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Date: Thu, 30 Jul 2009 22:47:00 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 32253] [HA21N] 掌編群:『大水の祓・ログ1』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <20090730134700.2805449DB02@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 32253
Web: http://kataribe.com/HA/21/N/
Log: http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/32200/32253.html
2009年07月30日:22時46分59秒
Sub:[HA21N] 掌編群:『大水の祓・ログ1』 :
From:みぶろ
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掌編群『大水の祓・ログ1』
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登場人物
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鹿神真乃(かがみ・まの) :宗教結社照真教の教主。身体が弱い。
ニンギョウ(――) :秘密結社M∴F∴Cのメンバー。
当麻漣(たいま・れん) :フリーの退魔士。真乃に協力する。
片桐壮平(かたぎり・そうへい):零課の刑事。真乃に関かわる事件を追う。
日時
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入り乱れている。おおむね2008年秋から2009年夏まで。
本文
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<望み>
いっそ、真乃にも我々にも、特別な力などなければよかったのに。
あらゆる、たいしたことのない手を尽くした末に、静かな絶望を傍らに、穏
やかな日々を過ごせたかもしれない。
少しばかり反則をすることができたために、目こぼしを期待して今に至るま
で悪あがきを続けている。
希望というのは絶望より恐ろしいぞ、当麻。
そうニンギョウは吐き捨てた。
<カルテ>
びらん性多臓器不全。病院のカルテにはそう書かれていた。未知の症例なの
で治療法は研究しながら探っていくことになるらしい。もちろん、まったく役
に立たなかった。
拝み屋にも頼った。もっともらしいことを言いながら儀式をするやつらは贋
者で、本物は話が持ち込まれる前にうまく逃げていた、ということを知ったの
はしばらく後だ。
<忠告>
あんたらが荒事で解決しようというのが間違いだよ。経験者はいないし、情
報も足りない。なにより守るべきものが明白すぎる。せいぜいが間抜けな信者
をだまくらかして社会不安を生成するくらいだ。
遺物の強奪なんて夢はみないことだね。
<追手>
アパートの廊下一面に、水で濡れた足跡が残っていた。どんな生物にも似て
いない足跡だった。<夜光虫>に食わせてみても正体が知れない。
「撒いたと思ったが、案外手の長いやつだな」
漣は煙草を吐き出して、ティンバーランドのデッキシューズで踏み潰した。
<水面下>
嵐のような多忙さの中で埋もれていた記憶。
一度だけ話した彼女の顔をまったく違う形で掘り起こす、以前とは少し違う
目で。 写真に映し出された顔はあどけないようで、だが確かに常人離れした
何かがあると、積み重ねた勘が告げている。
途切れた糸の切れ端、その先にあるものはなにか。
<遣い>
荒涼としていた。地面はゆるやかな起伏を描いてどこまでも広がっている。
低い道が一本、泡立つ地平線に向けて蛇行していた。干上がった河の跡であろ
う。空は埃っぽい色をしていて、羽虫を殺した後のオゾンのような匂いがする。
耳障りな音に足元を見れば、錆色と骨色をした鉱物の細かい結晶が地表を埋め
ていた。
「これは覚えることのできない夢なの」
傍らに立つ真乃がつぶやいた。「避けようのない悪いことは、起きても覚え
ていないの」
丘陵を越えた向こうの向こうの河床から、馬ともども包帯でぐるぐるになっ
た、蛇面の騎士がこちらを見ていた。
解説
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望み 真乃の兄であるニンギョウの独白。
カルテ 真乃の病状の客観的説明。
忠告 漣の忠告。彼は後に荒事の手本を見せ付ける。
追手 深入りした漣への報い。
水面下 「現在の」真乃をみた片桐の予感。
遣い 夢。カウントダウン。
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