[KATARIBE 32149] [HA06N] 小説『相談』

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Date: Mon,  9 Feb 2009 00:24:45 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 32149] [HA06N] 小説『相談』
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2009年02月09日:00時24分44秒
Sub:[HA06N]小説『相談』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーる@さむいよさむいよ です。
時系列完全無茶苦茶に、一つ流します。

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小説『相談』
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登場人物
--------
 本宮尚久(もとみや・なおひさ)
  :本宮家の大黒柱、妻を亡くしている。小池の大学時代からの親友
 六華(りっか)
  :現世に戻った冬女。本宮尚久宅にて下宿中。
 小池国生(こいけ・くにお)
  :尚久の親友、正体は血を喰らう白鬼。六華に近しいものを感じている。


本文
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「おや、六華さんか」
 酒瓶を一つ持って、階下の部屋を訪ねる。読みかけていたらしい本を閉じる
と、尚久は笑って手招きした。
「あの、お邪魔でしたか」
「いや、そんなことはないよ。暇で読んでいただけだしね」
 本当のところはどうかわからない。けれども笑いながら彼は向かいの椅子を
指し示した。
「それは、何かね?」
「いえ……日本で作っているウィスキーらしいです。バイト先の店長さんが、
お客さんから売りつけられたとかで」
「分けてくれたのかね」
「……格安で売ってあげよう、美味しいよ、だそうです」
 苦笑しながら六華は、瓶の蓋をねじって開けた。


 何が出来るのだろうと思う。
 何を求められているのだろうかと思う。

 綺麗な綺麗な軌道を描いて廻る、この人達に。

      **

 それは、二日ほど前のことだったと思う。
 
「……そんなに、気負わないでください」
 白鬼の血肉を欲する人々が居るのだという。そして彼らは今も、国生を狙っ
ているのだという。それならば護らなければ、と、六華が声を上げたのが、会
話の始まりだったと思う。
「己の身は己で護ります。代わりに……お互いの心を護れるように」 
「……だっ……」 
「……その為に、一緒に歩いていて欲しいです」  

 一緒に歩く、ということには疑問はない。
 けれども、護る相手の心の中に居るのは、確かに麻須美と尚久で。
 彼の中の、あの二人を護ること。それは確かに誇らしいことではある。護り
たい二人でもある。

 護りたいと思った。
 護りますよ、と言った。
 だから、彼の言葉は決して不当でも何でもない。
 …………けれども。

「……お互いの、心って……いっても」
 護りたいと思い、同時にそれが辛い。理由は言うに言えず、六華はうろうろ
と言葉を捜した。 
「国生さん……綺麗なんだもの」 
 言い切った六華に、国生は不思議そうな顔をした。
「貴方も綺麗ですよ」 
 びくり、と、六華の肩が跳ねる。
「……綺麗じゃない」 
「綺麗ですよ」 
 白い髪に紫の目。万人が見惚れるほどに綺麗な鬼は、にっこりと笑って言う。
「……真っ直ぐで、澄んでいて」 
 優しい目は六華のほうを見やる。
「淡雪の兎のように」 
「…………っ」 

 自分の心がどれだけ汚いか、彼は知らない。
 どれほどの嵐が荒れ狂っているのか。
 どれほどの醜さが吹き上げているのか。

 その醜さは知らせたいけれど、どうしてなのかは知られたくない。
 だから、六華は言葉を捜す。

「所詮はあたしは……この身体を売って、生きていた者ですから」 
 それはどうしようもない事実。
 なのに。
「……綺麗ですよ」 
 ふわり、と手が伸びる。そっと六華の手を包むように取って、国生はじっと
六華を見た。 
「その心は売れません」 
 
 どうしてだろう、と、思うことがある。
 自分と同じくらい長い時を生きてきた相手。だというのにこの人は、異常な
くらい真っ直ぐだ。
 どうやってその心を守ってきたのだろうと思う。どうしたらその心がそのま
ま在ることが出来るだろう、とも。

 泣きそうになるのを唇をかんで堪えた六華の頭を、今もそっと撫でる手があ
る。一切の駆け引きも何も無く、何かを期待することもなく。
 ほろほろと、涙がこぼれた。
「……私に、何が出来るでしょうか」
 思いつめたような六華の声に、少し困ったように微笑んで国生が答える。 
「何が、何を、でなく…………この、長い時間を少しでも、同じものを見て同
じ時間を過ごして、時に思い出して」 
 優しい優しい、頭を撫でる手。
 優しい優しい、その語る言葉。
 その内容もまた……本当に綺麗なものであるのに。

「かつてあった、美しかったものいとおしかったものの記憶を……語りましょ
う」 
 微笑んで語る、その言葉は綺麗で優しくて親切で。
 同時に……むごい。

 国生の中の麻須美を護る。
 その心を護り続ける。
 
「私たちの時間は…………まだまだ、続くのですから」 
 その言葉に、六華は頷く。
 あやかしの自分達は、これから長く長く生きていくのだから。

 綺麗な綺麗な、三角を描く想いに惹かれた。
 何故こんなに綺麗なまま、保たれているのだろうと思った。
 長く生きていくその中で、この人の中の二人への想いが、曲がることのない
ように。それだけを願っていた。
 筈……なのだけれど。

「……わかり、ました」
 呟いた六華を見て、国生はにこっと笑った。
(白い華のよう)
 
