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Date: Mon, 26 Jan 2009 23:11:21 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 32120] [HA21N] 小説『重低音』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <20090126141121.D4BCA49DB02@www.mahoroba.ne.jp>
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2009年01月26日:23時11分21秒
Sub:[HA21N]小説『重低音』:
From:いー・あーる
ども、いー・あーるです。
文章力が低下しまくってます(滅)
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小説『重低音』
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登場人物
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薬袋光郎(みない・みつろう)
:薬袋の一族の一人。人の心の声を聴く異能者。バー「はいむ」を営む。
六角 馨(むすみ・かおる)
:様々な化学物質を皮膚を介在して相手に流し込むことの出来る異能者。
:通り名は『ドラッグ・クイーン』
本文
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フェル先生。
ぼくはあなたがきらいです。
どうしてなのかわかりません。
**
「…………解せない、な」
小さな呟きだが、はいむの店長にとっては聞き取りには問題が無い。キノコ
のカルボナーラを差し出しながら不思議そうな顔をした光郎に、馨は小さく肩
をすくめた。
「……『水』の麻薬。大元ははっきりしないにしろ、まだあちこちで作られ、
売られている」
「……そうみたいだね」
はいむ、という店の前に何と言う呼称をつけるべきか、馨は時々考え込むこ
とがある。バーというには、一日中開いているし、喫茶というには酒の度合い
が高すぎる。レストランというにはそもそもメニューらしきものが無いし、し
かし『大人のお店』とも思えない。そういう意味では『はいむという店』とし
か言いようの無いこの店に入り浸るようになって、しばらくになる。
「……石橋が、手を引いた」
ぽつり、と、呟いた馨の声に、カウンターに戻ってカップを拭いていた光郎
が顔を上げた。
「石橋?……ああ」
石橋という男は、裏社会ではそれなりに有名ではあるが、『彼が手を引いた』
という意味を咄嗟に了解し理解するあたりが並ではない。内心で突っ込みを入
れながら、馨は頷いた。
「犬丸組にあの男が目を光らしている限り、水の拡散はかなり抑えられたと思
う。が」
小さく息を吐いて、馨は呟いた。
「この時期に何で手を引くのか、それが判らない」
『水』という存在。
それ自体が悪だ、とは馨も思わない。ただ、何故か『水』を利用しようとす
る者は、紆余曲折どこを通ろうとも悪党になるのである。
そういう中で、石橋という男は、『水』を利用することについては、常に反
対する立場に居た。犬丸組の『姐御』を、ある意味では利用しながらも、しか
し彼はその点では常にはっきりしていた。
その彼が、唐突に己の守りの位置を手放したのはつい最近。三重蔵が嘆くの
は、無論彼と彼の母親を思ってのことだろうが、そのような心理とは基本無縁
な馨にしても、彼の守備放棄については唖然とするしかない。
「……ヤルタ会談ってのがあったろう」
ぐいぐい、と、手に取ったフォークを押し付けてくる。それは冷えるとまず
いから、さあ食べろまず食べろ……と、身振りで示してから光郎は言う。
「は?……あの、歴史上の?」
うん、と、光郎は頷いた。
「あそこに居たのは、ルーズベルトとチャーチルとスターリン」
高校の頃の教科書を思い出しながら、はあ、と、あやふやな顔のまま馨が頷
く。光郎はくすりと笑った。
「どこかで読んだんだがね、ルーズベルトは体調がひどく悪く、チャーチルも
やはり万全な体調ではなかった」
これ見よがしに指を折ってみせながら、光郎は笑い、馨の傍に座った。
