[KATARIBE 32335] [HA06N] 小説『頭上の憂鬱』

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Date: Sat, 03 Apr 2010 21:49:59 +0900
From: Subject: [KATARIBE 32335] [HA06N] 小説『頭上の憂鬱』
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ゆーふぉです。
三十分一本勝負(http://hiki.kataribe.jp/HA06/?OneGameMatchfor30Min)
です。
Roleお嬢様からのお題は「友好的な雰囲気のシャム猫が突進してきた」
でした。

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小説『頭上の憂鬱』
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登場人物
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羽湯雅仁(うとう・まさひと):http://kataribe.com/HA/06/C/0831/
    山猫温泉主人、のはず。小雪の下僕。

白露:式鬼のひとり。羽湯に貸し出されている。

香坂小雪(こうさか・こゆき):http://kataribe.com/HA/06/C/0849/
    山猫温泉女将。式鬼を使う。

本編
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 二月初旬。駐車場でひとりの男が困り果てていた。
 面倒事に遭遇する、というのは一種の才能である。
 羽湯雅仁(うとう・まさひと)はそう思うことにしていた。先代から山猫温泉
を譲り受け、吹利で生活を始めてからというもの、面倒事ばかりが起きている。
(面倒なんか起こしてなんか居ない! 相手が飛び込んでくるんだ。仕方ないだ
ろ!)
 と、誰にでもなく言い訳をしてみたものの、こうも自身に降りかかってきてし
まうと、誰かの恣意すら感じてしまう。
 そもそも、こんな考えに至ったのも、頭上の体重3キロ程度の生物のせいである。
「にゃ」
 不意に頭上から間延びした鳴き声があがった。
 シャム猫。黒と白のツートンカラーで身体を覆い、青い目をした猫が、若干眠
そうにあくびをし、頭上に鎮座していた。
 彼自身の格好といえば、ハッピに猫耳という、仕事中か罰ゲーム中以外なら遠
慮したい格好であるが、その猫耳の間に器用に猫が収まっていた。
(白露! お前の仕業じゃないだろうな!?)
『違うわよ! 頼まれてもいないこと、できるわけないでしょ! 失礼ねっ!』
 猫耳に憑いている猫の式鬼にも否定され、いよいよ自分の才能だなと考えてみ
たものの、事態は一向に好転しない。
 数分前の事である。
 吹利市内のスーパーで買い物を終え、駐車場で一息ついた羽湯の目の前に飛び
込んできたのは、巨大な毛玉であった。
 羽湯が慌てて顔から引きはがした毛玉は、猫の形をしていた。彼が抱き上げた
まま、その顔を眼前に持ってくると嬉しそうに目を細め、にゃあと鳴いた。そう
して、するりと羽湯の手を抜け、器用に彼の頭に収まってしまったのである。
 何度か追い払ってみたものの、その度に毛玉となって突撃されるのでいい加減
うんざりして頭の上で放置している。猫もよほど収まりが良いらしく、羽湯もそ
れほど邪魔に感じない。それが逆になんとなく腹立たしくもあった。
「なあ……もしかして、なんか用があるのか?」
 彼は、愛用のバンに寄りかかりながら、答えを期待しない問いを頭上に投げか
けていた。
「……にゃーあ?」
 答えたような答えないような曖昧な声が返ってきて、それから、ぽんぽんと頭
を肉球が叩く感触がした。
(……白露、この猫と話しできたりするのか?)
『待ってました! ……』
 そう言った後の返答が無い。いや、なにかもぞもぞ言っているが、どうもよく
分からない。甘ったるいような、人語ではない何か、どうも要領を得ない。
「なー……ごろごろ……ふぃぎゃー…にゃー」
 頭上の猫も急に騒がしくなる。
(……白露? 待ってました?)
『なー? ごろごろ……ふにゃーぁ』
 どうも白露も猫も、様子がおかしい。
(白露、お前もしかして……)
『やっぱこの猫、イケメンよねー?』
 酔ったような、いまいち焦点の合わない声が返ってくる。
(……まさか?)
『いやね、色目使った訳じゃないけど、ほら、目があったし……ね?』
(つまり何か? この猫……俺が気に入ったんじゃなくて……?)
 羽湯は大体の事情を把握した。つまり、彼の頭上の猫は、羽湯が気に入ったの
ではない。
 早い話、白露が何かの拍子で「見えた」ところ、彼(?)の好みの姿だったよ
うだ。
 そこまで合点がいったところで、猫も満足したのか、さっさと駐車場の隙間へ
と消えていった。
『まー……お話しだけだし……ね』
 精一杯ぶりっこしてみせる白露に、羽湯の声は冷たかった。
(あー、うん。そーだね)

 後日、この件を使役主である香坂小雪に確認したところ。
「イケメンならしょうがない」
 という一言で不問にされ。羽湯のストレスが増しただけの結果となった。

時系列と舞台
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2010年2月。吹利市内。

解説
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※ただしイケメンに限る。

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