 綺麗な綺麗な……触れてはならない華のよう。

「……どうされました?」 
 ふと、心配そうに声をかけられて、六華は顔を上げた。 
「ごめんなさい……もう少し」 
「……はい」  
 もう少し、何だというのか。
 もう少し時間があったら、それで諦められるというのか。
 さらさらと頭を撫でる手を。心配そうにこちらを見る目を。
 
「いえあの、そうやって一緒に時を過ごす、それは……私も望んだことなんです」 
 慌てたように言葉を続ける六華の肩に、ふわりと手が乗る。
「……………ただ」

 ただ。
 
「六華さん?」 
 やはり心配そうに見やる相手に、六華は少し笑って答える。
「…………私のわがままです。お気になさらず」 
 さらさらと静かに砂がこぼれるように、その言葉は唇を離れる。
 唇はそのまま、笑みの形に曲がった。

「……大丈夫」 
「……はい」 
 さら、と、頭を撫でた手が、そのままふわりと離れて。
「お茶のお代わり、淹れましょうか」
 優しい声が、そう言った。

       **

「…………それで?」
 いつの間にか瓶の中身は、半分近く減っている。グラスの中に、やはり半分
ほど残っている琥珀の色を、六華はぼんやりと眺めた。
「………多分、食い違っているんだと……思いました」
 
 一緒の時を過ごして、一緒の記憶を持つ。麻須美を亡くし、いつか尚久も離
れてゆく。その時に彼の傍に居ても良いように。
 最初からその約束で、一緒に過ごした。
 護りますから、と。 

「……あの、おじさまには……とても不愉快かも、しれないんですけど」 
 少し目を見開いて、尚久が続きを促す。一度息を呑んで、六華は言葉を押し
出した。
「私は……小池さんが、好きです」 
 何か言いたげに、尚久が眉を寄せる。その前に、と、六華は必死にくちを開
いた。
「多分……その、好き、の種類が、小池さんと、違う……のかも、しれない、
だけで」 
「不愉快なんてことはないさ」 
 あっさりと遮られて、六華は、と、口をつぐんだ。
「むしろ、喜ばしいことなんじゃないかな。」 
「え」 
 目を丸くした六華のほうを、尚久は苦笑しながら見やる。
「……だって……おじさま、は」 
「大切だよ」 
「…………でも」 
 手の中のグラスを、六華はうろうろと動かした。
「ああ、ごめんなさい、上手く言えない」 
 うろうろと、まるで言葉を捜すように視線を動かす六華を見ると、尚久は
子供に言い聞かすようにはっきりと言った。
「だから、彼を大切に思ってくれることは、とても嬉しい」 
 はたり、と、六華が動きを止める。それに苦笑しながら、言葉を継いだ。
「それに、彼は……なんていうかな、こういうことに本当に臆病だから」 

 臆病、とはどういうことなのか。
 いや、尚久が言おうとすることは判る。予測がつく、が。
(それは違う)

「……記憶を、共有して、一緒に過ごしていこう、と」 
 同じ、長い時を過ごしてゆく仲間。さらさらと流れ消えてゆく人々の中、互
いに時を経てゆける者。
「でもそれって、一緒に時を過ごして……それでいいですよね。あたしが、国
生さんに関わらなくても、同じものを見ていたら……」 

 積み上がった記憶の間から、こぼれる赤いかなしみの流れ。
 そのかなしみを少しでも止めたいと思い。
 そのかなしみを、多分国生もまた止めたいと思い。

 その為に、自分が居るのなら。

「おじさま」 
「……なんだい?」 
 ずっと喉の辺りにつかえているものを押し出すように、六華は早口で言う。
「大切ですって、何度も、言ってもらってるんです」 
「……うん」 
「…………好き、ではないんだ、な」 
 ほろり、とこぼした言葉に、尚久が少し目を開く。
「あ、おじさま、今呆れてるでしょ」
 くすくす笑いながら、六華はグラスを揺らした。
「ほんとなの。好きだって言うと……ありがとう、って言われる」 
「想像がつくよ」 
「……だから、多分、好き、ではないんだろうなって」 

 ありがとう、その心は嬉しいです。
 ありがとう、一緒に歩いてくれますね。
 ありがとう、一緒に護ってくれますね。

(陽だまりの中で笑っていたひと)
(優しくて、時を経てもずっと無邪気で)
(透き通るようなひと)

 六華自身も惹かれたその人の記憶。
 白鬼の中の彼女の記憶を、一緒に護る為に。

「でもね、最初から、そういう約束だったから」 
 尚久の表情は動かない。だからほろほろと言葉はこぼれる。
「一緒に過ごしてゆく……そういう」 
 言いかけて、口をつぐむ。
 約束を破りたいかと言われれば、破りたくないと素直に思う。
 けれども。
 
「……ごめんなさい」 
 くすり、と、笑って六華は小さく頭を下げる。
「だいぶ楽になりました」 
「……ああ」
「これ、結構美味しいですね。また買ってこようかな」
「寝酒に?」
「おじさまが一緒に呑んで下さるなら、ご一緒したいです」
「それは喜んで」

 小さく溜息をついて、尚久は口元をゆがめた。
 その意味は……六華には、判らなかった。

時系列
------
 2008年11月

解説
----
 六華、尚父に相談……というより愚痴りにゆく、の図。
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 てなもんです。
 どぞですひさしゃー(もうぴんぽいんと)<おい

 であであ。
 
 


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