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Date: Sat, 3 Jan 2009 22:29:43 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 32074] [HA21L] チャットログ『託されたもの』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <20090103132943.C299749DB02@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 32074
Web: http://kataribe.com/HA/21/
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2009年01月03日:22時29分43秒
Sub:[HA21L]チャットログ『託されたもの』:
From:久志
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
チャットログ『託されたもの』
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登場人物
--------
ウヤダ
:元吸血鬼狩りの強化改造人間。
佐上銀二(さがみ・ぎんじ)
:クカラチャと呼ばれる吸血鬼の一人。
アイリーン・ラウ
:クカラチャの一人。銀二の血の妹。
謎の届け物
----------
[arca] #銀二の住処に来訪者が現れる
SE :ぴんぽーん
ウヤダ :「…………誰だ」
[Hisasi] #すっげ無愛想な仏頂面がドアを開ける
配達員 :「あれぇ?ここって佐上さんのお宅じゃ…」
[arca] #住所が書かれた紙切れを確認している
[Suo] #家主の佐上は外出中でござる
ウヤダ :「そうだ、家主は出かけている」
[Hisasi] #ヤクザにしかみえねえ面の愛想悪いおっさん
配達員 :「あ、そうですか。よかったぁまた間違えたのかと……
:あの人すぐ住処変えるから…」(フウと安心した表情に
ウヤダ :「……とりあえず、それが荷物か」
[Hisasi] #一応判子は用意して
配達員 :「はい、差出人がないので。とりあえず警戒して頂けると
:……もし御迷惑でしたらこちらでお引き取りしますが」
ウヤダ :「…………預かろう」
配達員 :「そうですか。では、確かに」
ウヤダ :「銀二宛か……」
[arca] #サイズはA4大。そう重くはない
[Hisasi] #とりあえず荷物は受け取って部屋に戻る
ウヤダ :「…………」
[Hisasi] #とりあえず
[Hisasi] #爆発物や毒物が塗られていないかをしっかり確認したのち
[Hisasi] #周囲に破片などが飛び散らないこと、開いたときに何かが飛び出
したりしても平気なように
[Hisasi] #テーブルの中央において、そっと封を開ける
[arca] #中には鉛で封をされた何かと『十号計画』と書かれてレポートファ
イル。そして手紙が一枚入っていた
ウヤダ :「…………これは」
[Hisasi] #読んでもいいものか
[Hisasi] #とりあえず、危険な品だったら困るので一応目を通す
[Hisasi] #相棒だし
[arca] #読むか読まないかはウヤダ次第だぜ!
ウヤダ :(かさ、と手紙を広げて)
[Hisasi] #あの相棒いい加減だから
[Hisasi] #俺が判断しておかないと
[Hisasi] #ええじゃろとかゆって適当にあつかったりしかねない
[Hisasi] #いやする(断定)
[Hisasi] #わかってらっしゃるから
[arca] #なんて温かな
[Hisasi] #というわけで読みます
[arca] #どれから読みますか
[Hisasi] #まずは手紙から
手紙 :「この手紙を呼んでいるのは恐らく、ウヤダだろう」
ウヤダ :「………………」
[Hisasi] #いきなりw
手紙 :「察している通りこの手紙自体は佐上に宛てた物ではない」
ウヤダ :「……」>誰だ
手紙 :「他の二つも正確には佐上に宛てた物ではない」
