[KATARIBE 32141] [HA21N] 小さな願い

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Date: Mon, 2 Feb 2009 02:22:31 +0900
From: Subject: [KATARIBE 32141] [HA21N] 小さな願い
To: kataribe-ml <kataribe-ml@trpg.net>
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[HA21N] 小さな願い
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登場人物
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HA21C:Generator:宮島友霞(みやじま・ゆか)
    http://kataribe.com/HA/21/C/0113/
HA21C:強化改造人間:ウヤダ
    http://kataribe.com/HA/21/C/0062/
HA21C:Midnight Step:淡蒲萄(うすえび)
    http://kataribe.com/HA/21/C/0005/


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 まだ私には、何も見えていない。 私にある力、その理由も。匿われている
私の、これからの人生についても。

 中学校を卒業出来るのかどうかもわからない。出席日数がどうなるのかも、
聞いてみたい気はするけど、聞いてもしょうがないんじゃないか、と思った。

 それよりも、前向きに出来ることをやろう。


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 今日もあれこれと指示を出して、うやださんは画面と少しにらめっこしてか
ら、飛び出していった。やることがあるだけ、今は前より退屈はしなくて済ん
でいるけれど、うやださんの忙しさはやっぱり変わってないように見える。

 ここでお世話になるようになって、見ていて気付いたことがある。うやださん
は、何でも自分でやりたがっちゃうタイプの人だ、ということだ。私が今やっ
ているこの事務仕事(の初歩の初歩)だって、たぶんうやださんがやれば、私
よりずっと早く確実に片付いてしまうんだと思う。それでも、私に手伝わせて
くれているのは、私を買っているのではもちろんなく、手が追いつかなくなっ
てきたからなんだろう。

 それに、淡蒲萄さんの思惑もあるみたいだった。将来、私がまた学校に通っ
たり、もしくは社会に出て普通に働いたり出来るようになった時のために、仕
事の一つでも覚えておいた方がいいだろうと。あの人は居たり居なかったりが
激しくて、何をしているのかわからないけれど。この円卓という組織を立ち上
げた人物であり、会社でいったら社長みたいなもんだ、と香方さんは教えてく
れた。見た感じの年齢は、私とあまり変わらないのに、いろいろと顔が利いて
しかもお金持ちらしい。今度、どうしてこの円卓を立ち上げたのか、訊いてみ
たいとは思う。

 とにかく、今の私に出来ることは、このたくさんある書類をまとめて、PCに
入力していくということだ。そして、それをきちんとこなして、うやださんの
助けになる。うやださんは私を助けてくれた。私の姉と、何か因縁があるのだ、
ということは話してくれたけど、それがなんなのかまではまだ話してくれてい
ない。それを話してくれないうちは、まだまだ未熟な子供としてしか見てくれ
ないんだろう。

 ふと、思った。

「どうして、うやださんを助けたいんだろう」

 いつだったか、眠りたくても眠れない、と話された。それは私にはとても悲
しいことに思えて、自分がそうだったら耐えられないと感じて、うっかり泣い
たりしてしまった。うやださんには、どうして泣いたのかもわかってなかった
みたいだけど。

 実際はどうなのか知らないけど、眠ることで、気持ちとか感情にリセットが
かかるんだと、私は思う。姉が中学に入ったあたりからは、あまり会話してな
かったけど、それでも帰ってこなくなったときはショックでご飯も食べられな
かった。その晩は眠れなかったけど、次の日にはさすがに眠くて、倒れるよう
に眠ってしまっていた。

 そうやって毎日が過ぎていくうちに、だんだんと姉が居ない事実を受け入れ
られるようになっていった。辛い気持ちに、眠ることで空白が挟まれて、中和
されて薄まっていったんだと思っている。耐えられる程度の重さになって、少
しずつ慣れていって、受け入れられるようになったんだと。

 眠れないうやださんは、もしかしたら辛い気持ちをずっとそのまま抱え込ん
でいるんじゃないかって。何年も生きてて、改造までされていて。それでも眠
れずに、ずっといろいろなことを覚えたまま生きているんだと。そう思ったら、
どうしようもなく悲しくなってしまった。

 そして、うやださんの為に何かしたいと思った。

 助けてくれた恩もある。うやださんは気にするな、とかこっちが勝手にやっ
たことだ、とか言うけれど。私にとって、助けられたのは事実。うやださんが
いなかったら、今こうしていられないことくらいわかる。だから、まずはうや
ださんが眠れるように。忙しくて時間がないんだったら、少しでも時間がとれ
るようにする。だから、仕事を手伝って、時間を工面できるように。

 出来ることから。今はそれしか出来なくても。

 そして、いつか、仏頂面ばっかりのうやださんが、お誕生日みたいな特別な
ことがなくても、笑えるようになりますように。笑ってくれますように。

 いつか私の肩にかけてくれたあのコートを羽織って出て行くうやださん。そ
の背中を見送りながら、私は願う。


時系列と舞台
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2009年初旬。

解説
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ユカタンの独白。

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Toyolina
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