[KATARIBE 32177] [HA06N] 小説『変わるべきこと・変わるべきもの』

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Date: Sun, 23 Feb 2009 00:12:12 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 32177] [HA06N] 小説『変わるべきこと・変わるべきもの』
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2009年02月23日:00時12分12秒
Sub:[HA06N] 小説『変わるべきこと・変わるべきもの』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
かけたとこから書いてます(なんかにほんごが変)

********************************
小説『変わるべきこと・変わるべきもの』
=====================================
登場人物
-------- 
 小池国生(こいけ・くにお)
  :小池葬儀社社長、その正体は500年以上生きる白鬼
 六華(りっか)
  :現世に戻った冬女。小池と一緒に暮らしている。

本文
----

 覚悟はしていても、これまで生きてきた時は長く。
 一掃すべきだと思っても、消すに消し難いこともあり。

          **

「もうね、なんかもうオールドローズの二人なのよこの動画!」
 きっかけはこの言葉だった。

 古書店蜜柑堂。吹利の街には複数の大学が集まっており、その学生達がたむ
ろする一角にあるこの古書店は、その収入のうちかなりの割合を、学生達の取
引きでまかなっている。従って店にはよく大学生たちが来る。
「オールドローズってなあ……中里お前さ」
「だってそうなんだもの」
 大概三人でやってくるこの常連さんは、何故か今日は一人である。従って、
こういう場合、周囲の知り合いを巻き込んで会話が進んでゆく。一応、一年先
輩という古書店アルバイトの呆れたような声に、この常連……中里嘉穂は断言
した。
「絵が、さ。かたっぽが淡い金色の髪の、何となく女性っぽい人でさ。かたっ
ぽが黒い髪の、相手よりしっかりした骨格の人なんだもの。もろにあの二人な
のよね」

 最近、動画を投稿できるサイトが増えている。これまで同人誌として、もし
くはネットのブログなどに出してきた話や漫画を、また違った感じに見せるこ
とが出来る、とかで、彼女はかなりはまっているらしい。
 そこで色々見ている間に発見したのがその動画らしい……と、六華がなんと
か会話についていく間にも、話は進むばかりである。

「いや、問題はそこじゃなくて」
「じゃあ何よ」
「……なんでそうやって、あんたらの妄想の方向に引きずってゆくかな」
 溜息混じりの言葉に、中里嘉穂は、胸を張って断言した。
「それが本能というものよ」
 がっくり、と、智明の肩が落ちる。
「あんた、なあ……」
「……お客さん」
 妙にしみじみとした口調で、店の奥から出てきた店長が、気分的に相当消耗
したらしいアルバイトの代わりに声をかけた。
「はい?」
「うちのアルバイト達を、根こそぎ就業不能状態にしないで頂けませんかね」
 はあ、と、気が抜けたような声で答えた相手に、六華はカウンターの前から、
恐る恐る声をかけた。
「あの、その……動画って、一体?」
 はい、と、カウンターのほうを向いた嘉穂は、それでも一瞬、ひどく申し訳
なさそうな顔になった。
「あ、いえあの……あのあくまで冗談ですので」
「ええ、それは分ってるんですけど……似てるなら、見てみたいなと思って」

 六華がオールドローズと言われる人の、片方の家に数年下宿していた、とい
うことを無論嘉穂も知っている。そういう相手が不快になるようなことを言っ
てはいけない、と、これは当然の腐女子のたしなみである。
 だから、流石の彼女も、咄嗟に答えに困ったのだが。
「知りたいんです。どういうものか」
 微笑んで笑った相手に、流石に隠すのも……と思ったらしい。
「ええとですね……これなんです」
 手の上に載るような機械の中に、取り込まれたデータ。
 そして……その小さな画面の中の動画を見て。
 六華は、暫く沈黙した。

           **

「……これですか」
 小池宅に移住(「お嫁に行ったんだろう」と尚久は訂正するが)してからも、
六華はよく本宮家に行く。無論息子家族三人が近くに居るし、息子達は忙しく
ても奥さん達はそれなりにやってくる。だから寂しいということは無い、のか
もしれないが。
(でもやっぱり……麻須美さんに頼まれたし)
 その場合、時間が合う時は、国生も一緒に行く。一緒に夕ご飯を食べ、のん
びりと話す時もあれば、六華の三味線を所望されることもある。
 そして、この日は。

