[KATARIBE 32248] [HA06N] 小説『花華闇の鬼・7』

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Date: Sun, 14 Jun 2009 01:16:11 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 32248] [HA06N] 小説『花華闇の鬼・7』
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2009年06月14日:01時16分11秒
Sub:[HA06N]小説『花華闇の鬼・7』:
From:いー・あーる


どーも、いー・あーるです。
話全然進まないです。

まいど進まないです。
ちっとも進まな(撲殺)

……ちうわけで。

**********************
小説『花華闇の鬼・7』
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登場人物
--------
 小池国生(こいけ・くにお)
   :小池葬儀社社長。その正体は異界よりきたる白鬼。
 六華(りっか)
   :一年中生きていられる冬女。国生と一緒に暮らしている。


本文
----

「……でも本当に、兄は綺麗な人だったの。多分あたしよりずっとずっと」

 ぼんやりと、両手に挟んだ湯飲みを眺めつつ、妻が言う。

「なのに、自分は男で……あたしは……ああいう場所とは言え、大切にされて
いるように、見えたんですね」
 
 象牙色の肌に漆黒の髪。名工の手がけた人形のような小さな顔は、何時もと
異なり確かに人形のように見える。極上だけれども、人形のような。

「……何が、あったのかな」 

 繰り返し見る夢の中で、六華は少しずつ過去を思い出しているという。やつ
れた顔の母、彼女には常に仏頂面であった父。その過去は決して彼女に優しい
ものでないことは、やつれたような六華を見れば判るのだが。

(けれども)

 飛び飛びの過去を、六華はまだ全て繋げているわけではない。それで言うな
ら恐らく、古書店で国生の出会った『恐るべき腐女子達』のほうが、大体の成
り行きを正しく推理している可能性がある。

(……けれども)

「……苦しいかもしれませんが、もう少しだけ。話を聞かせてください」 
 彼女達の推理が正しい場合、六華の兄は確かに被害者でもある。それを知っ
た時に、六華がどうするか。
 勝気で、人に対しては相手の生を肯定し切る癖に、自分のこととなると妙に
自己評価が低いことは知っている。その場合、兄が被害者であると知ったら、
六華は同情するのではないか。

 同情して。

「……え」 
 かけられた声に、六華は困ったように顔を上げた。
「えと……例えば、どんな?」 
「お兄さんのこととか……もっと憶えていませんか?」
 優しい声に、六華は考え込みながら頭を後ろにそらした。
「私は、十で売られたから……そこまでしか兄のことを知らないんです」
「……それまででいいです」 
 如何にも傲慢な顔を憶えている。
 ただ、それは六華の記憶にあるものとは……違うのだろう。
「どんな人だったか……少しでも」 
 それを知りたくて問うた国生に、六華はゆっくりと口を開いた。
「……綺麗な、人でした」 
 その頃の六華を思わせる、どこかしら幼い声だった。


「私達、母に似てるってよく言われました。母はやつれてたけど綺麗だった。
でも、兄はもっと綺麗だった」
 かつて御職……その店一の太夫にまでなった六華は、極上の日本人形を思わ
せる顔立ちをしている。彼女が素直に『綺麗だった』という兄は。
「……はい」
 顔立ちが綺麗。それについては国生も頷く。
 けれども。
「……あ」
 内心……あくまで内心、苦い思いになった国生は、その声にふと意識を引き
戻した。
 どこかぽかん、としたような表情が、六華の顔に浮かんでいた。
「小さい時に……兄が、虫を取りにいったんです。あたしはまだ、小さくて、
でも兄についていきました」 
 あれは確か、まだあたしが四つかそこら、と、小さく呟いて。
「虫の居る木に着いて、兄は虫を探してたけど……あたしはくたびれて、座り
込んだんです。そしたら兄が躓いて、そして膝をすりむいた」 

 六華自身も、どごっと脇腹を蹴っ飛ばされたという。まあ、互いに無意識の
こと、大して痛くもなかったそうなのだが。

「……膝を確かめてたのかな。しゃがみこんで黙っていた兄は、振り返って」 
 一瞬、六華の表情が歪んだ。
「あたしを、ふっとばしました」 
「っ」 
「怪我しただろう、傷がついただろう……って」 
 その時の痛みを思い出したのか、六華が無意識のうちに後頭部を抑えている。
 その頭を、国生はそっと撫でた。
「……痛かったけど、でもそれ以上に……びっくりして」

 美しい、と、言われ慣れ自分でもその美貌に自信を持っていた少年。自分を
一寸たりと傷付けた相手は、それが小さな妹でも許せなかったのだろうか。
(それのどこが)
 美しいものか、と、言いたい気分が国生には大いにある。それを綺麗だった、
と、今でも懐かしげに言う六華に、そう断言してみたくもある。
 けれども。

「あ、でも……遊んでくれる時もありました。あやとりとかお手玉とか」 
 ふわり、と細い手が動く。両手首を合わせた、丁度花の形。
「手が、綺麗だったんです。白くて、細くて、爪まで綺麗だった」 
 つまり手伝いらしきものをしなかった手、と……やはりそれも内心に留める。
「あにさんきれいね、きれいね、と言うと、笑いながら幾らでも、一人綾取り
をみせてくれました。紅い糸がくるくる動いて、すごく綺麗だった」 
 懐かしそうに目を細めて笑うその表情に、国生は、と、胸を突かれた。

