[KATARIBE 32039] [HA21N] 小説『黄緑の水』

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Date: Sun, 28 Dec 2008 23:56:08 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 32039] [HA21N] 小説『黄緑の水』
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2008年12月28日:23時56分07秒
Sub:[HA21N]小説『黄緑の水』:
From:いー・あーる


というわけで、いー・あーるです。
全く関わり無く書いてます(もさもさ)。

というわけで。

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小説『黄緑の水』
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登場人物
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 薬袋光郎(みない・みつろう)
   :薬袋の一族の一人。人の心の声を聴く異能者。バー「はいむ」を営む。
 六角 馨(むすみ・かおる)
   :様々な化学物質を皮膚を介在して相手に流し込むことの出来る異能者。
   :通り名は『ドラッグ・クイーン』

本文
----

 吹利市繁華街はゆるやかな線で分かれている。若者達が明日の学校は大丈夫
か、と思わせる時刻まで騒ぐ一角から、離れたこの通りは、恐らく所持金、年
齢層共に、彼らよりかなり上方修正された人々の集う地帯である。穏やかな灯
りの元、しとやかに頭を下げる女性達、そして鷹揚にそれに答える男達。
 さやさやと毎夜繰り返される、白粉を壁塗りした女の顔のような、そんなざ
わめきの中を女が歩いていた。
 青白い、顔の女である。
 地味な黒いスカートに地味な生成り色のセーター。肩の上から纏った濃い灰
色のショールも、大して高くもないヒールの靴も、品は非常に良いが全く目立
たない。つまり、この通りを歩く面々と経済事情は大して違わないが、しかし
とことん遊び慣れていない……そう、地味で育ちの良い、金のある若奥様に見
えるのである。
 ふらふらと歩きながら、女はぼんぼりのような灯りの元、足を何度も止め、
そして店に入る。時には数秒、時にはそれ以上。
 店に入り、カウンターに向かい、店主に尋ねることは、唯一つ。

「あの……この、お店では、『スィーツ』って……ご存知ですか」
 
 大概に於いて、店主は彼女を無視する。それでも何度も尋ねる女を、最後に
は『存じ上げません』の一言で追い払う。女もまたそれ以上は尋ねることが出
来ず、おどおどと出てゆく。その様を、哀れみと軽蔑、時には不審の混じった
目で客達が見ていることすら、気がついていないように見える。
 そして、数件目の店で。

「さて存じ上げませんが……お客様、御注文は」
「あ……いえ」
 その、何でも、と、口の中でぼそぼそと呟きながら女は出てゆく。その様を
やはり哀れむように見ていた客の中から、ぽつり、と一人だけが立ち上がった。
 あてつけか何かか、と言いたくなるほどに、先の女性とは対照的な女性であ
る。やはり高価で、色調こそ同じ白と黒だが、自分の魅力を十全に際立たせる
服装、そしてピンヒールの靴。ごく自然に見せかけて、徹底して追及された化
粧の様子も、全て先の女とは対照的であり、彼女が立ち上がった時の周囲の反
応も、その対照を煽るようなものだった。
 どうしたのだ、先の客は知り合いか、と、気安くかけられる声に、やはり適
当に答えながら、女は扉を押した。

 しょんぼりと、肩を落として、白い上着と黒いスカートの女は歩いてゆく。
その後を、かつ、かつ、とピンヒールを鳴らして、もう一人の女が続く。その
足取りからも後者が前者に追いつくのはあっという間で……そして、終に、店
と店の間で、艶やかな女は傷心の女の肩を叩いた。驚いたように振り返った青
白い女に、にこやかに微笑みかけ、幾つかの単語を紡ぎ……そしてじきに、青
白い女はぱっと顔を上げた。何度も頷き、そして咳き込むように何やら相手に
尋ねる。にっこりと、やはり艶やかな笑みと一緒に何やら答えた相手は、そっ
と手を伸ばし、青白い女の肩に乗せた。慌てたようにショルダーバッグの留め
金に手をやった女を、おやおや、と言わんばかりの身振りで止めて、そのまま
近くの店の扉を開ける。

