[KATARIBE 32245] [HA06N] 小説『花華闇の鬼・5』

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Date: Thu, 28 May 2009 00:37:24 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 32245] [HA06N] 小説『花華闇の鬼・5』
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2009年05月28日:00時37分24秒
Sub:[HA06N]小説『花華闇の鬼・5』:
From:いー・あーる


というわけで、いー・あーるです。
続き書いてみました。
緩急、というなら、今回は見事に『緩』。
ま、こういうシーンもあってもよござんしょと。

***************************
小説『花華闇の鬼・5』
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登場人物
--------
 小池国生(こいけ・くにお)
   :小池葬儀社社長。その正体は異界よりきたる白鬼。
 中里嘉穂(なかざと・かほ)
   :吹大一年生、姐御肌の同人誌作成者。吹利或る意味最強な腐女子の一人。
 吉野 歩(よしの・あゆみ)
   :吹大一年生、メイド服作成係。中里嘉穂とは中学からの付き合い。
   :口数は少ないが萌えは外さない。
 薗煮広美(そのに・ひろみ)
   :吹大一年生、漫研かつ剣道部所属の腐女子さん。薗煮広矢とはおじと姪。
 形埜智明(かたの・ともあき)
   :吹大二年生、バイト生。対植物のエンパシスト。吹利県警の形埜千尋の息子。
   :古書店蜜柑堂でアルバイト中。

本文
----

 こつこつと、歩いてゆく。
 
 
 吹利の商店街。午後三時。
 夕刻の買出しの時間にはまだ早く、生徒たちが飛び出してくる少しだけ手前。
 いつもの黒尽くめに、いつもではない白髪白皙の美貌。
 通りすがりの女性のみならず男性までもが、賞賛の目で見るような美貌の持
ち主は、しかしそれらの視線を綺麗に無視している。商店街を真っ直ぐ進み、
外れのあたりの路地を、一本曲がる。
 

 六華の悪夢は、あれからずっと続いている。
 流石に飛び起きることこそ減ったが、夜中にぱちりと目を開いて、息を弾ま
せていることはしばしばある。声をかけると泣きそうな声で、何でもないです、
大丈夫です、と、言ってまたすぐ布団に潜ってしまうのだが。
(大丈夫じゃない)
 あやかしは確かに、人よりも丈夫に出来ている。多少の睡眠不足でも平然と
していられる。けれども。
(夢で、見るんです)
 肩を落として、呟いていた横顔。
(あの頃は判らなかったけど、でもうち、娘を売らなければならないほどには
貧しくなかったと思うんです)
 無論、誰かが病気であったりすれば、彼女が売られてもそれは不思議ではな
かったろう。毎日毎日、その日暮しであったのは事実。けれど。
(なのに)
(……なのに)
 
『ああもう。体調不良な人間を、レジ前に置くわけにはいかないんだよこちら
も。お客さんが心配するじゃないか』
 そう言われて六華が仕事を休むようになったのは、3日ほど前のことである。


(はやく仕事に行きたいです)
 そうは言っても悪夢は続いている。そんな、眠れない状態で外に出すわけに
はいかないではないか。
(だけど、いつまで休みとか、あたし何にも言わないでそのままだし……)

 ならば、もう一度ちゃんと店主に確認を取ろう、と提案した。
 しょんぼりとした顔になりながら、六華は頷いた。


 決して難しい道のりではないのだが、目印が殆ど無い。表通りから路地へと
折れて、そして何度か曲がって。
 古書店、蜜柑堂。
 蜜柑の時期でもないのに、近づくとふわりと透き通るような香が漂う。
 丁寧に拭き清められた引き戸に手をかけて、国生はからり、と扉を開く。


「……からさーっ!」
 開いた瞬間、蜜柑の香がこぼれる。それと同時に、アルトの声。
「お前等黙れ」
「そのは……って」

 やたら元気のいい声が不自然に途切れるのとほぼ同時に、これはきっぱりと
男の声がする。同じ声が、ぶっきらぼうと礼儀正しいの中間あたりの調子で、
いらっしゃい、と告げた。

「いえ……おかまいなく」
 店内にいるのは、レジの前の青年(多分これが、制止の声をかけた本人だろ
う)と、いつもの女子大生3人。国生の姿を見た途端、3人のうち、確実に2
人の目がまん丸になった。
「あの、店長さんは」
「ああ、今日は、休みです」
 レジの前の青年が言った。
「常連さんのところの本を、値踏みしてくるとかで」
 そうですか、と呟いた国生のほうを、青年は少し困ったような顔で見やった。
「あの……何か伝えることがあれば」
「ああ、あの……」
 六華のこと、と言いかけて、国生は一瞬躊躇した。なんせ横で、きらきらし
た眼の連中が、興味津々でこちらを眺めているのだ。
「……レジ係のことですか」
 そこらの心情を悟ったのか、現時点のレジ係のほうが、ぼそり、とそう助け
舟を出す。ああ、はいそうです、と、国生は少しほっとしたように応じた。
「まだ、少し休みが続くと思うので……」
「判りました、そう伝えておきます」
「体調が戻りましたら、また連絡を差し上げます」
「わかりました」
 頷いた青年に頷き返して、国生はきびすを返……そうとして。
「…………」
 わくわくきらきら。
 レジ係ってあの人だよね、どういう関係かな。
 声には出さないものの、顔にでかでかと書いてある。
(……魔眼でなくても、大概判りそうですからね)
 何となく溜息をつきかけて。
 ふと。

