[KATARIBE 32338] [HA06N] 小説『夜桜、夜風に舞いて』

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage


Index: [Article Count Order] [Thread]

Date: Mon, 05 Apr 2010 00:15:34 +0900
From: Subject: [KATARIBE 32338] [HA06N] 小説『夜桜、夜風に舞いて』
To: kataribeML <kataribe-ml@trpg.net>
Message-Id: <4BB8AD16.3060605@nifty.com>
X-Mail-Count: 32338

Web:	http://kataribe.com/HA/06/N/
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/32300/32338.html

ゆーふぉです。
三十分一本勝負(http://hiki.kataribe.jp/HA06/?OneGameMatchfor30Min)
だったんですが、妙に長くなりました。

三十分一本勝負 お題「道行く飲み会帰りの大学生が抗議する」

**********************************************************************
小説『夜桜、夜風に舞いて』
=============================

登場人物
--------

絹雲白華(きぬぐも・はくか):http://kataribe.com/HA/06/C/0842/
            元気少女。ボケ担当。どうやら天狗のハーフ

本編
----

 春休みも終わりに近い時期、ついでに花見の時期である。当然、夜になれば学
生たちも、勤め人も公園へと繰り出し、花見を口実に一杯引っかけ、彼女がどう
だ、仕事はアレだ、あの教授はナニだ。と、どうでもいい話を繰り広げ、そして
どこかの友人宅で安酒を夜通し飲み明かす。
 ちょっとした桜の名所であればどこでも提灯に仕込まれた電球がちらちらとす
る中、新入生が早くもサークルに勧誘されて花見に誘われたり、花見にかこつけ
て桜の下経由の二次会組がいたり、騒がしさと、浮ついた雰囲気が続く。
 昨晩からの雨が上がり、空の塵も流されたのか、春にしては澄んだ空が星をた
たえていた。高い空は月もなく、春の夜の少し肌寒い空気が桜の花弁を乗せ、吹
利の町中を静かに流れていた。

