[KATARIBE 32260] [HA06N] 小説『旧友の訃報 1』

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage


Index: [Article Count Order] [Thread]

Date: Wed, 12 Aug 2009 00:26:47 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 32260] [HA06N] 小説『旧友の訃報 1』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <20090811152647.BBBB730680A@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 32260

Web:	http://kataribe.com/HA/06/N/
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/32200/32260.html

2009年08月12日:00時26分47秒
Sub:[HA06N]小説『旧友の訃報 1』:
From:久志


-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
小説『旧友の訃報 1』
======================

登場キャラクター 
---------------- 
 相羽尚吾(あいば・しょうご)
    :吹利県警刑事。なぜか世話係がつく:3を持ってる。きっと。
 相羽真帆(あいば・まほ)
    :相羽の妻。霊を実体化させる能力を持っている。

相羽 〜突然の電話
------------------

 いつからこの家に住んでいるか、もう遠い記憶に埋もれている。
 物心着いた頃からずっと変わらず住み続けて、中学高校大学での連絡先にも
全て同じ住所で。
 相羽くんは連絡先はずっと変わらないのに本人がいつもいないのよね、と。
同じ高校、同じゼミだった子に笑いながら言われた事がある。

 鳴り響いた電話のベルを聞いて、そんなことを思いだしたのはひょっとした
ら予感だったのかもしれない。

「はい、相羽ですが」
 片手で縹の手を摘まんでゆらゆら揺さぶりながら、受話器をとった真帆の
横顔を眺める。

『こんばんわ、夜分にすみません。紅雀院大学で、一緒だった山西です。尚吾
さんはご在宅ですか?』
「あ、はい。少々お待ちください」
 よそ行きの少し硬い声が和らいで、受話器の口を押さえて相羽を見る。
「尚吾さん、山西さんって方から電話」
「え? ああ、うん」
 人と出会うことは多い職種だということは相羽も自覚している。そして山西
という名の人物で思い当たる節はいくつかあった。
「朱雀院大学で一緒の……って」
「ああ」
 するすると結び目が解けるように、記憶の糸が繋がる。
 大学時代のゼミ仲間。
「もしもし、俺」
『おう、相羽。久しぶり』
 その声は昔と変わっているようで余り変わってない。
「うん、久しぶり」
『というか、お前たまには同窓会来いよな』
「ああ、ごめんごめん、今度はちゃんと顔出すから」
 連絡がないのは無事の証拠、とは体のいいいい訳で。何かと仕事の忙しさに
かまけて不義理を続けているだけに、言葉が耳に痛い。
『まぁ……それはいいとして、本題になるけどな』
 笑いが消えて。

『石田先輩が、亡くなった』

「……え?」
 思わぬ名前に一瞬止まる。

 大学時代、一人でふらふらとしていた相羽に声をかけ「一人も二人も変わら
ないから家でメシを食っていけ」と、豪快に笑っていた顔を思い出す。

「……そう……予定、とかは」
『ああ、明日通夜で……明後日に葬式。俺は両方出るつもりだけど、お前も
通夜くらいは顔だせ』
「ああ、わかった」 
 手近のメモに時間と場所をメモにとり
「史の奴んとこにも、ああ、わかってる……じゃあ、またこっちから連絡する
から」
 受話器を置いて顔を上げると、すぐ前で縹を抱えたままの真帆と目が合った。
相羽の様子から、状況を察した風にじっと黙っていた。
「真帆、白シャツと喪服だしといてくれる?」
「……うん」
 膝の上の縹を下ろして立ち上がる。

「きゅ」
 見上げる縹の目を見て、そっと頭を撫でた。
「……あの人が、ね」
「きゅぅ」
 人の生き死にに一番近い仕事をしていても、未だに慣れはない。

 ぱたぱたと、両手に白ワイシャツと喪服をかけて真帆が戻ってくる。
「ありがと」
「シャツ、アイロンかけておくから」
 あえて何も言わない真帆の顔を見上げる。
「大学のさ……先輩」
「……お幾つ?」
「俺のひとつ上」
 口をつぐんで眉根を寄せた。
 そこに続こうとした言葉は、相羽と同じだった。
「ガンが見つかったって史から聞いたのはこないだだったはずなんだけど」
「……ああ」 
 検査でガンが見つかったそうだ、と。
 史久の口から聞いた時は、それがこれほど早い終わりを迎えるとは思っても
いなかった。年明けに手術するそうです、と。それだけで頭のどこかで大丈夫
なのだろうと勝手に思っていた。
「……見つかるの、ちょっと遅かったみたい」
「ご家族の方も……泣いて泣ききれないでしょうに」
 奥さん――ゼミで同じだった子と、まだ赤ん坊の時の姿しか思い出せない
一人娘のこと。
 縹の頭をそっと掴むように撫でながら。
「今は仕事はなんとかなるから、明日史と一緒に通夜に行ってくる」
「はい」

 そのままシャツを伸ばしてアイロンをかけに戻ろうとする真帆の背中を見、
そこからふと視線を上げて。
「真帆」
「はい?」
 棚に飾ってある、あみぐるみを指差して。
「そこらの、なんか一個持ってっていい?」 
「え?……あ、うん、勿論」 
 ひょいと、作り置いたあみぐるみをとってテーブルに並べて。
「どれでも……持ってってあげて下さい」
 ころんと、テーブルの上に転がったあみぐるみをひとつ手にとって。
「お子さん、こないだ赤ん坊だとおもったらもう小学生だっていってたから」
「…………ぁあ……」
 それきり、言葉もなく顔を歪ませて。
「じゃあ、これ、ひとつもらってくよ」
「……はい」
 それ以上、言葉もなく。
 くるくると、真帆の相羽の顔を見比べるように縹の目が目を瞬かせた。


時系列 
------ 
 2009年08月付近
解説 
----
 相羽家に掛かってきた一本の電話、旧友の訃報を聞いて。
 http://kataribe.com/IRC/KA-04/2009/08/20090809.html#230000
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
以上。



 ---------------------------------------------------------------------
http://kataribe.com/ 語り部総本部(メインサイト)
http://kataribe.com/ML/ メーリングリストの案内
http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/ 自動過去ログ
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/32200/32260.html

    

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage