。
 
 会話の途中で正体の一端をちらりと明かし、相手のリアクションを観察する
 のは蓮のあまりよくない部類に入るクセであった。
 そんな彼に対し、かずこは彼女が運営する児童養護施設である『ひまわりの
 家』の子供達に対して言うように、目をひそめて言い聞かせる。
 
 「そのクセ、まだ直って無いんですね。……普通の人の前ではやってはいけ
 ませんよ?」
 「えーと……ハイ、分かってます、スンマセン」
 
 数十年前にも何度も言い聞かせ、結局直らなかったことを思い出し、かずこ
 は小さくため息をついた。
 
 そこに小さく風が吹いて、桜の花びらが宙に舞うと、その一片がかずこの頬
 を撫でるように通り過ぎる。
 くすぐったさにかずこは思わずしかめっ面を崩し、笑みをこぼす。
 
 「ふふっ」
 「うん?」
 「あの人が引き合わせてくれたのかなって、思ったんですよ」
 「……ああ、そうかもしれないな。いや、きっとそうだろう」
 
 改めて、山桜の大樹を見やった。
 眠りに就いてから数十年経った今も、陽介の意思はそこに在ることを大樹は
 示しているようだった。
 
 (どうか、ひまわりの家を、子供達を見守っていてください)
 
 かずこは声には出さず、胸の中で小さく呟く。
 だが、蓮は察しが付いたようで
 
 「……ひまわりの家のことか?」
 「ええ」
 「かずこちゃんが元気そうだから大丈夫だと思ったけど、何かあったのか?」
 「この数十年の間、ずっと色々ありましたから」
 
 微笑んで返すかずこの顔には、かすかに疲労の色が浮かんでいた。
 
 「そうか……。何か手伝えることがあったら声かけてくれよ。オレ、今年から
 潤野中に通うし、近いしさ」
 「あら、奇遇ですね。丁度ひまわりの家からも一人、あそこの中学に通うこと
 が決まったんですよ」
 「へぇ、何て名前の子だい?」
 「ふふ、教えようかと思いましたけど気が変わりました。内緒です」
 「何だよー」
 
 蓮は不満げに口を尖らせた。
 
 ***
 
 「そうだ、忘れてた。土産を持って来てたんだった」
 
 ややあってから、足元に放ったボストンバッグを開け、中からガラスのビン
 を取り出す。
 蓮がビンのキャップを開け、陽介の墓標に注ぐと、アルコールの甘い匂いが
 辺りに満ちた。
 
 「それは、お酒ですか?」
 「そう、あいつが好きだった奴だよ。かずこちゃんも飲む?」
 「……蓮さんも飲むつもりじゃないでしょうね?」
 「そうだけど、何で?」
 
 ふたたび、かずこの眉間に皺が寄り始める。
 
 「未成年者は飲んじゃいけません」
 「どうしても?」
 「どうしてもです」
 「ちぇー、相変わらずカタいなー」
 「当たり前です。……本当に、もう」
 
 いつまで経っても子供みたいに駄々をこねるんだからと、かずこはまたも溜
 め息をついた。
 
 そんな二人の様子を穏やかに見守るかのように、山桜の大樹は静かに佇んで
 いた。

時系列と舞台
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2010年3月末 山桜の老木の下で

解説
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友達の墓参りに行ったら昔なじみに出会った。


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