[KATARIBE 32206] [HA21N] 小説:「天災と人災〜冷たい方程式的に:1」

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Date: Wed,  1 Apr 2009 23:12:05 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 32206] [HA21N] 小説:「天災と人災〜冷たい方程式的に:1」
To: kataribe-ml@trpg.net
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2009年04月01日:23時12分04秒
Sub:[HA21N]小説:「天災と人災〜冷たい方程式的に:1」:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
わけあって、HA21から、うちの連中を撤退させることにしました。

でも、なんぼなんでも今まで動かしていた連中を「ひゅっと消えましたー」では
あまりに無責任ですので。

他の方々にはほぼ関係ない、けれども、一応の落とし前だけはつけてゆこうと思って。

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小説:「天災と人災〜冷たい方程式的に:1」
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「御須守、それで?」
 はいむの一角で向かい合った女性は、ひとつ頷いた。
「急いで知らせたほうがいいと思ったので」

 少々病的にやつれた女性は、しかし目だけは恐ろしく力がある。その目で花
澄を見据えながら、彼女は手元の紙を引き寄せた。かといってその紙を読むで
もなく、彼女……御須守は口を開いた。

「現在『水』と呼ばれているものには二種類ある。一つは……そう、関わるだ
けで確実に相手を滅ぼすもの。もう片方は、確かに人間に災厄をもたらすが、
しかし相手を滅ぼすとは限らないもの」
 御須守……水守。鬼海の一族の中でも特に水の加護を受ける家の女は、そこ
まで言うと、小さく咳払いをした。
「無論、我々が相手にすべきは、前者であることは論を待たない。後者は、基
本として女性を介してこの世に招き入れられるもの。つまり」
 細い目が鋭い刃のように光る。
「人災だ」
 
 はいむのカウンターの中で、光郎は黙ってグラスを拭いている。
 
「つまり、我々は関わる必要が無いということ?」
「後者には、ね。でも前者には関わる必要がある」
 静かに眼鏡を光らせて、彼女は言う。
「その二つを識別する方法は?」
「触ってみる」
「そういう冗談はおいといて」
 冗談でもないんだけれども、と、やはり真顔で御須守は断言する。
「方法は、一つある。今宮タカ。彼女に前者を呼んでもらう。そしたら前者の
水が来るが、後者の水は来ない」
「……怖いような実力行使ね」
「そもそも、前者の水は、我々が呼んで来るようなものではない。前回あの水
が来た時のことは覚えているだろう」
「ええ、それはね」

 浮き上がるようにやってきた霞ヶ池。そしてそこから溢れ出した水。それは
突然に現れ、そして多くの異能者を巻き込み……そしてやはり突然に消えた。

「後者は、別のものということ?」
「別、と言い切っていいのかは判らない。摂取した場合の人体への影響などは
前者に異様に酷似している。しかし、破滅するとは限らないあたりは絶対的に
前者と異なる」
「……冷たい方程式か、人災…か」
「そう」
 得たりとばかりに、女は頷いた。
「冷たい方程式。正にそれ」

 その一作だけで著者はSFの殿堂入りした、とさえ言われる珠玉の短編。辺
境へと薬を運ぶパイロットが宇宙船の中で見つけたのは何も判っていない娘。
けれども宇宙船に密航した人間は、それが誰であろうとも船外に遺棄されねば
ならない。
 理由は、エネルギー保存の法則。
 この宇宙を統べる、冷たい方程式の故に。

「人が左右できるものについては、既に我らの考慮する範疇にはない。後者は
それを招いた人間にこそ任せるべきだろう」
 御説御尤も、と、花澄は溜息混じりに頷いた。
「でも、前者はどうするの?」
「後者と分ける」
 あっさりとした声に、花澄だけではなく、カウンターの後ろの光郎も目を丸
くした。
「どうやって」
「多世界構造。この狭間では珍しいことじゃああるまい」
「……どういうこと」
「もともと水は、異界からやってきたもの。その異界と重なる世界と、重なら
ない世界を分離する」

 相変わらずその説明は訳がわからない。溜息をついて花澄は諦めた。

「で、それは可能なの?」
「竜の仕掛けを使えば」
「竜の?」
「もともとあの竜は、複数の世界にまたがって存在している。今のところ、そ
れを利用して『水』の浄化に使っているわけだが」
 この世界の少女に恋したが為に、この世界につなぎ止められ、そのまま『水』
の浄化に使われている竜のことを思うと、花澄はいつも後ろめたさを感じる。
「そのシステムを使う。竜は我々に関わる『水』に満ちている。彼の居る世界
と、居ない世界。それを分ける前にタカに、『水』を呼び戻してもらう」
「そして、世界を分ける……でも、そうすると、『水』に関わる私達は」
「無論、竜の居る世界に来る」
「水……ああもうややこしいわね、後者の、人の呼んだ水に関わる人達は」
「竜の居る世界には居ない」

 世界は様々な確率で存在している。今自分達が居る世界は、其の中から選び
取られた結果となる、と、SFの中では良く見る設定ではあるのだが。

「でも、これはそれとは違うわよね。ここで完全に二つに分ける。これまで一
つに進んできた世界を」
「そう」
 答えはあっけらかんとしたものだった。
「水に関わらない部分は、これからもこの世界は一つだろう。しかし、『水』
だけが異なる」

 困惑したまま、花澄はしばらく黙った。

「……で、世界を分けるわけは?」
 うん、と頷くと、御須守は指を折って数えだした。
「まず、前者の『水』に関しては、我々が関わる義務がある」
 きろり、と細い目が花澄のほうを見る。
「……続けて」
「我々は後者のある世界では、脅威ともなり得る」
「脅威?」
「そう」
 すい、と伸びた指が、まるで目に見えない問題を指摘するように、空を抑え
た。
「我々は水の加護の下にある。水を使うことが滅びに繋がらないなら、我々は
『水』を従えることが出来る。確かにかなり難しいけれども、既に『水』は、
この世界の水に混ざって存在している。それに」
 水からの加護の強さだけで考えれば、花澄を凌駕する女は、淡々として言い
切った。
「一度人の意思の関与を許した『水』ならば、我々はその意思を外して関与し
返すことが出来る」

 それは。

「危険ね」
「そうとも」

 鋭い声が頷き、鋭い声が肯う。

「……判った。早急に行動する」
 頷いた花澄は、ふと目を細めた。
「それで、御須守」
「何か」
「どうしたの、一体?」

 やつれた頬の線。額に浮かぶ汗。元々そうそう健康的に見える相手ではなかっ
たが、この場合異常ですらある。

「どうしたのって……こら、当主」
 この一瞬、御須守の笑みはひどく『人』らしくなった。乾ききった印象が、
元々の……毒舌家でブラックジョークを連発していた時の印象へと戻る。

「どうしたのはないだろう、どうしたのだ、は」
 すう、と、腕をまくって見せる。

「これだけの情報をまとめるのに……天災の『水』が容赦したと思うのか?」
 笑いを含んだ声に……しかし花澄は息を呑んだ。


 まくった御須守の腕は、ケロイド状に焼け爛れていた。


時系列
------
 2009年3月末

解説
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 うちの連中、HA21撤退の為の、ワンシーン。
 流石に……ねえ、適当に消えるのって無責任過ぎですものねえ。

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 てなもんです。

 であであ。
 


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