 薄墨色の桜がひとひら、鼻に乗った。
「……っくし!」
 絹雲白華(きぬぐも・はくか)は、花びらと共に盛大にくしゃみをすると、ず
るずると鼻をすすった。慌ててティッシュを取り出すと、辺りを憚らずに鼻をかむ。
「やっぱまだ寒いわねえ」
 まあ、気にするべき周囲には、誰も居るはずがなかったが。
 吹利の片隅、繁華街から離れた森林公園、しかもその展望台の頂上である。
 花見で賑わうような場所でもない、ぽつねんと寂しそうな街灯が灯るその場所
に、彼女はひとりで訪れていた。もっとも、住宅地からも離れ、わざわざ人気の
無い場所を選んているのには理由があった。
 再度鼻をすすると、天狗の面を手にする。
 といっても、携帯電話に付いている模型である。五センチ程度の大きさのそれ
は、彼女の手のひらにすっぽりと収まった。
「……むーん」
 そのまま、その面に心を集中する。
 面が燐光を放ち、そうしてそれが収まったとき、夜風に黒い羽根が舞った。
 背中の羽根を満足そうに動かす。とんとん、と高下駄を幾度か踏みしめるとに
んまりと彼女は微笑んだ。
「いぇい!」
 腰に手を当て、むやみにポーズを取った少女は、背中に羽根を背負い、修験者
の装束を纏っていた。
「ふふふ……あの五石坊とかゆー坊やにお面貰ってから、下手に浮き上がったり不
用意に羽根生えたりしなくなったし!」
 背中の羽根を肩越しに眺めて、何度か大きく振ってみる。
 辺りの夜風を巻き込んで、はっきりと分かるほど空気が動いた。吹利山に行
き、力を面に封じて貰いたった数日というのに、彼女自身が驚くほど「天狗」と
しての力が強まっているのが感じられた。
「それに、あたしだって人気の無いとこ探して……修行、したんだからねー」
 とはいえ、怪我をしないだけで、身投げと大して変わらない行為である。
「今夜こそ……今夜こそっ!」
 言うなり白華は展望台の手すりを掴み、足をかけた。
 力が強まった理由など、彼女にはあまり興味がなかった。それよりも、強まっ
た事による結果が楽しみでしょうがない。
「あい!」
 手すりにかけた足と、両手を使って、全身を柵の上に持っていく。
「きゃん!」
 両足を柵に乗せ、バランスを取りながら前へと倒れ込む。
「ふらーーーーいっ!」
 力強く柵を蹴り出した先に、地面はなかった。
 両手を大きく広げると、漆黒の羽根を思い切り動かした。
 風切り音と、急激に天地が入れ替わる感覚と、でたらめに身体を揺さぶる加速
度が彼女を襲った。
「うひょおおおおおおおっ!」
 恐怖のあまり絶叫とも、歓喜の雄叫びとも取れる声が上がる。
「と……飛べたーーーっ!」
 高度も速度も不安定、ついでに左右にふらふらと酔っぱらいのような動きだった。
 それでも、彼女は間違いなく吹利の空を飛んでいる。
 夜風が装束を揺らし、彼女の頬に桜花を吹き付けた。そのまま風圧で一瞬のう
ちに後ろへと吹き去っていく。
「すごーい! すごいすごいすごいすごーいよ!」
 最高だの、ひゃーだの、意味も無い言葉と声を羅列しながら飛行した彼女は、
飛べた喜びを全身で表現し、夜空を舞った。
 が、人外の力とて、有限な力である。
「あれ……なんか……力が…抜け……?」
 へたり、と座り込もうとして、地面がないことに今更気づきなおす。
「ひゃぁぁぁぁぁ……!」
 翼は風を掴み損ね、手足はいくら振っても姿勢が安定しない。
 なけなしの力はどうにかこうにか落下速度をゆるめただけであった。
 石よりはましな落下速度で、しかし、それでも人気の無いところを目指し、彼
女は必死に風を捕えようとした。
 川縁の桜が目に入る。それを目標に手足をばたつかせた。
 どうにか建物だけは避けられそうだと分かったときに、彼女は叫んだ。
「どいてーぇ!」
 残念ながら、桜は移動手段を持ち合わせていなかった。
 絶叫と共に彼女は桜へとダイビングする。激突の瞬間、羽根の一振りがようや
く夜風を揺らした。とはいえ、40キロの重量を支えきれない枝が折れ、花びら
が盛大に舞う。
 何度も枝に身体をぶつけながら、ようやく地面へとたどり着こうとしたとき。
再度彼女は声を上げた。
「ひゃ!」
 地面と言うにはやや高い位置で衝撃があり、それからゆっくりと彼女の身体は
地面についた。
 どうも、柔らかい何かに当たって上手いこと着地できたようだが、柔らかいが
芯があり、そしてぬくもりすら感じるこの感触は、まるで人の……。
 そこまで考えると、慌てて彼女は力を面に封じた。
 光が面に吸い込まれる間、尻の下でいくらか動きがあったが、とりあえず関知
しないことにした。
「なんだお前は!」
 やはり、人だった。
 声に驚いてようやく白華が飛び上がると、後から尻の下に挽いた男が起き上
がった。
 やせ気味の男は、見ただけで安いと分かる服装に、ついでに息はアルコール臭
かった。若いのだろうが、どうも貧乏くさい。手に持った缶ビールとつまみを見
る限り、どうやらひとりで花見をしていたらしい。寝癖が付いた男の髪は、伸び
放題であった。
 白華も周りを見回す余裕が出来ると、だいたいの事態が飲み込めるようになっ
てきた。
 土手の上に咲く一本の桜、その下にはひとりだけの酒盛りの跡。
 そこに白華が降ってきたようだ。
 足がなんとなく男から離れようと後ずさりを始めると、幾本もの空き缶が派手
な音を立てた。
「あ……あはははは……」
 乾いた笑いを男にしてみたものの、それには何も反応せず、男の肩は震えていた。
「俺が……純ちゃんの思い出に浸ってるときに……! 俺の……大学生活のやり直しの
ためにっ! そんなときに……!」
 純ちゃんって誰? などと白華が思ったとき、酔っぱらいと目が合った。
 彼女の脳の本能の部分が何かを叫んでいた。
 マズイ、絶対にマズイ。何がどうかはともかく、逃げた方が良いと。
「……このガキ!」
 彼女はスニーカーで地面と桜花を蹴った。
「うひゃぁぁ!」
 夜風に花弁が舞った。

時系列と舞台
------------
2010年4月。吹利市内にて。

解説
----
長くなりすぎた……。でも季節ネタだし!

$$
**********************************************************************


 ---------------------------------------------------------------------
http://kataribe.com/ 語り部総本部(メインサイト)
http://kataribe.com/ML/ メーリングリストの案内
http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/ 自動過去ログ
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/32300/32338.html

    

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage