[KATARIBE 32118] [HA21N] 小説『断片〜過去見』

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Date: Fri, 23 Jan 2009 01:08:11 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 32118] [HA21N] 小説『断片〜過去見』
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2009年01月23日:01時08分10秒
Sub:[HA21N]小説『断片〜過去見』:
From:いー・あーる


どうも、話のとろい、いー・あーるです。
完全にうちのキャラクターサイドの話。

こういう因縁があるのですよーみたいな。

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小説『断片〜過去見』
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 薬袋光郎(みない・みつろう)
    :薬袋の一族、分家筋に当たる一名。他者の心の声を聴く異能者。
 平塚花澄(ひらつか・かすみ)
    :鬼海の家の当主。四大に護られる。

本文
----

 彼女は黙ったまま、壁のほうを向いている。


 鬼海の家の当主は、基本的にいつも笑っている。にこにこと、時に『怒って
当然』という時ですらにこやかに笑っていることがある。
 
「……花澄さん」
 だから、こうやって無言で、笑みを消していることは本当に珍しい。
「そこまで不機嫌にならなくても」
 こちらは苦笑しながら声をかけた光郎に、花澄はきっと振り返った。
「不機嫌にもなります。一族を造る、なんて、うちのお節介極まりない御先祖
くらいかと思ったら」
「お節介と言っても、それが無かったら薬袋の家は、そもそも家になる前に、
最初の一人が死亡していたと思うんだが」
「……半端なお節介って、何もしないよりも役に立たないことってあると思い
ませんか?」
「半端なお節介で、最初の一人が助かっているのだから……」
「でも、それ以降の人達が大いに迷惑を蒙っているじゃないですか」
 むっつりしながら言い返す花澄の前のグラスに、光郎はやはり苦笑しながら
暖めた香料入りのワインを注いだ。自分にも一杯注ぎ、彼女の向かいに腰掛け
る。
「そこは……解釈の違いというものだね」
 小さく息を吐くと、花澄はまた壁のほうを向いた。

             **

 かつて。
 或る村に少女が居た。
 少女は流れる水を操った。

 かつて。
 その水の流れに棲む龍が居た。
 龍は少女を慈しんだ。

 龍と少女は共に育った。

             **

「少女の両親は、彼女の異能が表に出てすぐに、村から逃げた、と、聞いてい
る……いや、うちの家には伝わっている、かな」
 癖のあるワインは、その癖のせいか余計に暖かい。一口含んで、花澄は身震
いした。光郎は言葉を続ける。
「強力な異能を持つ、それも龍の友の子供。誰かが庇わなければ、人の世の中
で生き延びることすら難しかったろうに」
「それは……必ずしも否定しません」
 むっつりとしたまま、花澄はそれでも、光郎の言葉を肯定した。
「でも、助ける方法はもっと無かったかと思うんですよ。龍と少女を他の村に
移すとか」
「……それは全く問題の解決にはならないと思うがね」

            **

 少女は、村人から忌避されて育った。
 力あるモノ、恐ろしいモノ。龍を支配下に置き、いざとなればその力で村人
に攻撃をしかねないモノ。
 それでも少女が排斥されなかったのは、逆説的ではあるが、龍が彼女になつ
いていたからである。水を操る少女とやはり水を操る龍。渇水の為、周囲の村
が困っている時でも、彼らの村は護られていた。その力を恐れながらも、飢饉
を防ぐ彼女達の力は、排斥するにはあまりに勿体無いものだったのだ。

 けれど。
 やはり彼女は忌避された。

 そしてある年、突然の地震で村が半壊した時に、少女は殺されかける。

            **

「原因は、私達のほうには伝わっていないんですけど」
「こちらにも伝わっていない。どうやら初代自身も理由が判ってなかったらし
いからね」
 皿に盛ったジンジャークッキーをぱりぽり、と、二人で齧る。
「確実にあれは、八つ当たりみたいなものだろう」
「……そういうのは、ありそうですね」
「結局、彼女が何をやっても……全くの無実でも、周囲の人は納得しなかった
ろう。彼が助けてくれなければ、彼女は確実に殺されていたと思う」
「…………そういうことも、あったと思います」
 肯定しながらも、花澄の表情はどんどんと不機嫌なものに戻ってゆく。
「そこを否定しているわけじゃないんです、私も」

