[KATARIBE 32103] [HA21P] 片桐への嫌疑

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Date: Sat, 17 Jan 2009 13:42:49 +0900
From: Subject: [KATARIBE 32103] [HA21P] 片桐への嫌疑
To: <kataribe-ml@trpg.net>
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Web:	http://kataribe.com/HA/21/P/
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/32100/32103.html

[HA21P] 片桐への嫌疑
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登場人物
--------
ワータイガーの刑事さん:古賀猛(こが・たける)[獣人][捜査零課]
[マタタビで酔う]
http://kataribe.com/HA/21/C/0108/
魔法少女ポリビッチ:花咲弥生(はなさき・やよい)[主人公タイプ狙い][ラギ女]
[零課]
http://kataribe.com/HA/21/C/0098/
不死身の男:片桐壮平(かたぎり・そうへい)[県警][零課][不死身][ギリちゃん]
[お父さんのようなもの]
http://kataribe.com/HA/21/C/0002/
死人の走狗:平坂祝明(ひらさか・のりあき)
http://hiki.kataribe.jp/HA/?HirasakaNoriaki


情報漏洩の嫌疑
--------------

 吹利県警察本部、とある会議室の一つ。
 そのドアの前で、緊張した面持ちで立っている若い私服警官がいた。
 生活安全課に所属しながら、公には存在しない捜査零課に所属する古賀猛巡
 査である。

 古賀    :「…………(ごくり」
 弥生    :(古賀……さん? どうしたんだろう)

 その側を、同じく捜査零課の所属であり、30億円の巨費と最先端の科学と魔
 法、両方の技術を投じて作られた捜査零課の秘密兵器である魔法少女ポリビ
 ッチこと花咲弥生元警部(今は車輌扱いとのこと)が通りかかる。
 しかし、心ここに在らずといった調子の古賀は、それに気付く様子はない。
 ネクタイが歪んでいないかどうか手で確かめ、二度三度咳払いをしてから会
 議室へと入ってゆく。

 古賀    :「ガチャリ)失礼します」
 古賀    :「吹利県警霞山署、生活安全課の古賀猛巡査、只今参りまし
         た」

 会議室に入り、敬礼する。
 しかし、既に部屋に居た男――吹利県警察の参事官である平坂祝明警視正は、
 それを鷹揚な仕草で制する。

 平坂警視正 :「堅苦しい挨拶は要らないよ。……それに、私が呼んだのは
        生活安全課のことではなく、捜査零課に関することでだよ」
 古賀    :「…………」
 平坂警視正 :「とりあえず、座りたまえ」
 古賀    :「……はい、失礼します(がたり」

 促され、古賀は平坂の向かいの席に腰を下ろす。

 平坂警視正 :「古賀猛巡査、君をここに呼んだのは他でもない。……君が
        非公式に所属する捜査零課において起きている可能性のある
        不祥事を、君に調査して貰いたいからだ」
 古賀    :「不祥事……?」
 平坂警視正 :「捜査零課に所属する何者かが、警察内部の情報を外部にリ
        ークしている可能性があることが発覚したのだ」
 古賀    :「――――!?」

 平坂の言葉に、古賀は一瞬硬直する。

 古賀    :「そんな……まさか……」
 平坂警視正 :「……既に実際に起きている事なのだ」
 平坂警視正 :「……そして、この情報漏えいには片桐巡査が関わっている
        可能性がある」

 古賀が平坂から話を聞いている丁度その頃、弥生は数多あるポリビッチの特
 殊兵装の一つ、どんな音でも井戸端会議のオバチャンの地獄耳の如くに聞き
 逃さないポリマジックヘルイヤーで、会議室の会話の盗聴を試みようとして
 いるところだった。
 だが、ポリマジックヘルイヤーを以ってしても会議室の会話を聞き取ること
 は出来なかった。
 ただ一つ、大抵の音は聞き逃さない筈のポリマジックヘルイヤーをも遮る何
 かが、古賀の入った会議室に仕掛けられているのは明らかであった。

 古賀    :「そんな……そんな筈は……」
 
 片桐がそんなことをする筈は無いと、古賀は平坂の言葉に反論しようとする。
 だが、以前から時々不思議に思っていた片桐巡査の言動の数々が脳裏を過ぎる。
 以前から片桐が県警零課とは犬猿の仲である水道局霞ヶ池対策室の人々と交流
 があったことを知っていた。

 平坂警視正 :「何か思い当たることがあるのかね?」
 古賀    :「いえ、そういう訳では……でも、片桐さんが……片桐さん
        が、まさか……」
 平坂警視正 :「片桐巡査の人柄は私も知るところだ。君が心配するのも尤
        もなことだが……感情に流されて判断を見誤ってはならない、
        そうだろう?」
 古賀    :「…………」
 平坂警視正 :「少なからず、何か心当たりがあるのだろう?」
 古賀    :「……いえ、特には」
 平坂警視正 :「気持ちは分からなくも無いが、自分の立場をわきまえたま
        え。……何か隠すようなら、君も同罪ということになる」
 古賀    :「いえ、自分は、本当に何も……」