ウヤダ :「……」
[Hisasi] #蒼助か
手紙 :「ウヤダ、お前に宛てた物だ」
[Hisasi] #目を細めて、ちらとレポートと封された何かをみて
[Hisasi] #ふたたび手紙に視線を落とす
手紙 :「手短に概要を記しておく、『十号計画』はある国家によ
:って練られた『不死計画』だ」
手紙 :「詰まる所不死者を意図的に作り出すものだな」
ウヤダ :「…………」
[Hisasi] #僅かに眉間を寄せて
手紙 :「計画自体はすでに頓挫しているが、その責任者の何人か
:は存命らしい」
手紙 :「その中に、ステファン・モローと言う名があった。聞き
:覚えがあるだろう」
ウヤダ :「…………(ぎり)」
[Hisasi] #またか
[Hisasi] #またあいつか
[Hisasi] #あの男、どこまで
手紙 :「その計画の資料のコピーを送る。有効に活用してくれ」
手紙 :「残る一つだが…これはその計画にとって重要な物の様だ。
:スキャンでは中を見る事はできなかった。あえて、これを
:お前にやろう」
ウヤダ :「…………」
[Hisasi] #封されたものに目をやって
[Hisasi] #冷たい、屍の目で
手紙 :「手渡ししたかったが、それは難しい。本来ならば、俺は
:これを秘匿しなければならない立場にある」
手紙 :「今度俺にであってもこの話はするな。お前を殺さなけれ
:ばいけなくなる」
手紙 :「以上だ。健闘を祈る」
ウヤダ :「…………蒼助」
[Hisasi] #ぱたんと、手紙を閉じて
[Hisasi] #レポートと鉛で封印されたものを手に取る
ウヤダ :「…………感謝する、これは……俺が預かる」
[Hisasi] #そして、極秘に隠しますよ
[Hisasi] #そして、なんも知らんことにします
[Hisasi] #約束どおり
[Hisasi] #なんだ、蒼助さんともある意味お仲間なんだね
[arca] #レポートは恐らく白い小女の灰じゃね? と言う物や、他に不死に
なると言われるマテリアルについて書かれています
創り出された者達
----------------
銀二 :「がちゃり)ふぅ、久々に……おぅ、何じゃ神妙な顔して」
ウヤダ :「……銀二か」
[Suo] #帰って来たよ
[Hisasi] #一応品は隠しておいた
銀二 :「ん、何じゃその手紙は?」
ウヤダ :「…………ああ、預かり物をな」
手紙 :「PS.この手紙は自動的に消滅する」
銀二 :「ふむ」
[Hisasi] #神妙な顔
[Hisasi] #まじかよw
SE :ぼっ(燃えた
ウヤダ :「……っ」>ぱっと宙に投げて
銀二 :「危ないのぅ……」
ウヤダ :「……用心深い奴だからな」
[Hisasi] #この話を銀ちゃんにすべきか、
銀二 :「ふむ……」
[Hisasi] #白い少女の灰が関わってるとしたら
[Hisasi] #せねばならんだろう
ウヤダ :「銀二」
銀二 :「何じゃ?」
ウヤダ :「…………話しておくことがある」
[Hisasi] #ちら、とレポートを見て
ウヤダ :「不死と改造に取り付かれた……悪魔のことでな」
[Hisasi] #もうこれだけで誰だかわかる
銀二 :「ふむ……モローか?」
ウヤダ :「ああ」
[Hisasi] #で、今の内容をでもとをぼかして話す
[Hisasi] #調査した筋から、ということにして
銀二 :「ほぅ、モローの研究成果の一部を、とな……」
銀二 :「で、その中にワシ等の始祖の事も書かれておったかの?」
ウヤダ :「ああ」
ウヤダ :「あの男は不死と不老に取り付かれていた、だが人である
:という究極の存在にな」
ウヤダ :「クカラチャの再生力には、あいつは昔から興味を寄せて
:いた」
[arca] #白い少女の灰についてはモローが研究し、担当していた。後に主要
研究施設でバイオハザードが起こり、同時にモローも姿を消している。
みたいな内容
ウヤダ :「…………クカラチャを狩ったことのある俺たちに、その
:サンプルを要求するほどにな」
[Hisasi] #でも、その後色々わやになって
銀二 :「…………」
[Hisasi] #モローは再び闇に隠れて暗躍した
