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Date: Tue, 6 Oct 2009 01:04:08 +0900
From: Subject: [KATARIBE 32271] [PW01N]小説:静かなる旅人
To: kataribe-ml@trpg.net
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自キャラと遺物の紹介的なショートストーリーです
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ヘイツは砂浜を歩いていた。
その夜は祭りで村は騒々しく、ヘイツはなんとなく気分が乗らなかったので海岸を散歩していた。
海の方を見ると、明るい月が出ていて、灰色の細長い雲がいくつか浮かんでいる。
遠くに聞こえる祭りの笛の音を聞きながら、ヘイツは一族の呪具の事を思った。
(あんな器械にばかり頼ってるから・・)
ヘイツの一族は網界の信徒と呼ばれており、共信器という名前の、片手で掴める大きさのわけのわからない箱を通して、お互いに交信したり網界からの信号を受け取ったり出来る。
一族の多くの者は、この箱を通してお互いに他愛もない話をする事に、多大な時間を費やしていた。
この箱を魂のように大切にしていてずっと手放さない者も多い。
網界とは、一族の祭器でしか知ることが出来ない、膨大な量の知識が集まっている世界・・・らしい。神官たちはもっと何か難しい言葉を使って説明したのだが、ヘイツには難解なだけでどうでもいい事のように思われた。
一族はその世界の熱心な研究者でもあり、時たま解読に成功すると、皆でそれを共有しあって喜んだ。
今日の祭りも、何か重要な知識が解読されて、その記念らしい。
それが何の知識かはヘイツは知らない。ヘイツは今日共振器を手に取らなかったし、その内容に興味が無かった。
私も将来は解読の仕事をさせられる事になるのだろうか。永遠に続く呪具からのメッセージに縛られながら・・・
ヘイツははあ、とため息をついた。
ずっと歩いていたので、気がつくと浜辺が終わって茂みになる所まで来ていた。
笛の音はもう聞こえなかった。演奏が終わったのだろう。
・・・
違う・・・
ヘイツは何か決定的な違和感を感じた。
波の音が・・・
潮騒の音が小さく、低くなっていた。
ヘイツは海の波を注視した。月光の下何の変哲もないいつもの波が、しかし不気味に寄せては反している。
波の音はどんどん小さくなり、ついには消えてしまった。
私は、耳がおかしくなってしまったのだろうか。
とてつもない不安に駆られ、周囲を見回した。
茂みの方を見ると、木の枝の上に一匹の賢鼠が座っていて、こちらを見ているのに気づいた。
賢鼠はその名前の通り賢い鼠で、石を使って固い実を割って食べるという話も聞いた事がある。大きさは普通の鼠より大きく、広げた両手を合わせたほどもある。毛の色は透き通るように白い。
しかしヘイツが注目したのは鼠では無く、鼠を挟んでいる異質なモノだった。
'それ'は、二つの円筒形のふたが、強く湾曲した黒くて固い素材によって繋がっている・・・何かだ。
ヘイツは'それ'が何なのかは分からなかったが、この世界には似合わない、明らかに異質なモノに思えた。
ーーこの世界に似合わない、異質なモノ。
思い当たる節があった。ヘイツは足を踏み出した。この不思議な現象も、おそらく'それ'が原因だろう。
一気に心拍数が上がる。'それ'を手に入れたい。
砂を踏む音が聞こえなかったが、気にしなかった。'それ'まであと三歩というところで、自分の呼吸の音も聞こえなくなった。
さらに一歩進むと、心拍数が下がり、血の気が引くのを感じた。体を動かすのが億劫になる。'それ'の影響はだんだん強くなっているらしかった
さらに一歩・・・意識が遠くなった・・・なんとか手を伸ばす・・・もう少しで倒れてしまうだろう・・・
ヘイツは次の一歩を踏み出す事が出来ないと悟った。力が入らなかった。立っているだけで精一杯だ。こちらを見つめている賢鼠が、嘲笑っているように思えた。
もう倒れる・・・そう思った時、鼠が木から滑り落ちた。そして'それ'もカタッと音を立てて枝にぶつかり、地面に落ちた。潮騒が聞こえる。
ヘイツは再び体に活力が戻ってくるのを感じる。ヘイツはまた一歩を踏み出し、'それ'、すなわち遺物を掴んだ。
青銅とも石とも木とも違う感触だ。
ヘイツは、それまでの現象から、それがとても強力な遺物ーーヘイツの一族に祭られているものよりも強力なーーものであると確信していた。
次の朝が来たとき、ヘイツは一族から旅出った。
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