[KATARIBE 32261] [HA21N] 掌編群:『大水の祓・ログ5』

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Date: Tue, 18 Aug 2009 22:33:52 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 32261] [HA21N] 掌編群:『大水の祓・ログ5』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2009年08月18日:22時33分52秒
Sub:[HA21N] 掌編群:『大水の祓・ログ5』:
From:みぶろ


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掌編群『大水の祓・ログ5』 
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登場人物 
-------- 
 鹿神真乃(かがみ・まの)   :宗教結社照真教の教主。身体が弱い。
 ニンギョウ(――)      :秘密結社M∴F∴Cのメンバー。
 当麻漣(たいま・れん)    :フリーの退魔士。真乃に協力する。
 片桐壮平(かたぎり・そうへい):零課の刑事。真乃に関かわる事件を追う。 

日時
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 入り乱れている。おおむね2008年秋から2009年夏まで。

本文 
---- 
<夢鏡>
「次に雨の降る晩には、山に出かけちゃだめよう」
 追ヶ淵に向けてマークXのハンドルを握るニンギョウの耳に、真乃の声がよ
みがえる。
「代表、いまのとこ、右っす」「あ、そうだったか」
 信者の声で我に返った。いまさらひきかえすわけにもいかない。
「代表、ワイパ、換えたほうがいいっすよ」
 古くなったワイパは雨を蹴散らすたびに、フロントガラスの上で苦しそう
にのたうち、びびび、と不愉快な音とともにガラスの上に縞をつくる。そして、
前を行く車のテールランプをいくつも映し出す。
「こうなると、もうだめっす」


<内容は大違い>
「警察は、できるだけ巻き添えにしようとしている、ってとるだろう」
「客観的にはそうみえるかもしれない。しかし、巻き添えじゃなくて身代わりだ」


<サイコキノ>
 雨が森に落ちる音がする。楢の広い葉に受け止められ、下生えを濡らし、根
の窪にいる蛙を潤してゆく、幾重もの音がする。異界の淵にはない温かい音と
匂いがある。
 無事に現世に還ってきた<鈍器>を待っていたのは、突然の呼吸困難だった。
血とともに吐いてしまった息はもう戻らない。どれだけ力をこめても、念動で
横隔膜を無理やり下げても、喉が鳴るだけだ。
「あんたが行ってくれることになって、本当にありがたいよ」
 ふいに、<鈍器>は壁を押している自分に気づく。いや、押しているのは壁
ではなく地面だ。倒れたのだ。倒れる過程で刹那の失神をしたために気づかな
かっただけだ。朽ちた葉の匂いとともに、地面にたまっていた雨水が口に入り
込む。破られた肺ではそれを吐き出すことはできなかった。
「…て… 」
 もはや声帯はかすかにしか震えない。肺胞がさわさわと音を立てて喰われて
ゆく音。
 <鈍器>は最期の力で、持っていたパチンコ玉をすべて浮き上がらせ、声の
方角めがけて飛ばした。 
 
 サイキックにとって、体力は問題とならない。感情こそが能力の根源。特に、
<鈍器>の力は怒りをキーエモーションとしている。真乃をあんな身体にした
存在への怒り。治そうとする自分たちを邪魔する者らへの怒り。短絡的だが直
線的で暴力的なその想いは、物体に加速度を加えるという単純な能力を必殺技
と呼べるレベルに仕上げていた。裏切者に対する最期の一撃は、樹々をやすや
すと貫通する無差別飽和攻撃となって、対象をどんなに貧しいスラムでも見向
きもされないほどのぼろきれにするはずだった。
「正確に位置が把握できない以上、円錐形にしか撃てない。となれば、距離を
とれば届く鉄球の数も限られるということだな。念動を相手の体に直接当てら
れない単純なキノなんて、いくらパワーがあっても、な」
 漣の身体に当たるずいぶんと前に、森を引き裂いたパチンコ玉は雲散霧消す
る。<鈍器>は幸いにも既に、当たらなかったことを悔しがる状態にはなかっ
た。
「そんな顔するなよ」漣は倒れた<鈍器>のまぶたを撫でる。「ちゃんと届け
るさ」


<分析>
「5日後なんですが、それまでもつと思いますか。率直なご意見を賜りたいの
です」
 センミツは、相変わらずツボを心得ていた。漣の最も知りたい情報を差し出
し、センミツの最も知りたい情報を引き出そうとしている。
「サンザシは?」
「死にました。ただ、隠形符を残して行ってくれています」
「令状はとれない。探知はされるだろうが、証拠が間に合わないだろう。零課
が単独で踏み込んでくる可能性も高くない。やつらはメンバーの減少を知らな
いから博打は打てないし、一気に殲滅するほどの罪状があるわけじゃない」
 漣は自分の知る零課の情報にセンミツたちの現状を加えて、確度の高いと思
われる分析を語った。情報の対価は情報。それが漣の住む世界のルール。
「うまくいくと思いますか」
「知らんよ」
 センミツは透明に微笑んだ。およそこの男には似つかわしくない笑みだった。
漣は煙草を取り出した。センミツも右手で拝むような形を取って、漣の煙草を
箱から一本抜き取る。
 黙って差し出されたライタの火が短い灯りをともした。まるで彼の希望その
もののように。

<真乃>
「私は、あの人たちの気持ちを裏切れない」

<単独行動>
 何かが起こらなければ、警察は動けない。
これまでにも、何度となく歯がゆい思いを噛み締めたことがある。
 煙草をもみ消して、指先を軽く払う。
「さて」
 くせっ毛の髪をボリボリとかいて歩き出す。

『大したことができてもできなくても、
  それぞれに世のためになってるんだよ』

 記憶の片隅に残った彼女と今の巫女様の姿との、僅かに噛み
合わないずれ。
「もう、他に手段はない、か」

解説
----
夢鏡    <ニンギョウ>は<鈍器>を迎えにゆく。そのまま還らない。
内容は大違い しかし被害はあまり変わらない。
サイコキノ 荒事とはこうやる。
      彼女の死により、漣の提供した水へのアクセス路は断たれる。
分析    漣は、研究施設の痕跡隠蔽が不完全だったことを知らなかった。
      二流のそしりは免れない。
真乃    この少女はすべてを受け入れてきた。
単独行動  組織にとっての不安要素であるが、必要な要素でもある。


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