ウヤダ :「…………だが、マムはそれを良しとしなかった、マムは
:吸血鬼は狩りつくすものと信じきっていた」
銀二 :「何が何でも根絶させる、と?」
ウヤダ :「ああ、マムは吸血鬼に全てを奪われた。故郷を、夫を、
:子供を、全てを」
ウヤダ :「俺やレニー、イリ、他の全ての家族達同様」
ウヤダ :「だが……モローは違った」
ウヤダ :「奴にとっては、人も吸血鬼も、関係ない」
銀二 :「この世に存在する全ては実験材料、か……彼奴もアンク
:の連中のように神を目指しでもしておるのかの?」
ウヤダ :「己が手を加え、完全な存在を作り上げる……その妄執に
:取り付かれた、そのためだけに全てを踏みにじり犠牲を捧
:げ続ける狂った男だ」
銀二 :「人の手による神、か……」
ウヤダ :「俺が老いずに繰り返歳をとっては若返るのも、レニーや
:イリの時をとめたのも」
銀二 :「……彼奴か」
ウヤダ :「不死者でもない不老不死、完全な人であり完全な存在を
:求め続けた実験作」
銀二 :「…………」
ウヤダ :「だが、イリやレニーを初めとして、奴の実験の多数は
:失敗に終わった」
銀二 :「……ふむ」
ウヤダ :「いずれも老いぬことはできたが、ことごとく精神を崩壊
:し、あるいは狂気にとりつかれて」
ウヤダ :「……痛みを、恐怖を失って、自らを傷つけながら助けを
:乞うた兄弟を」
ウヤダ :「この目で見てきた」
ウヤダ :「奴がクカラチャに目をつけたのは……恐らく、いかに
:その狂気を失わず人であることを失わずにその再生力を得
:ること、だろう」
銀二 :「フン……愚かな事を……」
ウヤダ :「……奴はまだ生きている」
ウヤダ :「そして生きている限り、その手を止めることはないだ
:ろう」
銀二 :「今度は人攫い曲技団に寄生してか……しぶといのぅ」
ウヤダ :「そうだな、そうやって寄生虫のように」
ウヤダ :「そして使えないとならば、即座に捨てる。目的を違えた
:マムたち、エキドナ・ファミリーとできた溝……邪魔にな
:ったファミリーを奴は俺に後始末をさせた」
ウヤダ :「今も……」
[Hisasi] #奴はいる
[Hisasi] #そして改造をおぞましい研究を続けている
銀二 :「しかし、聞けば聞くほどそのモローという男、ワシ等
:クカラチャが良く知る連中とそっくりじゃなぁ……」
ウヤダ :「……なに?」
銀二 :「ふむ、……アンクっちゅう氏族を知っとるかの?」
ウヤダ :「……ああ、名前はな」
[Hisasi] #でも殺ったことはないな、
[Hisasi] #大抵の氏族は知ってたり殺してたりするけど
銀二 :「血を媒体とする魔術を使う一族として知られとるんじゃ
:が……連中は神を生み出すための実験を昔から繰り返して
:おっての」
ウヤダ :「…………」
[Hisasi] #眉をしかめた
銀二 :「連中の言う神っちゅうのは、自然神や土地神、この国の
:八百万の神じゃなく、父・御子・聖霊の三位一体からなる
:全知全能の神でのぅ」
ウヤダ :「完全な存在を……か」
[Hisasi] #くだらねえなあ、と
[Hisasi] #凶悪な顔で笑って
銀二 :「じゃな。完璧で不滅の存在を……まったく、くだらない
:バカげた話じゃがな」
銀二 :「無論、今までに至るまで失敗ばっかりじゃった。
:……まぁ、これが他人事なら笑って済ませられるんじゃが、
:他人事でも無いから笑えんのじゃよ」
銀二 :「ワシ等クカラチャ……というより、ワシ等の始祖は実験
:の過程で生み出されたのでなぁ」
ウヤダ :「!」
[Hisasi] #なんだ、仲間みたいなもんじゃん
ウヤダ :「……はは……お互い、似たようなものか」
[Hisasi] #歪んだ笑みで
銀二 :「まったくじゃよ……まぁ、ワシ自身が改造された訳じゃ
:無いがのぅ」
銀二 :「まぁ、失敗作が逃げたのはアンクの連中の大きな痛手で
:のぅ、何とか隠しとるようじゃが」
ウヤダ :「……始祖が子の手で滅ぼされたのも」
[Hisasi] #なんか、そこらで狂ったなんちゃらなんだろうな、とか
[Hisasi] #何となく思った
[Hisasi] #狂った兄弟たち散々見てきたから
銀二 :「幸か不幸か、始祖から数えて二代目以降は狂気の子が生
