[KATARIBE 32160] [HA06N] 小説『特化された言語感覚』

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Date: Sat, 21 Feb 2009 23:15:42 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 32160] [HA06N] 小説『特化された言語感覚』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2009年02月21日:23時15分42秒
Sub:[HA06N]小説『特化された言語感覚』:
From:いー・あーる


ちうわけで、いー・あーる@のたのた です。
チャットでちょいと話したネタです。

*****************
小説『特化された言語感覚』
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登場人物
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 中里嘉穂(なかざと・かほ)
   :吹大一年生、姐御肌の同人誌作成者。吹利或る意味最強な腐女子の一人。
 吉野 歩(よしの・あゆみ)
   :吹大一年生、メイド服作成係。中里嘉穂とは中学からの付き合い。
   :口数は少ないが萌えは外さない。
 薗煮広美(そのに・ひろみ)
   :吹大一年生、漫研かつ剣道部所属の腐女子さん。薗煮広矢とはおじと姪。
 形埜智明(かたの・ともあき)
   :愛想無しの植物限定エンパシスト。高校、大学、と聡や夕樹の先輩にあたる。
   :古書店蜜柑堂にてバイト中。

本文
----

「えーそりゃあ、ジョーカーとかメジャーなとこもいいけど、そこで押すだけ
じゃあアレだな。やっぱり週末くらい入れないと」

 全単語が日本語で成り立っており、尚且つさっぱりわけがわからない文章と
いうものは、結構それなりに成り立つ、とは知っているものの。
(なんなんだ一体)
 県警きっての情報通と名高い(?)母親に育てられたせいか、形埜智明は口
数が少ない。が、だからと言って内心何も考えていないわけではない。時には
もう考えなくていいだろう、と、自身で突っ込みを入れながらも、尚考えてい
たりする。

「週末……難しいなあ、仮面かぶってるし」
「週末ダメなら白菊でもいいよ」
「……そういうのを節操無しと言う」
「わーんっ」

 場所は古書店、蜜柑堂。
 店でそんなん騒ぐなよ、と、言いたいところだが、今の時間、客は彼等三人
しか居ない。彼らもまた、他の客が居る時には絶対に騒がないようにしている
から、こういう場合には『大目に見るもんだよ』と、店長のお達しは既に出て
いる。

「でも、そこで菊は必須?白骨もいいんじゃない?」
「白骨は……オールドローズに通じるもんがあるけど、でも本家様で出てない
ものねえ。あんまり先走っても」
「でも、あの二人なら、あれがある。ファルコシリーズ」
「あー、あたしもそれ思った!もろあの時代じゃん!」

 さて。
 聴けば聴くほどわけが判らなくなるこの会話、理解に至る一助としての一つ
の事実がある。
(つまり……まあそういう組み合わせについての会話なんだろうけど)
 中山嘉穂。薗煮広美。吉野歩。
 三人並べると……少なくとも吹利大学の同学年の面々にしてみれば、相当に
『有名』な名前となる。一年の時から学祭で腐女子系の同人誌をどんと出し、
それがまた相当に売れたという。
(学外から、わざわざ買いに来た子も居るらしいし)
『実は一冊買ってみたんです。吉野さんに聞いて、一番恐ろしくない奴を』
 活字ならば何でも来い、或る意味恐れ知らずの後輩がそう言ったことがある。
『吉野さんだと……何と言うかな、まだ話が判る気がしたんで。中里さんの書
いた話で、友愛で止まるのがあるからって読ませてもらったんですが』
 源氏物語はアンソロジーまたは乙女ゲー。『我等こそこの日の本の正しき文
化後継者』と、いらんところで胸を張る中里嘉穂の書く話。それだけで恐ろし
いぞ、と智明は思ったのだが。
『……正直。上手かったです。何と言うかな、言葉のセンスがいいな、と』
 ただ、そう褒めたら、違う違う、と吉野は首を振ったという。
『元々そういう……分野なんだ、とか』
 そういう分野、の意味は。
(知りたくねえそんなもん)
 思い出しただけで、智明は少々憮然とした。