「はい、これです」
 尚久宅のパソコンをネットに繋ぎ、教えてもらったサイトに行く。
 そこにある動画を一目見ると、尚久はくすりと笑った。
「なるほど、ねえ」
 動画には、二人の人物。
 片方は黒い短い髪。片方は淡い色合いの、肩を越して流れる髪。
「……そうですね、こちらが……でも、尚久さんだともう少し、強い、かな」
 真顔で国生が言う。確かに尚久のほうが、その目もその印象も『強い』と映
る。
「でも確かに、組み合わせからしたら……そうだね、六華さんの友達が言うの
は判るよ」
 小さな矢印を押すと、動画は動き出す。電子的な声を聞きながら、尚久はく
すくすと笑った。
「そうでしょうか」
 やっぱり横で一緒に見ていた国生が、少々不服そうに言う。
「あなたなら、神様すら足蹴にしそうですからね」
「随分ないわれようだなぁ」
 無論尚久は平然としたものである。さらっと言われて国生のほうが溜息をつ
いた。
「だいたい、こんなこと言いませんよ」
「はい?」
「え?」
 急にピンポイントで言われて、二人がきょとんとする。国生はすばやく画面
を止めて、少しだけ巻き戻した。
 あかるい電子の声が、やっぱり明るくその台詞を言う。
 貴方が笑う為なら、消えてもいい、と。

「あなたは消えてしまっても構わないなんて言わないでしょう……」
「そうだね」
 その返事もまたあっけらかんとしたものだった。

 それはもう何を賭けてもいい。尚久にそういう意図が無かったことだけは確
実である。無論国生にも。
 それでも。

(死んでも構わないなんて言わないでしょう)

 そう、断言される相手。そして。

(そうだね)
 
 それを軽やかに肯う声。

(敵わない)
 無論、それは勝ち負けの問題ではない。けれども。
(あたしには、それは言えない)


 貴方が……国生が笑う為なら、自分はいつでも消えていいと思う。
 けれども。
(そんなことは言わないでしょう)
(そうだね)

 その人のことを思っていないから、そういう言葉が出るわけではない。寧ろ
その逆だ。
 多分彼は、消えてしまう代わりに国生の手を握って、二人揃って生きること
を選ぶのだろうと思う。それがどれだけ困難であっても。

(全然……敵わない)

 小さく唇を噛んで、動画から目を逸らした六華の肩を、国生がそっと撫でた。
 冬女の六華に、その手はほっこりと暖かかった。
 だから。
「……死んでも構わないって……思いますけど」
 自分は、と、念を押す前に。
「一緒に生き残りましょう、それがいい」
 肩の上に置かれた手と同じように、優しい声。
「…………そです、ね」
 その優しさに押されるように頷きながらも、六華は内心違う、と、呟いた。
(違うんです)
 一緒に生き残る。あやかしである二人にとっては、一緒に死ぬほうが、ある
意味難しいかもしれない。
 けれども。
(そうじゃ、なくて)
 内心、呟いた六華の思考を、くすくすと笑う声が遮った。
「そうだね、一緒に手を繋いで……そうでないと僕が心配でしょうがない」
 尚久の言葉に、六華の頬に血が上った。

              **
 それでも。

(貴方が笑ってくれるなら)
(貴方が笑うことが出来なくなったら)
(そしてその笑いを取り戻すために消えろと言われたら)

 自分は真っ直ぐ消えるだろうと思う。尚久のように立ち止まり、考えること
もないと思う。
 何度考えても。
 何度……考えても。

              **

「……六華」
 一日。台所で、そして古書店のレジの前で考えて、考えて。
 それでも答えは同じまま。ぼんやりと食事を用意し、ぼんやりと皿を下げて
いたら、不意に声がかかった。
「どうしたんですか」
「……いえ」
「いえ、じゃないでしょう」
 声と一緒に、覗き込むように近づく顔。
 心配そうな顔を見た時に、ふつり、と言葉が抑えを破って転がり落ちた。