:まれる確立は少なくなったようでのぅ。……時たま生まれ
:て、その時には葬らざるを得んのじゃがね」
ウヤダ :「…………なるほどな」
ウヤダ :「…………狂って、壊れて……それでも、存在しつづける
:方がいいのか」
:>自分に向けてか、殺したファミリーに向けてか、
:クカラチャにむけてか、わからない
ウヤダ :「俺は…………失くしすぎた」
銀二 :「……ふむ」
[Hisasi] #色んなもの
ウヤダ :「感情、欲求、仲間、自分自身……」
ウヤダ :「…………だが、それでもなんともなかったはずだった」
銀二 :「…………」
ウヤダ :「……今は、何かが戻りつつある」
ウヤダ :「だが……」
銀二 :「そりゃあ良い兆候だと思うぞぃ。……ん?」
ウヤダ :「しかし、失ったものが戻った時。今まで削られていた
:感情や感覚が戻った時」
ウヤダ :「……俺は、あるいは……壊れるかもしれない」
[Hisasi] #感情戻ったら、今まで記憶していた色々の事柄に対してももどっ
ちゃうんですよ
[Hisasi] #食欲もどったら、仲間の肉食ったこととかががっつりとフィード
バックしちゃうんですよ
[Hisasi] #性欲もどったら、マムや協力していた聖職者らにいろんなことさ
れまくっていたあれこれがもどっちゃうわけですよ
[Hisasi] #確実に壊れるね
[Hisasi] #だから、迂闊に治療できない。
銀二 :「……もし『壊れた』ときには御主、何を望むかの?」
銀二 :「治療に長けたアニーも居るし、大丈夫とは思うが……
:一応、聞いても良いかの?」
ウヤダ :「…………その時は、片をつけてくれないか」
銀二 :「ふむ……」
銀二 :「起こらない事を祈るのぅ」
ウヤダ :「絶対に壊れないとは言えない、今まで狂った兄弟を、
:壊れ果てた仲間を……見てきた」
銀二 :「…………」
ウヤダ :「それがいつ自分に降りかかるか、俺にもわからない」
銀二 :「…………」
ウヤダ :「俺が今まで壊れずにもってきたのは……たぶん何もな
:かったからだ」
[Hisasi] #中身が
銀二 :「……させんぞ」
ウヤダ :「…………」
銀二 :「治療に長けたアニーも居る、壊れるような事にはさせん
:ぞ……」
ウヤダ :「…………ああ」
[Hisasi] #つまりキャリーと同じなんだな
[arca] #外科なら任せて!
[arca] #byコロ
銀二 :「とりあえず、アニーにも一度相談すると良いじゃろう。
:それで薬で何とか和らげることも出来るかもしれんし」
ウヤダ :「……その積もりだ、それに……眠ることだけは出来る
:(薬で)」
ウヤダ :「俺も、壊れたくはない」
銀二 :「それからもう一つ……治療法が見つかるまで魔術で眠り
:を得ることも出来るじゃろう。……ワシ等の始祖がいつま
:でも海に撒かれず、小瓶に保管されてるのと同じでの」
ウヤダ :「…………銀二」
銀二 :「ならそのための策を練らんとな。……ん?」
ウヤダ :「俺はお前の相棒か?」
[Hisasi] #色々深い意味があるんです、ウヤダンにとっては
[Hisasi] #俺が必要か?と
銀二 :「おぅ、勿論じゃよ」
ウヤダ :「…………そう、か」
:>なんかすげー安堵というかなんというか
ウヤダ :「なら、俺は壊れない、狂わない……何があっても」
銀二 :「ふむ……そりゃあ安心じゃのぅ。ワシも先祖みたいなこ
:とはしたくは無かったしのぅ」
[Hisasi] #しかしほんとに狂わずにいられるかな、ウヤダン
ウヤダ :「……ならば、まずは奴に対抗し……やることをやるか」
[Hisasi] #とん、と銀ちゃんの胸に拳をあてて
銀二 :「おぅ」
[Suo] #こっちもお返しだー
[arca] #コロの睡眠薬は『眠りたい』と言う願いに応える他、記憶の整理のの
ために渡したもの。悪夢の数だけ狂気は遠のく
銀二 :「それから、いつ何が起こるか分からんし、アニーの診察
:をこまめに受けるようにした方が良いのぅ」
ウヤダ :「ああ、キャリーの治療と同じでな」
[Hisasi] #そうだ、レニーにお別れを告げよう。
[Hisasi] #アニーにレニーの遺体を渡す前に
[Hisasi] #保管してあるんだよね?
