[KATARIBE 32150] [HA21N] 小説『情報収集〜馨の場合』

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Date: Tue, 10 Feb 2009 01:15:54 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 32150] [HA21N] 小説『情報収集〜馨の場合』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2009年02月10日:01時15分54秒
Sub:[HA21N]小説『情報収集〜馨の場合』:
From:いー・あーる


ちうわけで、いー・あーるです。
あるかさんとこの水鶏さん捜索隊、行動開始です。
……でも地味ですけど。

*********************
小説『情報収集〜馨の場合』
=========================
登場人物
--------
 六角 馨(むすみ・かおる)
   :様々な化学物質を皮膚を介在して相手に流し込むことの出来る異能者。
   :通り名は『ドラッグ・クイーン』

本文
----

 情報社会といわれる現在、ごく普通に生きている人間は、ごく普通に足跡を
残す。
 人一人、完全にその足跡を絶つことは……それなりに困難になりつつある。

           **

 安西、水鶏。
 姓はともかく名は十分に珍しい。

(生まれた最初から隠れて育っているならともかく)
 かたかたと、キーボードを叩きながら馨は小さく呟いている。
(あたしらの世代なら、彼女の痕跡はどこかに残っている)

『あの女』
 水に痛めつけられた青年。彼の口調からは、その女性がどうやら彼とそう変
わらない年代であったような感覚があった。
(そこらは思い込みかもしれないけど)
 自分が中学の頃、丁度中学のホームページを先生が作っていた。同じクラス
のメンバーの名前が、確かサイトには載っていたと思う。
(インターネットの初期)
(まだ、情報の保護なんてのが……さほど重要視されていなかった頃)

 実際笑うに笑えない話が結構ある。情報収集を目的とした衛星の設計に際し
て、そのセンサーについての議事録が、全てテキスト化されてネットに無造作
に置かれていた、とか。

(こういう情報は、年毎に更新されるけど)
 かたかたと、名前を打ち込み検索をかける。
「……ああやっぱり」
 水鶏、という鳥についての情報と。
 そして……どうやら彼女自身の名前が書かれた、サイト。

(安西、水鶏)
 マウスを走らせ、情報をコピーする。
(吹利西中学……って)
 自分の中学は、吹利東中学。
 そして、入学年度は。
(あたしの一年前、か)

 パソコンの画面を前にして馨は考え込む。が、それは決して長い時間ではな
かった。すぐに立ち上がり、本箱の隅に突き刺すように入っている大き目の本
を取り出す。箱型のカバーから取り出したのは、中学の卒業アルバムである。
 自分のクラスのページを開いて、馨は暫く考え込んでいた。

           **

『うっわあ馨!なっつかしー』
「お久しぶりね」

 奇矯な異能、それによって歪められた性格……の割に、馨は中学高校と、ク
ラスで浮くことは一切無かった。クラスの中にほど良く埋没し、適当に忘れら
れ、電話をすれば懐かしがられる。そういう仮面はビニールのような質感の肌
と同様、彼女の盾ともなっている。
 他愛の無い会話、近況、とひとしきり話した後、ようやく馨は本題に入った。

「ねえ、ひとみは吹奏楽部だったよね」
『ええ、ブラバンだったわよ』
「あの頃、結構他の中学と一緒に練習とかしてなかった?西中とか」
『してたしてた。でもどうしたの、それが?』
「うん、それがねえ」
 ほんの少し躊躇っているような間を空けて、馨は言葉を継ぐ。
「あたしも……なんていうか、知り合いから訊かれて、ちょっと困ってるとこ
なんだけど」
『え、なになに?』
 ブラスバンドのホルン奏者。三年の時の部長。人が良いのとお喋りなのと、
顔の広さでは有名だった彼女は、今もやはり噂には敏感らしい。
「うん。安西水鶏って人、知ってる?」
『あんざい……くいな?』
 数秒の、間。
 そして。
『ああああ、安西水鶏!』
 合点がいった、といわんばかりの声が響いた。

 安西水鶏。
 一学年先輩の彼女は、別の学校の後輩が憶えているくらいには、有名な生徒
だったという。
『西中では結構有名だったわよ、綺麗で、男子たちに人気があって、でも奥手
で。そんな少女漫画みたいな子が本当に居るもんだって、話してたんだけど』
 それでも、彼女は、中三に進級してすぐに、学校を辞めたという。
「って?」
 尋ねた馨に、電話の向こうの声は素っ気無く答えた。
『妊娠よ』

 綺麗で奥手で引っ込み思案、彼女にしたい、と言っていた男子も結構居たが、
妊娠、となった途端に皆一斉にそっぽを向いた、という。
『それまで……何ていうかなあ、ちょっと出来すぎ、みたいな……こう、女子
にしたら羨ましい子って思ってたのが、突然妊娠、相手はわからない、だもの。
それって援交かって、相当言われたわ』
「ああ……そういう時期だったわね」
『そうそう。学校を辞めた後に結局流産したって言ったか……それとも流産し
たから妊娠がばれたのか、あたしも憶えてないけど』
 そのどっちかだったと思う、と、彼女は言った。

 綺麗な女性。
 多分、今も。

『でもどうして?安西水鶏なんてあたしすっかり忘れてたのに』
「うん、あたしに頼んだ人も、人から頼まれてだから事情が良く判らないらし
かったんだけど」
 ちょっと困ったような声音で、馨はすらすらとでまかせを並べる。
「安西水鶏って子に、悪い噂ってあるのかって訊かれて……」
『へえ。それって……あれかしらね、結婚前の興信所の調査とか』
「それは判らないわあ」
 苦笑交じりの声に、相手も、それはそうよね、と苦笑で返す。
「でも、助かった。あたしも訊かれて何も言えなくてね。そしたら誰にでもい
い、訊いてみてくれないかって言われて……ひとみなら知ってるんじゃないかっ
て思ったの」
『え、あたし?』
「だってほら、友達多かったし、人のことを本当によく憶えてたじゃない。誕
生日とか色々……凄いなって思ってたのよ、いつも」
『凄いかなあ』
「そりゃあ……それに嬉しかったわよ。誕生日おめでとうって、一番にいつも
言ってくれてたから」
 下手をすれば詮索好きの金棒引き、となる特徴を、すらりと馨は『褒められ
るべき特質』に変える。電話の向こうの声も嬉しげなものになった。
『そうだっけ?』
「そーだよ」
 照れたように笑う気配に、馨もまた、声を立てずに笑った。
 口の端を持ち上げるだけの、ひどく冷たい笑いだった。

 それじゃあね、またね、と言い合って電話を切る。
 途端に馨の口元の笑みは掻き消えた。

「……安西水鶏。妊娠騒ぎで退学、か」
(あの女は、いつもガキを……赤ん坊を抱いていた)
 まだ若い男が、顔をひきつらせながら語った言葉。
 流産の噂。
(あの女が抱いたガキが…………水を、吐いたんだ)

『水』は本来分たれているべきものを一つにしようとする。さみしいから、と
人を人にくっつける。
 で、あるならば。

(流産した子供と、水を吐く赤ん坊)

 受話器の上に手を置いたまま、馨は一つ溜息をついた。


時系列
------
 2009年1〜2月頃

解説
----
 水に関わる異能者、安西水鶏について調べる馨の風景
*******************

 てなもんです。
 ここに書かれている水鶏さんについて、問題等ありましたら、
あるかさん、訂正をお願いします(平謝<先に謝る奴)。

 であであ。


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