 とは言うものの、心当たりは無い訳ではなかった。
 現に、霞ヶ池対策室の八雲室長と片桐が話しているところを何度か見たこと
 もあった。

 平坂警視正 :「……まぁ、我々も今の君から片桐巡査の不祥事に関する情
        報を聞けるとは思ってはいないよ」
 古賀    :「…………」
 
 何も言えず、古賀はただ唇を噛み締める。

 平坂警視正 :「それに、我々も片桐巡査が不祥事を起こしているとは思い
        たく無いのだ。……古賀猛巡査、君には片桐壮平巡査の無実
        を晴らすために彼の身辺を捜査して欲しい」
 古賀    :「……はい」
 平坂警視正 :「それから……彼が関わっている可能性のある外部組織の一
        つに通称『円卓』と呼ばれている新興の組織がある」
 平坂警視正 :「『円卓』は表向きは水の被害を撲滅することを掲げつつ、
        実際は水の力を手中に収めることを目論む危険な組織だ」
 古賀    :「……!!」
 平坂警視正 :「兎に角、この件は内密に進めるように頼むよ。……何とし
        ても片桐巡査の嫌疑を晴らしてくれたまえ」
 古賀    :「はい」
 平坂警視正 :「では、もう行きたまえ。……君は今の時間、本来ならばこ
        こにはいない筈の人間だ」
 古賀    :「……失礼します」
 平坂警視正 :「君の働きに期待しているよ。頑張ってくれ」
 
 古賀が会議室を退出して行く、その後姿を見て、平坂警視正はにんまりと満
 足げに微笑んだ。


無言の決意
----------

 古賀    :(あの片桐さんが……けど、片桐さんに限ってそんな筈は)
 
 どうにも信じられなかったし、決して信じたくはなかった。
 けれども、水道局の職員とも交流がある他にも、片桐にはどこか風変わりな
 知り合いが多いことを古賀は思い出す。
 普通なら見逃してしまうような、けれどもどうにも説明しづらい部分が片桐
 にはあることも確かだった。
 
 古賀    :(でも……片桐さんの嫌疑は俺が晴らして見せます)
 
 掌に爪が食い込むほどにきつく拳を握り締め、心に誓う。
 しかし、自分が取った行動が結果的に片桐を陥れてしまうことになるとは、
 このときはまだ、古賀は気付いていないのだった。


花咲流、元気の出る魔法
----------------------

 弥生    :「古賀さーん。どうしたんです? あの会議室って警視クラ
        ス以上の人しか使わないとこですよね?」
 古賀    :「――!?」

 ぼんやりと廊下を歩く古賀の姿を認めた弥生は、古賀の背中に声をかける。
 古賀は大きな背中をびくっと震わせ、弾かれたように弥生の方を振り返る。

 弥生    :「? なんかあったんですか?」
 古賀    :「……花咲さん?」
 弥生    :「県警のアイドル花咲さんですよ」
 古賀    :「あ、いや…………何も、何も無いですよ」
 古賀    :「え?……ああ、うん、そうですね」
 弥生    :「嘘! 何もないって顔してない!」
 古賀    :「いや、本当に何も無いですよ」
 
 弥生に言う訳にも行かず、古賀は目を逸らす。

 弥生    :「……もしかして問題起きたんですか? 不祥事に巻き込ま
        れた、とか。そうだったら言ってくださいね、私、力になり
        ますから!」

 どうやら弥生は古賀が何か問題を起こしたと思っているようだが、そんな事
 に気付く余裕は古賀には無かった。

 古賀    :「ええ、別に大した事じゃ……いや、うん、ありがとうござ
        います」

 力なく、弥生に言葉を返す。

 弥生    :「元気ないですよ。元気が出る魔法かけてあげますね」
 弥生    :「め、つむってください」
 古賀    :「え?」
 古賀    :「こ、こうですか?」

 戸惑いつつもしっかりと目を閉じる。
 何が起きるのかとドキドキしながら目を閉じる古賀の頬に、唐突に重い衝撃
 が走った。

 弥生    :「っしゃー!」
 古賀    :「――ぶっ!?」

 それが気合の篭った猪木風ビンタだと分かるまで、少し時間を要した。
 魔法少女らしい乙女チックな励まし方を想像していた古賀の淡い期待は、見
 事にぶち砕かれた。

 弥生    :「元気があればなんでもできる! 迷わず行けよ、行けばわ
        かるさ!」
 古賀    :「あ、あがが……」
 
 何となく、弥生の顔が猪木風の濃い顔になっているように見えたような気が
 した。
 ビンタで顎が外れた古賀は、慌てて顎を手で押さえる。

 弥生    :「あ、あれ? だいじょぶですか!? 古賀さん! 古賀さ
        ん!!」
 古賀    :「あが……(ごりっ)……い、いきなりそれは無いじゃない
        ですか!!」
 
 ごりっと無理やり顎を戻し、古賀は弥生に抗議する。

 古賀    :「ま、まぁ確かに元気出ましたけど……ちょっとは」
 弥生    :「おっかしいなあ。猪木的には正しいはずだったんだよー…」
 古賀    :「いや、猪木は実は手加減していたとか、アゴ外れないビン
        タの方法知ってたとか」
 古賀    :「でも何となく、目が覚めた気分です。……えと、ありがと
        うございます」
 弥生    :「それはよかった」
 
 弥生はにっこりと微笑む。
 頬に真っ赤な手形を残し、古賀は言葉を続ける。
 
 古賀    :「さて、と。……じゃあ俺はこれで」
 弥生    :「困った事があったら相談してくださいねー」
        (去っていく古賀にもう一度繰り返す)
 古賀    :「はい、またお願いします。……それじゃ」
 弥生    :(むー)
 
 一度振り向き、弥生に声をかけてまた去ってゆく。
 しかし、やっぱり何かがおかしい。
 野生のビッチの勘が、花咲弥生車輌ことポリビッチにそう告げていたのだっ
 た。

 弥生    :「……本部長の娘さんにでも手だしちゃったのかなあ。あの
        ゴリラに」
 
 弥生の小さな誤解が元で、そんな噂が交通課で広まることにもなったのだが、
 それはまた別の話。
 
 
時系列と舞台
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2009年初旬。

解説
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吹利県警捜査零課に蒔かれた不和の火種、その最初の一粒。

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蘇芳
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