[KATARIBE 32340] [HA06N] 小説『再会(前編)』

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Date: Thu, 8 Apr 2010 23:21:38 +0900
From: Subject: [KATARIBE 32340] [HA06N] 小説『再会(前編)』
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蘇芳です。
他人様のキャラクターを(勝手に)借りて書いてみましたが、中々難しい;;

後編は早めに書き上げたいなぁ……。

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小説『再会(前編)』
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登場人物
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一目蓮(いちもく・れん):http://kataribe.com/HA/06/C/0839/
                                妖怪。外見年齢と実年齢が伴っていない。

本編
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 霧雨が降っていた。
 
 バスから降りた一目蓮は、身体の芯まで染み込むような寒さに思わず身を
 縮めた。
 
 3月の終わりのその日は、雪こそ降りはしなかったものの、まるで冬に戻った
 かのような寒さの日だった。
 
 背後でバスの自動扉が音を立てて閉じる。
 唯一の乗客だった蓮を山間のバス停に降ろし、バスは気だるげなエンジン音
 と共に走り去って行く。
 
 「うぅ、寒ぃ」
 
 誰に言うでもなく呟いてから歩き出す。
 山間の細い道には蓮の他には誰もおらず、時折、何かの鳥が啼く声が小さく
 聞こえるのみであった。
 上を見上げると、淡い緑の新芽を抱いた木々の梢が目に留まった。
 
 アスファルトの舗装は途中で途切れ、砂利道に変わっていたが、特に気にせ
 ず歩いて行く。
 草の生えた砂利道を歩くこと暫し、新緑の木々の間に薄墨色の霞を纏ったか
 のような大樹が鎮座しているのが見えた。
 
 山桜である。
 道すがら、急な寒波でやられてはいないかと心配していたが、杞憂でしかな
 かったようであり、桜の古木は四方に広げた枝という枝に、白い花を咲かせ
 ていた。
 
 蓮の親友である山形陽介は、この花をこよなく愛していた。
 いつか、死ぬときには山桜の下で眠りたいと言っていたのを蓮はよく覚えて
 いる。
 その『いつか』は、誰もが思っていたよりずっと早くに来てしまったのだが。
 
 大樹が大きく枝を広げたちょうど真下にある小さな石の墓標が、そこに陽介
 が眠っていることを示していた。
 
 「見えてるか?……咲いてるぞ、今年も」
 
 墓標の前に座り、話しかける。
 蓮に答えるかのように、風が吹いて大樹の梢をさぁっと揺すると、雨粒と一
 緒に白い花弁が舞う。
 
 「うわ、冷てっ!」
 風雨の冷たさと肌に張り付いた花弁のくすぐったさに、思わず目を細める。
 
 と、そこに
 
 「何をなさっているのですか?」
 
 唐突に、声が掛かった。
 ハッと我に返り、蓮は声のする方を見た。

 (続)

時系列と舞台
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2010年3月末 山桜の老木の下で

解説
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友達の墓参りに行ったら昔なじみに出会った。


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