「……あの、皆さん、本をよく読まれますか」
 まあ、この古書店に来るたびに見かけるのだ。どんな本かはおいといても、
それなりに読むと言えるだろう。
「ええ、それなりに」
 それぞれ頷く3人を前に、ふと、国生は試してみる気になっていた。
「皆さん、話を書かれるそうですね」
「え……え、ええ、まあ」
 途端に3人ともえらく後ろめたそうな顔になる。
(?)
 まあ確かに、如何に胸を張って801本を書いていたとしても。
 この古書店で何度か会ったくらいの、それも自分達の作品に出てきそうな美
貌の男性に尋ねられるというのは、多少こう……後ろめたいというか恥ずかし
いものである。
「あの、こういう……話があったとして、皆さんだったらどういう話になさる
だろうか、と思いまして」
 ほう、と、三人が身を乗り出す。
「実は……」


 古書……といっても、江戸時代の頃のものが出てきたこと。
 書き手はどうやら、自分の兄と家族のことを、かなり昔のこととして思い出
しては書いているらしいこと。
 どうやらその兄は、非常な美貌の持ち主であったらしいこと。
 そして、兄についての、書き手……妹の記憶。


 六華の夢は、ひどく厭な顛末を予測させるものだった。
(陰間が、一応なりと職業として成り立っていた時代なのだとしても)
 かつてそういう人間は多かった。当然国生もそういう相手に追いかけられた
ことがある。
 けれども。
 もし、登場人物についての詳細を省いて、彼女の夢を過去の物語として語っ
た時に、現代の女子大生といわれる人々がどう受け取るか。どのような背景が
あると思うか。
 それを、ふと試してみたくなったのである。


「……という、話なんですが」
 語り終わった時には、3人の眼は、先程とはまた違った『きらきら』具合に
なっていた。
「そ、そ、それは……おいしいですね!」 
 背中の半ばくらいまでありそうな髪を、右肩でまとめて三つ編みにした眼鏡
の娘が、身を乗り出す。
「そ、そう、ですか……」 
「ええ、昔は……表向きでなく、ひそやかといいますか」
 やはり眼鏡をかけて、長めの髪をそのまま下ろした娘が、やはり眼鏡の奥の
眼を光らせる。
 藪蛇、という単語が国生の頭に浮かんだところで。
「つまり。どうしてそうなったかというのが知りたい……というか予測してみ
てくれ、というわけですか?」 
 他の二人とは違い、顎の辺りでさっくりと髪の毛を切った娘が口を開いた。
後の二人よりは相当冷静な口調に、国生はそうです、と頷いた。
「なるほど」
 ふむ、と頷いた娘の横で、三つ編み娘がぐぐっと握りこぶしを作る。
「そりゃーやっぱり美味しいのはあれね。その12歳かそこらの子が、父親を、
そして庄屋を身体で操る」 
 その手を、突き上げて。
「……これですねこれ!!」 
「…………」

 この場合、彼女達の発想に呆れているわけでは、無い。
 寧ろその筋は、国生自身も考えたものである。
 ただ。
(なんとなく予想はできたけれど)
 出来れば違って欲しかった……というのが、本音である。

「こうね、父親にしたら自分の息子だけど、んで身体を自由にしている、俺の
もの、とか思ってるけど、実際はもうすっかり骨抜きなわけですよ」 
「そうよねそうよね、そして男達を手玉にとってのし上がっていく。復讐よ
ね!」
 一応、何とか抑えている積りなのだろうが、二人の眼鏡娘の声はどんどんと
大きくなってゆく。 
「そうそう。それに加えて、庄屋が、権力をもって横取りする。それも……昼
間っからよ!」 
 大盛り上がりである。
「…………それは、ええ、無い話では…………」 
 頭の中で想像していたことを、そのまま形にされ、そして口にされる。これ
ほど精神力を削がれることも珍しい、と、内心国生は溜息をついた。
「そりゃー親父は妬きますね。昼間から待てど暮らせど息子は帰ってこない。
でもまさか庄屋に楯突くなんて出来ない。なんてことになりゃあ、一番身近で
弱い存在、つまり娘を殴りますね!」 
 ふるふるふる。
 三つ編みにした髪の毛の、先まで細かく震えている。

