[KATARIBE 32254] [HA21N] 掌編群:『大水の祓・ログ2』

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage


Index: [Article Count Order] [Thread]

Date: Mon,  3 Aug 2009 20:16:41 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 32254] [HA21N] 掌編群:『大水の祓・ログ2』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <20090803111642.05D4F49DB02@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 32254

Web:	http://kataribe.com/HA/21/N/
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/32200/32254.html

2009年08月03日:20時16分41秒
Sub:[HA21N] 掌編群:『大水の祓・ログ2』 :
From:みぶろ


******************************** 
掌編群『大水の祓・ログ2』 
=========================== 
登場人物 
-------- 
 鹿神真乃(かがみ・まの)   :宗教結社照真教の教主。身体が弱い。
 ニンギョウ(――)      :秘密結社M∴F∴Cのメンバー。
 当麻漣(たいま・れん)    :フリーの退魔士。真乃に協力する。
 片桐壮平(かたぎり・そうへい):零課の刑事。真乃に関かわる事件を追う。 

日時
----
 入り乱れている。おおむね2008年秋から2009年夏まで。

本文 
---- 
<自傷>
 溶け落ちた実験体の残渣を処分し、サンザシは嘔吐した。自らの行為の醜悪
さにではなく、真乃を救うことのできない自らの無能さに対する嫌悪から。


<明暗>
 ゆらゆらと煙草の細い煙が昇っていくのを見上げながら。
「どこかで、理解している自分がいます」
 隣に座った真越の淡々とした言葉を聞きながら。
「理解していて、なお」
 どこを見るでもないその目はどこか諦めの色を深く浮かべながら。
「なす術もないということが、どれほどの絶望か」
「そう、か」
 同意の言葉も慰め言葉も片桐には浮かばなかった。どれほど頭を絞っても
言葉を尽くしても、彼にはそして彼らにも届きようもないことがわかっていた。
「片桐さん、悪魔に魂を売ってもいいと思ったことがありますか?」
 静かな言葉。
「私には……あります」
 疲れたように笑って、真越はそのままうつむいた。
「……今日も、見舞いか?」
「はい」
 顔を上げて腕時計を見る、病院の面会時間間近なのを確認して。
「それでは、そろそろ行きます」
「おう」
 頭を下げて歩いていく背中を見送って、深く息を吐く。
 真越は定期的に廃人となった中嶋和人の見舞いを続けている。
絶望から水に手を出し、そして破滅した者。これまでに水に関わった
者の末路から考えて、生きていることすら奇跡と言っていい。
「…………水際の一線、か」
 同じく絶望を知りながら、明暗を分けたのはなんだったのか。
軽々しい答えは片桐には出せない。
 ただ、水という要素を差し引いても。無力さと苦しみは中嶋にも
真越にも、そして彼らとっても逃れようのない事実だ。
 ねじりこむように傍らの灰皿に煙草を押し付け、片桐は公園を後にした。


<増水>
 モルモットに志願する信者には本当に助かっている。


<不能>
 真乃の病気の原因は、一種の呪いであった。強力な妖物の贄としての徴であ
る。解呪できる者はこの世に存在しないと、すべての術者に言われた。彼らが
選択したのは、<水>による呪痕の洗浄であった。


<信者>
 デジカメで撮られた当人の姿は差して特徴的でもなく、そこらを
歩いている若者達と並べてもなんら変わりのない、ごく普通の青年
という印象だった。
「彼が、先月から」
「はい」
 憔悴しきった母親の語るところによると、この青年が照真教に
入信したのは一ヶ月前。そしてそれきり家に戻らなくなった。
「問い合わせても『個人の意思』の一点張りで」
「わかりました、連中の動きはこちらでも目に余るものになり始め
てますから」
 目の下のくまを見やり、極力不安を煽る言葉を避けながら肩を軽
く叩く。
「また、ご連絡しますから」
 次に彼女に連絡をする時を思うと気持ちが沈んだ。
 彼がどんな状況に陥っているかという確証はない。だが、こう
いったときに感じる直感というものは、嫌なものであればある程
不気味なほどに当たるものだ。


<通い路の歌>
「――そうして岩鼻郷の境にある槐まで歩く。一種の禹歩だ。雨が降ってきた
ら逆方向に。途中で蛇を見たら、緑色のやつを追う」
 さっきまで降っていた雨はすでにやんでいた。
 漣の周りには濃く霧が立ち込めている。霊感のないアタシにはわからないが、
なんらかの術なのだろう。
「それで」
「追っていけば泉に着く。途中で『何を見ても』引き返してはならない」


<無人>
 踏み込んだ先に、信者の姿は影も形もなかった。
予期して姿をくらましたのか、あるいは既にそこに居ないのか。
 がらんとした部屋は人が住んでいた形跡はなく、教団に居たと
される大勢の入信者達の行方はようとして知れなかった。


解説
----
自傷 この練丹師は後に自殺する。
明暗 家族を失う人たち。
増水 ひたひたと増えてゆく不幸の量。
不能 人では解呪できない。たとえ人ならざるものを使おうと。
信者 なりふり構わず。
通い路の歌 <水>へのアクセス経路。
無人 照真教への強制捜査。予知能力は伊達じゃない。





 ---------------------------------------------------------------------
http://kataribe.com/ 語り部総本部(メインサイト)
http://kataribe.com/ML/ メーリングリストの案内
http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/ 自動過去ログ
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/32200/32254.html

    

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage