[KATARIBE 32236] [HA06N] 小説『花華闇の鬼・2』

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Date: Mon, 13 Apr 2009 23:50:29 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 32236] [HA06N] 小説『花華闇の鬼・2』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2009年04月13日:23時50分29秒
Sub:[HA06N]小説『花華闇の鬼・2』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
続きです。

ログで生産した大量の会話を、全部は使わず、でも意味は変わらないようにして、
かつセンス良く繋げるって……どうしたらいいんですか(無理難題)


**************************
小説『花華闇の鬼・2』
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登場人物
--------
 小池国生(こいけ・くにお)
   :小池葬儀社社長。その正体は異界よりきたる白鬼。
 六華(りっか)
   :一年中生きていられる冬女。国生と一緒に暮らしている。


本文
----

(あにしゃん、きえいね)
 まだ廻らぬ舌で、そう紡ぐ声。
(きれいだろ、ゆきの)

 ころころと、二つの手の間を行き来する紅絹のお手玉を憶えている。

 白い細い手。柔らかな肌に包まれた指の先はほんのりと紅に染まって見えた。
(きえいね、きえいね)
(見てろ……ほうら)

 得意げな笑みを憶えている。
 笑う声を憶えている。

 伸ばしても届かない手を憶えている。

             **

 最初の悪夢がいつだったか。そのことは良く憶えている。
 そしてそのきっかけが何だったかも。
 莫迦じゃないかと、自分でも思う。何でそんなことで、と。

 それでも……そういうものなのかもしれない、と、半ばあきらめた頭で思う。


「あー……職場の方から」 
「ええ、女の子一同から」
 バレンタイン。一応冬にある行事(?)だから、六華も無論知ってはいるの
だが、ここに至るまで全く無縁であったのも事実。
 だから。
「……美味しそうですね」 
 社長に渡されるチョコなんて、それこそ完全に義理チョコだから、無論のこ
とどっかで買ってきたものとなる。この時期のチョコの包みは綺麗だし、まあ
『良い社長さん』なだけに、それなりに美味しいものが選ばれている。
 だから。
「ええ」
 何となくこそり、と隠す。

(真帆サンこれ包めないんですけど)
(え、何で?)
(何でか判らないの。良く判らないけどあたしの手元で次元が狂ってるの)
(……そんな莫迦げた理由で次元数を変化させないでよ)

 隠したまま、台所に引っ込んで。
「あ、ごはんそっちにもっていきますから、今」
 
 どうしてそれを気にしたのか、自分でも判らなかった。
 それが義理も義理であることは判っている。小池社長としての彼は、白郎鬼
本来の年齢よりかなり上、親子でもいいくらいの年齢差がある。その相手に、
まさか本気でチョコを贈るわけがあるまい。

「……六華さん?」 
「…………はい?」 
「今、何か隠したかな?」 
 だからといって、台所からわざわざ覗くことは無いと思うのだ。
 だから。
「……あたしを『さん』付けで呼ぶ人には、関係ないことですから」 
 自分でも何を意固地になっているんだ、と思うけど。
「…………気にしてます?チョコのこと」 
「気にするようなことじゃありませんからっ」 
 正解。
 ただ、気にするようなことではないのに、気にしているということを黙って
いるだけである。
「……私は、気になる、かな」
 そっぽを向いた六華に、少し遠慮がちな声が聞こえる。そこまで言って、国
生は少し笑った。
「あなたのチョコが欲しい、から」 
 そういう台詞を全く照れること無しにさらりと言うあたり、敵わない、と六
華はつくづく思う。
「…………正確に言うと、チョコの、ケーキですけど」 
「ええ、楽しみです」 
「…………だけど、その……っ」 
 一瞬の表情が、あまりに嬉しそうで、そのことが返って辛くて。
「あの、味は、悪くないというか……食べられなくはないんだけど」 
 そりゃ食べられないわけがない。真帆と作って、味には自信がある。
 けれど。
「…………見かけが、その」 
「いいんですよ、楽しみです」 
 