             **

 そもそも、鬼海の家の異能者と言われる人々は、その大半が正確な意味での
『異能者』ではない。
 彼らには力は無い。ただ、四大……地水火風に護られている為に、結果とし
ては異能を持つように見えるだけのことである。
 従って彼らは、基本的に周囲の『異能者』達と交わることがない。彼らに対
抗する力は四大にあり、自分達はそれに護られているだけ、となると、その護
りの力が如何に強くとも、それにあまり頼りたくはない。そう考える面々だか
らこそ、四大も護ろうとするのかもしれないが。

 しかし、かつて、一度だけ。
 群を抜いて『御節介』な少年が、鬼海の当主となったことがある。

 その御節介な性格が破綻しないほどに、彼は四大から愛され護られていたと
いう。そして、そのせいか彼は、孤立する異能者がらみの問題に、自分から頭
を突っ込んでゆく傾向があった。

 村人に殺されかけた少女を庇い、少年は四大に保護を頼んだ。
 この村の地震による被害を、最小におさめるように。その復旧が早まるよう
に……と。

 彼の願いを、地は聞き届けた、という。

            **

「薬袋の家だけじゃないんです」
 溜息混じりに、花澄が言う。
「孤立する異能者のところに行って、四大に『これは自分の友人』と宣言する。
そしてそう宣言された四大は、彼もしくは彼女を護る……まったくもう」
「大した自信、というと失礼かな」
「私なら過信と言います」
 現在の当主の言葉は辛辣である。
「自分の友人と宣言すれば四大が護ってくれる。彼らが伴侶を得、その子供が
生まれ、異能が継がれるまでその宣言を撤回しない……そりゃ、それだけ見れ
ば立派かもしれません」
 けれど、と、やっぱり花澄は腹立たしげに言う。
「その力は、自分のものじゃないというのに」
 悔しげに。
「いつ尽きるとも、判らないものなのに」

            **

 龍の友であり、四大に護られるモノ。
 少年はそうやって少女を助け、少女は新しい姓を得た。
『見るモノ』の隠し名。薬袋の姓。

 少女の友であり、水を操るもの。
 少年は龍と語り、少女を護ること、少女の願いを聞くことを龍に願った。
 
 その上で、少年は村人に告げた。
 少女は龍の友であり、龍は水を操る。
 彼女を虐げることは龍の心に背き、水の災害をこの村に来らせる結果となる。
 また、彼女は我の友。従って水以外の災害がこの村を襲う時には、彼女が自
分を呼ぶだろう。その声に従って自分はこの村の災害を防ぐだろう。
 だから、彼女を守れ……と。

 そう指示し、宣言し……少年は立ち去ったという。

 本来ならばこの話はここで終わる。薬袋の家はそのまま成り立ってゆく筈、
であったのが。

 この村は、それからも何度も災害に襲われかけた。
 その度に少年は呼ばれ……そしてその度に災害は収まった。

             **

「そこらが。うちのご先祖の抜けてるとこなんです」
 憮然として花澄が言うのに、光郎はくすりと笑った。
「……笑うところですか、ここ?」
「いや……だって、ねえ」
 そこらの人情の機微に疎いのは、彼ら鬼海の一族に共通するところである。
人よりも四大に近くあるだけに、どうしても人の感情には疎くなる。それは恐
らく、目の前の現当主とて同じことであろうのに。