 そして、しばしの沈黙が続いた。

             **

「……で」 
「これが、『スィーツ』」 
 ハイムという店は、静かである。
 これでやってゆけるのか、と、大概の客が心配しそうなほど静かな店内に、
丑三つ時を暫く廻ったこの時刻、流石に客は一人しか居ない。
 その客と、同じテーブルについた光郎の目の前に、小さな瓶が置かれている。
 瓶の中身なのか、その瓶自体か、淡い黄緑色の影が、白いテーブルの上に落
ちていた。
「……犬丸、三重蔵君、か」 
「正直、あんな小さいお子様に何させているんだ母親は、と思わないではなかっ
たんだが」
 頬杖をついた女性の顔は……その造作自体は、先程の青白くおどおどとした
女の顔である。しかし、浮かんでいる表情も、何よりその肌の質感も全く異なっ
ている。くすくすと笑いながら、女は言葉を継いだ。
「それなりに、なかなか良い子だし……何より、彼の集めている面々は相当に
多彩だ」 
「それで、これを売っていた店と、その女性っていうのは?」 
「ああ……そうだね、売っていた男は二日ほどトリップから戻らないかもね。
なかなか売人としてはちゃんとした男だったから」 
「……薬には手を出してなかった?」 
「そう。これまで『は』、他の薬らしいものに手を出したことはなかったよう
で」
 テーブルの上には白い皿が載っている。少し大きめのそれには、キッシュと
温野菜のサラダが乗っている。それをフォークで突付きながら、女はにやり、
と、笑った。
「あれは、後で少々辛かろうね」 
 やれやれ、と、店長の初老の男性は溜息をつく。
「女のほうは」
「……うん」
「一人がさみしいなら……って、人に男をあてがおうとしたんで」 
「…………了解」
 はぁ、と、もう一度、肺の奥から溜息をつく。女はくくっと笑った。 
「平気だよ。一応、深刻な病気持ちの男は居なかった。全員まとめて媚薬をぶ
ちこんだから、それなりに全員痛みわけだろうし」 
 まあ、似たような遊びは一度や二度くらいはやってそうだしね、と、笑う顔
が奇妙に人形染みて見えた。

 ドラッグ・クイーン。
 水に関しては、様々な立場から様々な異能者たちが関わっている。その中で、
異常なほど等しなみに、そして呆れるほど淡々と、水の麻薬を潰しているのが
彼女だった。確かに犬丸組の少年の配下に付いて以降は、効率的に取引の場所
が判る、とかで、そのスピードこそあがったものの、やっていることは変わら
ない。
 売人、中毒者。彼女はその全てを、同じようになぎ払う。

「……さて、これをタカさんに持ってゆく、のだけど。何か注意事項は?」 
 考え込んでいた光郎に、楽しげな声がかかる。一度瞬きをして、光郎は顔を
あげた。
「その瓶から、水を出すことは無いね?」 
「無い。そんなことはさせない」 
 ふっと真顔に戻って、きっぱりと言い切る。その表情のどこにも、嘘もまや
かしもない。
 時に見せる、無差別な残忍さと。
 それでいて子供達に対する気遣いと。
 どちらも共存することは……全く不思議でもなくて。

「ならば……気をつけてくれ」 
「そうする」 
 にやり、と笑うと、馨は皿の上の料理を、今度こそぱくぱくと食べだした。

 
時系列
------
 2008年10月頃

解説
----
 石橋(=ウヤダ)が、対『水』の戦線を一時的に離脱した頃の、犬丸組の三
重蔵配下の馨の行動。

*********************

 というわけで。
 水の色を黄緑色にしたのは。ええと。
 スィーツという名前から、スィーティという果物を連想したからです。
 あれはんまい。

 というわけで、であであ。
 
 


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