「…………何かずっと考えていたんですけど」 
「どうしました?」 
「自分、貴方が笑う為になら死ねても」 
 それは楽々と実行できると思う。あの兎の入ったスノウドームを放り出して。
 でも。
「おじさまみたいに、『死なない』って言えない……んです」 
 たかが動画を見ての、たった一言。丸一日真剣に考え込むようなことではな
いかもしれないけれども。
 けれども。

「……あなたがいなければ笑えませんよ」
 ひどく真剣な顔で言った六華に、やはり生真面目な顔で国生が答える。
 それもまた、彼の答えなのだろう、と、そのことは判るのだけれども。
「……おじさまなら、それがちゃんと分って、そして両方ちゃんと生き残る方
法を考えるんだろうなあ」
 愚痴のようにこぼした言葉に、そうですね、と、国生が頷く。 
「彼は、強いから……」 
 さらり、とごく自然に言われた言葉。
 六華はその一言に、叩き落される勢いで落ち込んだ。

「…………そうですね……」

(彼を、宜しく)
 そう笑って頼まれたのは、そんなに以前のことではない。
 頼まれた相手より格段に弱いままで、どうしてこの人を護れるだろうか。

「……落ち込まないでください」 
 何度も頭を撫でる手がある。
「あなたと彼は違う、それは当たり前なんですから」 
 子供をあやすような、優しい手がある。
「私は同じものでなければ嫌だなどとは思いません」 
「…………だけど」 
「彼の強さは彼のもので、六華は六華です」
 そう言われてみても、現に今、自分は子供のようでしかなくて。
 六華は六華。やはりそこに強さなど無くて。
 しょんぼりと、六華は肩を落とした。
 
           **

 ぺこん、と、音がしそうなくらいに、六華は落ち込んでいる。
(困った)
 実のところ、六華が落ち込む理由は……国生のほうから見ると、無い。尚久
とは全く違うが、六華は六華なりに強かったし、凛として動かないものも持っ
ている。それをただ比較して、自分が足りないと言われても。
「貴方を護るようにって思ってるのに」 
 困惑している国生に向かって、六華は早口に言い出す。
「……なんだか、もう、全然、敵わなくて」 
 眉間に深いしわをきざんだまま。
「………………なんか一日考えても考えても、どうしても」 
 どうしても答えは出なかった、ということか。

「……そんなに悩まないで」 
 頭を撫でる。さらり、と細い腰の無い髪の毛が指の間を流れる。
「六華にしかできない護り方がありますよ」 
 その言葉に、弾かれたように顔を上げる。目尻の上がった大きな目が、見慣
れた勝気な表情を浮かべた。
「貴方を護れればいいんです、あたしは」 
「誰かと比べても意味はないんです」 
 
 綺麗な目をしている、と思う。
 生き生きと光を宿す目と、だから視線を合わせる。
「あなたのできるやり方で、護っていてくれればいい」 
 途端に目の光が弱まり、視線が下を向く。慌てて付け加えた。
「私はそれでとても救われていますよ」 
 でも、と、頼り無いよううな声がこぼれた。
「……おじさまに敵わないって、思っちゃったから」 
「そんなことはないです」 
 断言した途端に、六華の表情が変わった。
 そんなのうそだ、と、それはもうはっきりと。

(困った子だなぁ)
 思いながら、ついつい口元がほころびる。落ち込んでいるのに、しょんぼり
としているのに、それでも六華の表情は鮮やかに変わる。
 手招きすると、一瞬躊躇った後に、六華は数歩近づいた。そのまま腕の中に
入ってくる身体を抱きしめる。
(護ってくれている)
(これだけでも)
 長い髪の毛が一度大きく揺らいで、またこぼれた。

            **

 覚悟はしていても、これまで生きてきた時は長く。
 一掃すべきだと思っても、消すに消し難いこともある。
(今までは好きに生きていた)
(消えるのも勝手だと思っていた)
 
 筋を通せないなら、消えようと思っていた。
 けれども、消えないことを前提に……強くならねばならない、と。
 そういうことに……ようやく気がついた。

 小さく笑っている、その振動が伝わる。
 六華は目を閉じた。

時系列
------
 2009年1月頃

解説
----
 まだ多少ぎくしゃくとしながらも、一緒に長く生きる準備をする様。
***************************

 てなもんで。
 なんか久しぶりに砂を吐いた気がします(えれえれ)

 であであ。

 


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