「元気だったのはスターリンだけ……とね。その結果スターリンの異常な領土
拡大案が通ってしまった……と」
「…………つまり?」
「全ての決断が、その人が体調万全な時になされるものじゃないってことさ」
にこっと笑って言われた言葉に、馨はふと考え込んだ。
石橋が、体調なりなんなりを崩している可能性。
そういう可能性もある、と……そういうことだろうか。
「その可能性は……考えてなかったな」
体内で自在に化学物質を生成し、それを触れることで他に移すことが出来る
のが馨の異能である。つまり自分の体調は、それらの化学物質で幾らでも調整
することが出来る。
身体を壊す、と言うこと自体、考え付かない。
「……しかしそうすると、余計に」
「水の麻薬が出回る可能性は高いね」
にこにこ、と、笑い顔のまま言われて、馨は溜息をついた。
「……困ったな、それでなくともお子様達を守らないといけないのに」
ぼやく声に、光郎が目を丸くした。
「お子様達?」
「犬丸三重蔵君と、その友達。……タカちゃんと言ったかな?」
馨にしてみれば、何の気無しに言った言葉、なわけだが。
「……??」
がく、と、テーブルにのめる勢いで光郎が頭を抱え込んでいる。盛大な溜息
が漏れた。
「……そうくるか……」
ああ全く、と、呟きながら顔を上げる。そこで馨はふと目を見張った。
「……タカっていうのは、貴方の関係者か?」
年齢や性別は、これは無論全く似たところが無い。が、少し目尻の上がった、
黒々とした目の印象はどこかよく似ている。虹彩と瞳孔の色合いが非常に近い、
それ故にどこか引き込まれるような色合いの目。
「関係者というか、同じ一族というか……」
一族という呼称が妙に時代がかって聴こえたが、その意味は判る。
「それなら安心だな」
「安心?!」
珍しく、光郎の声が跳ね上がる。
「いや、それならただの子じゃないんだろうし」
そういう意味では、彼女が『水』に巻き込まれても多少安心できる。少なく
ともタカには、このはいむという避難所がある。
「確かに、ただの子ではない、ないが……」
現在生き残る薬袋の一族の中でも、確かに随一の異能を持つ子供ではある。
が。
「どこに行くか判らないボールのような子だよ。ぶつかった相手を殲滅しかね
ないが、そもそも殲滅しておいて自分はどこに行くのか本人も判ってない」
つまり、関わる馨にとっても時には危険なのだ……と言う前に。
「その場合は三重蔵君を盾にするかな」
あっさりと言われて、光郎はもう一度溜息をついた。
(心配だ)
正確に言えばこの娘も、どこまで信頼できるかは判らない。
いや、基本的には信頼出来る人柄だと踏んでいる。『水』の情報を流しても
大丈夫だ、それを利用して他人を陥れることはすまい、と、それくらいのこと
は光郎にもわかる。
わかる、が。
(何故水を憎む、いや)
弟が水の麻薬のせいで死んだ、とは知っている。
が。
馨はキノコをフォークに巻きつけている。
ふう、と吹いて口に入れる、その動きは確かにどこにでもいる若い女性のそ
れで。
皮膚のビニールの人形めいた質感と、それを強調する白と黒の服装以外は、
本当に普通の女性でしかなく。
(美味しい)
(水、タカって子)
ふわふわと漂うような表層の感情の奥にある、その重低音。
(にくい)
(にくい)
(水が)
(弟が)
その二つは同じ振幅で放たれている。
混ざり合うことのない、二色の細い糸のように。
(何故、憎む)
(水を憎むその強さと同じ強さで)
(何故……弟を)
その答えは……今はまだ聴こえてこない。
今は、まだ。
(でも確かです。全く確か)
その、マ・メール・ロワの一節を光郎はふと思い出す。
ビニールの質感の中に囲われた、重低音の憎しみ。
その軽妙なあそびうたは、彼女の『音』に絡んでくるくると回る。
(フェル先生)
(ぼくはあなたがきらいです)
不意に顔を上げて、馨が笑う。
「美味しい、これ」
「それは……よかった」
時系列
------
2008年10月頃。
解説
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馨が犬丸三重蔵配下で働き出して少しした頃の話。
『黄緑の水』[KATARIBE 32039]よりも、少し前の話。
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てなわけで。
であであ。
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