銀二 :「キャリーとは方向が逆じゃがのぅ」
[Hisasi] #最後のお別れをしてから、アニーに託すよ
[Suo] #冷凍保存もしくは物質の変質を防ぐ呪術処理を施されて安置されて
ます<レニーさんの遺体
ウヤダ :「……銀二、その前に一ついいか」
銀二 :「ん、どうした?」
ウヤダ :「レニーの遺体を、アニーに託す。分析してもらおうと
:思う」
ウヤダ :「……その前に、少しだけ時間が欲しい」
銀二 :「大丈夫じゃよ。幾らでも待つぞ」
ウヤダ :「頼む」
レニーとの別れ
--------------
そこはうっすらと身を引き締めるような澱みのない何かを感じた。
銀二に案内されたその場所は部屋の壁や床、いたるところに呪術処理を施さ
れた地下の一室。ひんやりとした部屋の空気が肌を撫でる。
これまでにどれだけの遺体がここに安置されたのか、ウヤダにはわからない。
死んだ者は放置され、あるいは無造作に捨てられ、あるいは生き延びるために
喰らってという別れしか知らなかったウヤダにとっては、それはとても不思議
な場所のように思えた。
銀二 :「こっちじゃ」
ウヤダ :「ああ」
アイリーン :「…………」
案内されるままについていくウヤダの後ろを、神妙な顔で追うアイリーン。
普段ならば、はしゃいで飛びついて、といつものように振舞うはずだが。今は
どこか違うウヤダの雰囲気に何も言えずについていくだけだった。
銀二 :「……ここに」
立ち並んでいた棺から離れた場所、複雑な呪術の刻まれた床の上に乗った
透明な硝子の棺。
棺の中、エーテル液に浸されて静かにたゆたう少女の体。
血で汚れた顔は綺麗に整えられ、白い薄布の服を着てその両手を胸に組んで
静かに目を閉じている。
自分が手を差し伸べた。
いつも後を追ってついて来た。
手をとって生きる為の術を教えた。
そして……狂った目で愛を乞うて。
その手で殺した……妹の姿。
ウヤダ :「……レニー」
そっと硝子の棺に手を触れる。
冷え切った硬い感触、その冷たさと対照的に、バラの香にも似たエーテル液の
香りが冷え切った部屋に満ちている。
銀二 :「…………」
アイリーン :「兄さん、あの子……」
問おうとしつつも、重苦しい沈黙に口をつぐんだ。
ウヤダ :「ずっと……お前に、なにもしてやらなかったんだな……
:お前の気持ちにも応えなかった……心にも気づかなかった。
:本当に、何一つ」
アイリーン :「…………」
棺を撫でる手。
その手の下で二度と目を開くことのない姿を見つめながら。
ウヤダ :「娘らしく着飾ることもなかった、子供らしく喜ぶことも
:無かった……俺にはわからなかったんだ……」
ただ血にまみれて吸血鬼を殺す事しかなかった、あの頃。
何もなかったあの頃は、殺して生き延びることが全てだった。
だが今は。キャリーや銀二、新たな仲間達が出来て。楽しむことも喜ぶこと
も苦しいことも痛いことも。
ウヤダ :「今ならわかるんだろう……お前の苦しみも辛さも……
:もう何もかも手遅れなのに」
棺に額を寄せる。
ウヤダ :「すまない、レニー……こんな言葉がお前にとって何の
:慰めにもならないことも、わかっている」
銀二 :「…………」
硝子の棺、額をよせた冷たい感触。
その向うでエーテル液の中をたゆたうレニーの白い顔、静かに目を閉じている。
もう水色の瞳は開くことは無く。
ぽつりと、涙が落ちた。
ウヤダ :「……もう、誰も、誰にも……お前を踏みにじらせない。
:奴だけは……必ず俺が仕留める」
噛み締める歯、棺に触れた手に力が篭った。
ウヤダ :「向うで……待っててくれ」
銀二 :「分かった。……行くぞ、アイリーン」
アイリーン :「…………」
じっとウヤダの後姿を見て、きゅっと唇を引き締めて銀二の後に続いた。
一人。
もう一度棺を撫でて。
ウヤダ :「……愛していたよ、レニー」
もう答えることの無いレニーの姿をじっと見つめたまま。
顔を上げて立ち上がり、涙を拭って、棺から背を向けて銀二達の待っている
元へ戻る。
銀二 :「…………もういいんか?」
ウヤダ :「ああ」
アイリーン :「…………」
声をかけようとして、口をつぐむ。
ウヤダ :「…………あとは、アニーに託す。別れは……済んだ」
銀二 :「そうか」
ウヤダ :「……ああ」
そのまま振り向きもせずに。
ウヤダ :「…………」
ただ無言で部屋を後にした。
時系列と舞台
------------
2008年12月
解説
----
託されたものと、銀二の語るクカラチャの事実。そしてレニーに別れを。
http://kataribe.com/IRC/HA21/2008/12/20081220.html#220000
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
以上
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