「鬼海の当主には判らなかったのだろうよ。まさか少女が自分に惚れるなどと」
 グラスを両手で包んで、指先を暖めながら光郎は笑った。
「そこらは……多分花澄さん、貴方だってもし彼の立場なら、判らなかったん
じゃないだろうか」
 ぐ、と、花澄が答えに詰まった。

             **

 親に捨てられ。
 村人に排斥され。
 その彼女が、最初に親切にしてくれた相手に惚れるのは、仕方ないことだっ
たかもしれない。けれども。
 数年に一度、やってくる少年。彼はすぐに少年から青年になり。

 そして或る年、あと数日、と引きとめた少女に笑いながら言う。
 子供が生まれる。だから妻の元に帰ってやりたいのだ、と。

 少女は絶望した。
 少女は、絶望した自分に絶望した。
 
 …………そして全ては破綻した。


 水を操る龍は少女の意を通そうとし、四大は少年を護ろうとする。
 結果、水を操る筈の龍に、水は逆らう。水の聖獣の意思に水が逆らう、その
結果生じた龍の中の空白に。

『水』が満ちた……という。

             

 水の龍。
 或る意味では水の一部であり、水の精としての面も持つ彼に、水が逆らうと
いうこと。
 その意味……その本当の怖さは、花澄には判らない。しかしその故に生じた
龍の中の空白は、汚染され狂気を引き起こすと言われた『水』を引き込むほど
に深刻なものであったのだ、という。

 龍は狂い、村は引き裂かれかけた。
 それを止めたのは薬袋の娘、これ以上龍が荒れるならば、自分はせめてもの
詫びに自死せねばならぬ。
 その言葉で、龍は止まろうとして……既にそのままでは止まることすら果た
せなくなっていた。

 それで龍は、鬼海の当主に頼んだ。
 自分を止めてくれ。彼女を生かしてくれ……と。

 鬼海の当主はその願いを果たした。
 ……龍の頭を切り、龍の身体をこの地に縫い止めることで。


 そしてこの時以来、薬袋の一族に『水』と『水』の龍の先行きがいやおう無
くのしかかってくることになる。


                **

「結局は。そうやって頭から突っ込むから」
「でも突っ込んでもらわなければ、薬袋の家は無かったのだって」
「……ですけれども」
 この、最初のごたごたのせいか、四大は薬袋の家に何かと冷淡であった。今
回、薬袋光郎の営む店、はいむを、客に敵する者達から護る為に、花澄がわざ
わざ出向かなければならない延因はそこにある。
 当主がここに居る。だからこの場所を護ってくれ。
 ……つまり、彼女が居ることは、この場所を完全に隠す為の『必要条件』に
なっているのだ。

「こちらに詰めているのも、大変になってきたろうか」
「全然そういうことは、無いんですけど」

 普通に……この店を知らない人間に、この店を感づかせないことは、花澄抜
きでも可能である。しかし。

「流石に……零課のほうで睨まれている相手を、この店に入れて、って行うに
は、花澄さんがここに居てくれる必要があるから。申し訳ないとは思うんだが」
「いえ。これも『水』のことのお手伝いですから」

『水』の龍を護り、また『水』の龍から護る。
 そういう役目を担わされた、一族。
 先日はいむに来た青年は、やはりそのはじめから役目を背負わされる格好で
造られた、一族の一人だという。

 そのことが……


「……片桐さんのお友達は……ええと、その、に?さん?でしたっけ」
「だと、言いますね」
 グラスに残ったワインを飲み干すと、光郎は立ち上がった。
「そろそろ、来られるようです」
「……判りました」


 護られ、その自由を保障された一族である鬼海。

 確かにそれは、もう、誰かの責任でも何でもないのかもしれないけれど。

「……さて。じゃあ」
 花澄は目を閉じた。

「お願いします。みんな」


時系列
------
 2009年1月頃。片桐の謹慎の少し後。

解説
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 薬袋の家と、鬼海の家。
 その関わりを、年寄り同士の会話から。

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 ちうわけで。
 ながいね。

 であであ(滅)




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