 ――それがどうしてこんな風になってしまうのか。

 あ、と、小さく呟く声が、その思いを破った。
「……あの……前に、夢で話した……兄と父が一緒に居た夜の」
 ひどく言いにくそうに、言う。
 兄と父が、同衾している夜の、それは余りに酷い記憶で、だからこそ彼女も
今まですっかり忘れていた記憶。
 
「それより少し前の頃……そういえば、兄が、家の裏で泣いていました」 
 何かを必死に見ているように、目を細めて。
「ちくしょう、ちくしょう、と言っていて……かわいそうと思ったけど、でも
そんなことを見たと知ったらあにさんはあたしをまた殴るから」 
 ほっと、息を吐いて、六華はまた椅子に背中を預けた。
「そのまま……逃げました」

 何が、あったのか。
 それは……十分に察することが出来る。国生も、そして多分、今の六華も。
 だから、どうして、とも訊きもせず、国生は黙っていたのだが。 

「……変だな」 
 それまで思い当たらなかったことを、今ようやく思い当たった、とでもいう
ように、六華がゆっくりと口を開く。
「あにさんは、それまでずっと……父も母も、自分が一番可愛いのだ、と、言っ
てました。お前よりも自分が可愛いのだと」 
 美貌の少年。確かに両親にも愛されたろう。
「でも、いつからか、兄さんは……母にひどくすげなくなった。殴りはしなかっ
たけど、でも……母が触れようとすると、手を、払った」 

 何が、起こったのか。 
 
 考え込む六華の頭を、国生は何度も撫でた。
 もしかしたら六華が思いつくかもしれないこと。母に何か問題があって、それ
で父が兄を……と。
 そう思って、自分を責めかねない人だから。

 けれども。
「そして……あたしが、売られてゆく時に、最後に笑っていた」 
 ぽつり、と、呟いた六華の、頬がゆっくりと青褪めてゆく。
「ばいたのこはばいた……あの時は無論、意味が良く判らなかったけど」 
 けれども、今は。

 ばいたのこた、ばいた。
 売女の子は、売女。

 つまり。
 どこかで、少年は知ったのかもしれない。
 大事な大事な、自分にそっくりの母親が、かつてそういう職であったことを。 
 そして、もしかしたらそれは、父が言ったことかもしれない。
 それをばらしたついでに……そのような関係になった、とも。

 ばいたのこはばいた。
 それはもしかしたら、彼自身が、その父から言われた言葉なのかもしれない。

「…………っ」

 ふ、と。
 六華が、息を呑んだ。

「………え……」 
 がたがた、と、全身を震わせて。
「そんな……ことが」 
 
 これがもし、他人のことだったら、六華の判断はもっと早くなっただろうと
思う。けれども、それが自分のことで、その当時は大して不思議にも思ってい
ないことだったのなら。
 国生が全て繋いで察したことを……多分、六華は今。

「……大丈夫」 
 震える身体を抱きしめる。ひやり、と、自分よりもわずかに低い体温が伝わっ
てくる。
「……でもっ」 
 肩口に埋められた顔は見えない。けれども涙混じりの声が。
「何だったの……あたしたちは、一体……っ」 
 毎日顔をあわせて。
 無論不満はあったろう、仲が悪かったりもしたろう。けれども、普通の家族
と思っていた……のに。
 もしかしたら、もう、ずっと前から崩れていたのかもしれない。手の施しよ
うも無いほどずたずたに。

「…………歪んでいたのかもしれない、その苦しみを一心に背負ってしまった
のかもしれない、けれど」 
 かたかたと、震えの収まらない身体を抱きしめたまま、国生は一つ一つ、言
葉を選びながら語る。
「貴方を苦しめていい理由にはなりません」
 小さくしゃくりあげる声は、けれども、その言葉を肯うことがなかった。
「あにさんは……あたしを、憎んでいた」 
 疑いであったものが、言葉になると確信に変わる。
「判らなかったけど、でも」 

 確かに兄から見れば、何も知らない妹は、憎くもあったかもしれない。
 何故自分だけが、と、思ったかもしれない。
 けれども。
 
「……憎んでいた、けれど……その憎しみを貴方が受けなければいけない理由
にはならない」 

 言いながら、いや、と、どこかで国生は考える。
 憎んでいたとしても。憎むことに理由があったとしても。
 自分はそれを肯定する気は無い。

 あの兄に、六華を譲る気は毛頭無い。

「兄の恨みは……深いのかもしれません、が」 
 黙ったままの六華の頭を撫でて、耳元で告げる。
「私は貴方が私の妻として、共にいること望みます」 
 言い切ったと同時に、六華の手が伸びた。

「…………国生さん」 
 背中へとまわり、しがみつく手は、鬼に比べれば余りに非力。
 けれども、しっかりと握り締める手。
「……めいわくかけて……ごめんなさい」 
「いいえ……迷惑だなんて、思いません」 
 黒い髪に覆われた頭が、ふるふると小さく首を横に振る。

(本当に、迷惑じゃないんです)
(本当に、迷惑なんかじゃないんです)

 相手が兄であろうが、そしてどれだけ不幸だろうが、本当に正直に言えば、
国生には関係がない。ただ、兄が不幸になれば、やはり六華が悲しむだろう、
そのことさえなければ、考慮することは無い。

(それに、貴方が悲しんでも)
(それでも)

 無二の親友の顔が、ふと浮かんだ。
 彼なら肯定するだろう、と、ごく自然に思い……国生は口元を歪めた。

時系列
------
 2009年3月半ば

解説
----
 兄と妹、崩れていた家族。
*****************************

ちうわけで。
なんかこー、地の文って水増ししたくなります。
であであ。
 
 


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