 と。
「それに……そうすると、多分、娘が売られたってのは、判る気がしますよ」 
 短い髪の娘が、淡々とした声で口を挟んだ。
「……よく似た娘が売られた理由」 
 ええ、と、彼女は頷いた。
「男は、確かに一時期は女性より良いってえのは聞きます。が、その子にそっ
くりの妹、それも女性ですよ?」 
 というかその『女性より良い』って一体どこで仕入れた知識なんだよ、と、
レジ前の智明は内心突っ込んだものだが、無論この3人にとっては『当たり前
じゃんそんなのー』な知識なのかもしれない。
「そうよね、そっくりってことは育ったら美少女、いずれ成長したら自分の地
位をおびやかすかもしれない存在だもの」 
「そう。父親は当然ちゃんと結婚している、つまり性的嗜好はバイか、もしか
したらノーマル。そういう男性なら、両方欲しがる。そして普通……女性のほ
うが、縁として長続きする」
 つまり妹を……と考えて、国生は思わず眉を軽くしかめた。 
「そうなると、手玉にとっている兄にしたら邪魔。ならば売ったほうがよくね?
……ということはあるかもなーと」
「そう、そう、そうよねえ……」
 うんうん、と、三つ編み娘が頷く。
「嫉妬じゃないわね。絶対そういう子なら、父親と庄屋と、両方とも利用する
気満々だものね!」 
「うんうん、それに情を移されたりしたら厄介だもの」
「そうなるよね、やっぱり!」

 自分の予測していたうちの、一番たちの悪い方向へと、彼女達の予測は転がっ
てゆく。思わず無言になる国生に、短い髪の娘……歩はやはり淡々と言葉を続
けた。
「泡妻さんか都筑さんの時代小説で、『陰間ってのは女よりも性質が悪い、ひ
ねくれるとなると女より余程陰湿だ』みたいな文章を読んだことがあるんです」
「……」
 身体一つで世渡りするのは女達と同じ、しかしその期間は女性に比べると短
く儚い。嫉妬や独占心に加えて、若さへの焦りは女性よりも遥かに強い面はあ
ると思われる。
 まして彼の場合。
「そうやって、幼いって言えるくらいから、それも父親に、でしょう?それ、
相当ひねくれる土壌満載ですよ」
 もし、六華に害が無ければ、確かに哀れとも思える状況では、ある。
「それに、そうなると……多分、その妹さんは、売られたほうがマシだったの
かもしれない」
 綺麗に揃えられた髪を軽く揺らして、歩は言葉を続ける。
「女衒に?」
「いえ、そりゃあどっちも酷い話だけど……でも、もし、ずっと家に居たとし
たら、いずれは父親かその……庄屋でしたっけ?そんな連中を相手にする破目
になったかもしれない」
 想像もしたくない予測である。
「それよりは……ってことですけど」
 あまり表に出ない筈の表情を読んだのか、どこか控えめに、彼女は話を結ん
だ。
 二の句が継げる筈もなく、国生も黙った。
 数秒ほどの、沈黙。

 と。

「…………」
 ふるふるふる。
 先程から妙に沈黙し続けていた三つ編みの娘が拳を震わせている。その意味
に国生が気がつく前に……彼女は爆発した。

「それは美味しいわああああっ!」 

 思わずのけぞった国生とは逆に、歩がひょいと近づいた。手刀で頭を結構な
勢いではたく。
「嘉穂。お店だから」
「あ、あ、あうあう、ご、ごめんなさいでもでもでも!!」 
 レジの前で青年ががっくりと疲れた顔をしている。
「そ、それで小説書いていいですかっ!!」 
 今度こそ国生は……数秒の間だが、絶句した。
「…………しょ、しょうせつ」 
「こんな美味しいのほっとく手はありません!……あ、無論、絶対、似てない
ように書きますから!」 
 さらっと言っているが、ここに、実は、問題が生じている。
『似てないように』とは……一体誰を、という、問題が。
(つーかこの人、入れる必要ないだろ)
 突っ込むべきか放っておくべきか。一瞬迷って智明はとりあえず放棄した。
 言って聞く相手ではない。

「いいわ、おいしすぎる。時代物で美形兄妹の愛憎劇!」
 無論この3人には、それは問題ではない。
「…………ええ、書かせて下さい、そしたらお贈りしますから!」 
 むしろ贈るな、見せるんじゃない、と突っ込んだのは多分智明だけではない。 
「ああもう楽しみー……歩、人形作ってね、売り子にするからっ!」 
「…………ふむ」 
 3人の中ではそれでも多少は良識派である歩だが、所詮は『同類』である。
 じっと国生を見ていた歩は、深々と頷いた。
「わかった」 

 むーざんむーざん。
 本体を読んだわけでもない漫画のネタが、その瞬間脳内にリフレインした…
と、後に智明は述懐したものである。

「…………が、がんばってください」 
「許可キターーーーーッ!」 
「いよぉぉし!」 
 かろうじて言った国生の言葉に、くるくると二人が廻りだす。それを最後の
一人がえいえい、と、店から押し出した。
「さあ、帰ろう」 
「うん帰ろう、帰って速攻プロットめもっとかねば!」
 わきゃわきゃわきゃ。
 大騒ぎしながら出てゆく三人を見送って。

 残りの二人は期せずして、大きな溜息をついた。

時系列
------
 2009年3月初旬

解説
----
手がかりから六華の過去を読み解く為に、吹大屈指の腐女子の知恵を借りる。
*******************************

 ちうわけです。
であであ。

 
 


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