 にこにこと、笑う顔が、尚更に切なくて。

「こんなこと……やったことないんです、ほんとに」 
「ええ……嬉しいものですね」 
 見上げた顔は、ちょっと嬉しいような気恥ずかしいような、いつもは良く判
らない感情がはっきり見える。
「…………ほんとに、そう、思ってくれてるんだ」 
「そりゃあ、思いますよ」 
 だから。
 だから包みを手渡して。

 渡し終わって……切なくなった。

「……もう少しで、煮物、あったまりますから」 
「はい」 

 頭ではわかっている。自分はこのひとに必要とされている。
 けれど。

「……六華?」 
 声をかけられて、反応する前に。
「どうしたんですか?」 
 

 思い出すのは、つい先日の会話。
 否定しないで、同じでなくていいのだから、と、繰り返されてもどうしても、
自分と尚久を比較した。
 せずには居られなかった。

『……無理、してますね』
 していません、無理じゃないです。
『焦らなくていいんです』
 だって、貴方の言うことのほうが正しいです。
 自分を過剰に貶めることがいけないことも判ってます。
 義理チョコに妬くなんてそもそもおかしいし、笑えるようなことだし、そん
なことで落ち込むほうが変だって判ってます。

「そこで、自分が間違ってると押さえ込むのも……苦しいでしょう?」 
「……だってっ」 

(でも、六華は……共に生きたいと願った、伴侶です) 
(その自分を貶めるようなことはやめてください) 

「国生さん……が、怒るような、ことなんだもの……」 
「……怒りませんよ、そうやってあなたが苦しそうにしてるほうが、辛いです」 

 そう、言ってくれるけど。
 本当に親切な人だから、そう言ってはくれるけど。

「……赦してください」 

 その言葉が、ふい、と、こぼれた。

「否定しないようになりますから。強くなりますから」 
 強くなりますから。
 否定しないようになりますから。
 貶めないようになりますから。
 頑張って頑張って、急いで急いで。

「焦らないで」

 耳元の声は、ひどく遠い。 

(ゆるさない)
 白い手。細くしなやかな腕は、けれども六華を突き飛ばす力を秘めていて。
(俺の言うことを聴かないのか、ゆきの)
 黒目勝ちの大きな目は、ぞっとするような笑みを浮かべたままこちらを見て
いて。
(ゆるさない)
 怒鳴るならば怖くない。怒るならばまだいい。けれど。
(ゆるさない)
 
「…………赦して……っ」 


「六華?」 
 頭をそっと撫でる手が、暖かかった。
「……辛いですか?」 
 辛い、とは違う。ただ。
 震えが、止まらない。
「……大丈夫」 
 そっと額を撫でる指。
「……赦して、ください、ますか」 
 かちかちと、歯の根の合わないまま発した声に、直ぐに返事があった。
「赦しますよ」 
 何度も頭を撫でる手と共に。
「だから、思いつめないで」 
 ほっと……ようやく六華は、息を吐いた。


 怒られたら、即直せといわれた。
 赦してと頼んでも、謝っても、赦してはくれなかった。
 怖かった。泣いて謝っても、殴られた。


「赦しますから……私は赦しますから、あなたに強制したりしませんから」
 ぎゅっと抱きしめられたままかけられた声に、震えがようやく止まった。

「…………ごめんなさい、違う人だって判ってるのに」 
 白い手。紅絹の紅色が、映るような指先。
「貴方は……あの人とは違うのに」 

 一度思い出すと、こぼれるようにその過去はやってくる。
 遥かに遠い過去なのに、つい先日のように鮮やかに。

「……あの人とは……誰ですか?」 
 そっと、問う声に、六華は一度唇を噛んだ。

「…………もう、ずっと昔のことなの」 
 笑う、声。
 妖艶といわれたその顔、その表情。

「あたしの……兄です」 

        **

 何年も何年も、忘れたままだった相手。時の向こうに、もう既にすっかり姿
も形も無くなった筈の。

(どうして)
(一体どうして)

 どうしてそんな相手を、思い出してしまったのか。


 そしてその夜。
 悪夢は、始まった。



時系列
------
 2009年2月14日。

解説
----
悪夢の始まり。六華の過去の片鱗。
********************************

 てなわけです。
 であであ。
 
 


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