「あーでもどの組み合わせにするかなあ。どうせなら総受けとかいいかなあ」
「……嘉穂」
 ちたぱたと、足踏みをする一名の肩に、ぽん、と手を置いて、中では一番落
ち着いて見える吉野歩が首を振った。
「もうちょっと予算と締め切りと現実を眺めてみよう」
「えーー……あ、そしたらさ、歩の作った人形をこう、付けて……そしたらほ
ら、限定一冊特装版で」
「絶対厭」
「えーーーー」
「どんだけ手間がかかると思ってんの」

 ぐたぐたと拗ねだした嘉穂の声を、ふと止める声があった。
「あのー」
「……あ、はぃ……あ、うるさかったですねすみませんっ」
 この素直があるなら最初から店では静かにしろよ、と、智明は、本の表紙に
消しゴムを軽くかけながら思ったのだが。
「いえ、違うんです。あのですね」
 カウンター前の、長い髪の娘は首をかしげた。
「週末って、何?」

 くどいようだが、全員お得意様である。
 従って、彼女達が腐女子であることも、この店では周知の事実である(そも
そも大学ですら周知なのだから、同じ大学生の智明が知らないわけもない)。
 だから、『週末』というのが、何らかの二人を示すのは、わかるのだが。
(それは俺も知りたかった)
 いい質問だ、と、思わず頷きかけた智明の内心を知るわけもなかろうが。

「あー、それですか」
 あっけらかん、と、嘉穂は答えた。
「トルコとうちの国です」
「……はい?」
「ええとですね、トルコを漢字で書いてみて下さい」

 トルコ。土耳古。

「次にですね、うちの国は……まあ、大概漢字なわけですけど」

 日本。当然である。

「その、最初の漢字を並べると」
「あ、ああ!」

 土日→週末。

「……うわあ盲点!」
「面白いでしょう?」
「え、そしたらジョーカーってのも?」
「ジョーンズとカークランドの、最初の一文字をとってくっつけてるんです」
「はー」

 レジ係は、頬に手を当てて溜息をつくように感嘆の声をもらした。

「なんか凄いですねえ、その思い付きが」
「でしょー」
 うふふ、と、嘉穂は笑った。
「結構私らの分野、こういう略語っぽいの多いんです」
「やっぱり、文章書く人達だから、言葉のセンスがいいのかな」
 その感想は聡と似ている、と、智明が思ったか思わないかのうちに。
「そればっかじゃないと思います」
 頷きかけた嘉穂を遮るように、歩が断言する。
「というと?」
「結局、どれだけ要領よく隠すかってもあるんじゃないですかね」
「……あ、なるほど」
「私達が同人誌書く話って、普通のファンがいる場合が結構あるんです。絶対
腐女子的な展開なんて厭だって人も居る。当然ですが、その方達が不快になる
ようだと申し訳ないし困る」
 普段は、薗煮広美と中里嘉穂に遮られて、あまり多くを話さないように見え
る歩だが、こうなると流石にこの三人組の一人、滔々と流れるように話す。
「従って、こういう暗号みたいな言葉をつかう……んじゃないかと私は思うん
ですが」
「……はー、なるほど」

 そうやって研ぎ澄まされた言語感覚を。
(……こちらからすると、思いっきり無駄に使ってる気がするけれども)
 まあ、それが本望なのだろう……と。
 智明は納得した。

 いつの間にやらレジ係まで巻き込んで、三人の話はヒートアップしている。
 消しゴムをかけ終えた本をぽんぽん、と、はたく音にまぎれて。
 智明はこっそり、溜息をついた。


時系列
------
 2008〜9年、冬のどっか。

解説
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 つまりそういう腐女子な話。
 ここの略語は全て……実際にあります(汗)。
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 確かに考えてみたら、昔漫研だった頃も、先輩達がそういう暗号を
使って話していたような覚えはあるのですが……。
 なので、秘密にするというより、『共犯者』的な感覚のほうが
こういう略語を生み出すのかもしれない、と、PLは思っていたり。

 であであ。
 
 


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