[KATARIBE 32264] [HA21N] 掌編群『大水の祓・ログ7』

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Date: Sat, 12 Sep 2009 00:06:31 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 32264] [HA21N] 掌編群『大水の祓・ログ7』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2009年09月12日:00時06分31秒
Sub:[HA21N]掌編群『大水の祓・ログ7』 :
From:みぶろ


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掌編群『大水の祓・ログ7』 
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登場人物 
-------- 
 鹿神真乃(かがみ・まの)   :宗教結社照真教の教主。身体が弱い。
 サンザシ(――)       :秘密結社M∴F∴Cのメンバー。
 片桐壮平(かたぎり・そうへい):零課の刑事。真乃に関かわる事件を追う。 
 真越誠太郎(まこし・せいたろう):通報者。
 刑部朋子(おさかべ・ともこ) :信者。
 刑部久仁子(おさかべ・くにこ):朋子の義妹。テレポータ。

日時
----
 入り乱れている。おおむね2008年秋から2009年夏まで。

本文 
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<刑部久仁子>
 刑部久仁子の瞬間移動能力は、義父の暴力から逃れるために発現した。酒臭
い息、下劣な罵声、自室のドアのきしみ等から逃げるために。発動するたびに、
殴られる瞬間のきな臭い匂いがするには閉口したが。
 能力に目覚めるまで、久仁子を庇ったのが義姉の朋子だった。朋子はおとな
しく従順な性質ではあったが、父の暴力癖の兆候を注意深く拾い、久仁子の被
害を小さくした。久仁子が高校を卒業すると、二人は家を出て共に暮らした。 

 朋子は地方公務員になった。彼女はそれなりに勉強ができたから、望めば大
学に進学することもできたが、早く独立することを選んだ。久仁子は、アルバ
イトをかけもちしながら、公的機関の「運び屋」も行っていた。
 4年後、朋子が照真教に入信し、部屋を出た。


<刑部朋子>
 照真教は知名度が高いとはいえなかったため、久仁子はそこがどのような集
団かまったく見当がつかなかった。久仁子は考えた。どのようなところかはど
うでもいい。どうせろくでもないに違いない。朋子は騙されているのだ。そう
考えた久仁子は、有無を言わさず連れて帰ることにした。むろん、瞬間移動能
力は大いに役に立った。
「くにちゃん、やめて。あたしはあそこでしか生きられない」
「ともちゃんは騙されてるんだって」
 朋子はずいぶんと痩せていた。目だけが大きくぬらぬらと濡れていた。
「だいたい、仕事はどうするの」
「やめるわ」
「まともじゃない」
「まとも?」
 朋子が久仁子の両肩をつかむ。
「まともなあたしってのは、毎日役所に行ってのろのろとエクセルの打ち込み
をして、他人の気に障らないことだけを考えて隅っこでこそこそしているよう
な?」
 朋子の爪が引き絞られる。
「あそこでは、私が私でいられるの」


<カガミさま>
 初めてカガミさまにお会いしたときの衝撃を、どう伝えたらいいのだろう。
「あとは、自分のためだけに生きましょう」
 そうおっしゃって、手を握ってくださった。自分のために生きる、そんなあ
たりまえの気持ちすら凍えていた、私の心をじんわりと溶かすように。
 カガミさまのお言葉は、文字にしてみるとごく普通で、他の信者さんにおか
けしているのをお聞きしても、やっぱり、普通。過度に説教めいたことも、な
にかを信じよと言うわけでもない。ただ、その人にとってもっとも必要な言葉
をかけてくださる。渇いた人に清水を浴びせるように。
「……悔しいんです、私には、自分のために生きる時間さえ」
「わずかでも、自分のために使える時間があると気づいたじゃない」
 私は嗚咽しながら何度もうなづく。
「それに、あなたの死期は私のそれとそう変わらないわ」


<符薬>
 もらったのは、文様の入った親指の爪ほどの紙と、水薬だった。茶碗に移し
た水薬に言われたとおり紙を落とすと、ゆらゆらと揺れながら溶け、水面にうっ
すらと文様が溶け出た。これは本物なのだ、と宇賀さんは言った。きっとそう
なんだろう。くにちゃんのような力を、カガミさまたちが持っていても全然ふ
しぎじゃない。私が私であるためのきっかけも時間も、カガミさまがくれるの
だ。そう感謝しながら私は薬を飲み干した。


<協力者>
「宜しくお願いします」
 背筋を伸ばして頭を下げる姿は、一見どこにでも居そうな普通の
会社員にしか見えなかった。
「ええ、こちらこそ宜しくお願いしますよ」
 刑部久仁子と名乗るこの女性、人とは違う特殊能力と照真教に対
する浅からぬ因縁があるのだという。
「……何分、これまで後手後手に回っとるのが現状でな」
「はい」
 その目は静かな色を湛えているが、その奥に言葉に出来ない何か
があるのを、片桐は直感で感じ取っていた。
「協力お願いします。危険な賭けになるかもしれませんが」
「ええ、覚悟の上です」


<嘘>
「ねえサンザシ、朋ちゃんにあの薬をあげてよかったのかな」
「指示なさったのはカガミさまじゃない」
「だって、あのままじゃ2ヶ月くらいで死んじゃう。それじゃあんまりよう」
「あの薬を飲ませれば、少なくとも半年はもつわ。それでいいじゃない」
「でも、なんだか不自然な気がするのう。それに、私のための実験台なんて」
「気にしすぎよ。彼女には時間が、私達にはデータが。みんなハッピーよ」
「本当に?」
「本当に」


解説 
---- 
刑部久仁子 瞬間移動能力者。
刑部朋子  本人が幸せならいいじゃないか。
カガミさま カリスマ。
符薬    <水>
協力者   義姉を救うために。
嘘     人ならざるものに変わることは教えなかった。


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