[KATARIBE 32161] [HA06N] 小説『当たり前の真実』

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Date: Sun, 22 Feb 2009 00:20:50 +0900
From: Subject: [KATARIBE 32161] [HA06N] 小説『当たり前の真実』
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小説『当たり前の真実』
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登場人物
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 高瀬夕樹(たかせ・ゆうき):http://kataribe.com/HA/06/C/0581/ 
  大学生で歌よみ。詩歌を読むと、怪異がおこる。

本編
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「ふう」と、高瀬夕樹は読み終えた本を机の上に置き、大きく背伸びをした。
 大学の期末試験が全て終わった後の休日。試験勉強のために積む一方になっ
ていた未読本の塔を消化すべく、彼は朝からずっと本を読んでいたのであっ
た。
 時計を見ると、午後四時過ぎ。窓の外には夕焼けが見える。いつの間にか部
屋の中も薄暗くなっており、ストーブの灯がやけに赤く見えた。
 机の上のマグカップの底にはほんの少しのコーヒーが残っている。彼はそれ
を飲み干し、そして、眉をひそめた。
「やっぱり冷めるとおいしくないな……」
 マグカップを置いて、今日の成果を見る。積み重ねられて多少不安定になっ
ていた未読本の塔は、残念ながら消滅はしていないが、それでも安定している
高さになっていた。その横には今日一日で読んだ本が同じように積まれてい
る。その高さは大体未読本と同じ程度。
 一日で半分ほど読んだことになる。
 夕樹は目を閉じた。じんわりと鈍く思い感じがする。一日読み続けていれば
それもそのはずだろう。
 高校の時も定期考査の後には試験期間中に溜まった本を一気に消化していた
が、そのときと今では未読本の量が違う。
 昔は小遣いだけで買っていたが、今はバイトもしているし色々と本を薦めて
くる古本屋の店員がいる。金銭面の向上に伴い、昔と比べて本を買うペースが
明らかに上がっていた。
 読んでも読んでも、読む本が無くならないのは幸せなことではある。しか
し、それはいわゆる「どつぼに嵌る」という状態とも取れる。
 とまれ、なんにせよ未読本は減った。さて、と夕樹は読み終わった本を片づ
けるべく、立ち上がり横を向いた。
 本棚はそこにある。
 しかし、その本棚を目の前にして彼はむう、と腕組みをして一つ唸った。
 本棚には当然本が並んでいる。空いている隙間には本が押し込まれ、もうこ
の本棚はこれ以上本が入れられない状態になっていた。
 彼は視線を横にずらした。
 そこにも本棚がある。というか、彼の部屋のその壁の一面は本棚と化してい
る。そのほとんどが目の前の本棚と同じ状態になっていた。
 手っ取り早い話が飽和状態になっているのである。
 もうすぐ本棚が一杯になるとは思っていたがまさか既に一杯になっていたと
は。
「これは……うっかりしていた」
 ここ最近ずっと未読本の塔が気になっていたので、それを無くすことしか考
えていなかったのである。
 未読本が読了本に変わっても、本は本。その存在が無くなるはずがないこと
は誰だって分かる。しかし、彼は今の今までそのことをすっかり忘れていたの
だった。
 うっかりするにも程がある、と彼は苦笑いを浮かべた。
 そして、椅子に座ると改めて本棚を眺めた。とりあえずは今日読んだ本を仕
舞う場所を作らないといけない。
 あそこの本を縦にして横に詰めれば何とか入らなくもないか、とある程度目
算を付けて作業に取りかかるべく立ち上がった。
「……でも、どうせすぐまた同じ状況になるんだよなあ」
 溜息と共に出たその呟きは誰に届くこともなく部屋の空気に溶けていった。

時系列と舞台
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2009年1月下旬辺り。


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