[KATARIBE 32030] [OM04N] 小説『つゆにぬれつつ』

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Date: Sat, 27 Dec 2008 23:31:47 +0900
From: Subject: [KATARIBE 32030] [OM04N] 小説『つゆにぬれつつ』
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小説『つゆにぬれつつ』
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本編
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 あたりは霧に包まれていた。周囲には田が広がっているが、それも今は見え
ない。
 東の方から風が吹く。それに乗ってサワサワという音が遠く向こうの方から
やってくる。ついで、霧が動く。
 風が止むと、再び静寂に包まれた。
 田のそばに一軒の小屋がある。ひどく粗い作りで、入り口に戸はない。おお
よそ人が住むためには作られていないようだった。
 雀が数羽、その小屋の屋根に止まった。一つ、二つ鳴くとそのうち一匹が戸
の前に降りた。それから数歩跳んで小屋の中に入る。
 小屋の隅には藁がうずたかく積まれていた。そして、それに寄りかかるよう
に男が一人倒れている。身なりからすると貴族のようであった。
 屋根にしかれていた菰(こも)はそれほど丁寧には作られておらず、幾筋も
の隙間が見える。
 霧の水気がその菰に覆い被さり、やがて一滴の雫となって男の首筋に落ち
た。
 しかし、男は微動だにしない。
 小屋の中にいた雀はしばらく男の方に顔を向けていたが、やがて小屋の外へ
と飛んでいった。


「それにしてもひどい霧だな。本当に何も見えない」
 霧の向こうから声がする。そして、複数の足音。
 小屋の前に姿を現したのは検非違使が一人と陰陽師が一人。その後ろには雑
色と思しき男が一人従っていた。陰陽師の肩には雀が止まっている。その雀が
小屋の前で一つ鳴いた。
「ここだそうだ」
 陰陽師が検非違使に言う。
「本当か?」
 検非違使が疑わしげな眼差しで雀を見た。陰陽師はムッとした表情を浮かべ
る。
「何にせよその小屋を見てみれば良いではないか」
 それもそうか、と検非違使は呟き小屋に首を突っ込んだ。そして「おっ」と
声を上げる。
「いたか?」
 陰陽師が尋ねる。
「ああ」
 と検非違使が応えた。彼はそのまま小屋の中に入る。倒れている男の側で
しゃがむ。横を向いている男の顔は青白い。検非違使はそっと男の肩を揺らし
た。
 首が力なく揺れる。動いた拍子に藁が数本男の顔についた。
「……死んでいるのか」
 いつの間にか小屋の入り口に手をかけて中を覗き込んでいた陰陽師が言っ
た。「そのようだ」と検非違使は答えて男の衣服に目を移した。
 細かな水滴が付いている。
 ふむ、と検非違使は頷いた。
「しかし、なんでまたこんなところに来たんだろうなあ」
 陰陽師が言った。
「女と駆け落ちでもした、とか?」
 検非違使が立ち上がりながら言った。陰陽師はそれに苦笑いを浮かべる。
「そして、女は家の者に連れ戻された、か? そんなどこかの誰かではあるま
いし。……そもそも、そいつは何で死んだんだ? 見たところ何者かにやられ
たというような感じではないが」
「ああ。傷はないし、苦しげな顔もしていない。というか、寝ていてそのまま
死んだ、というような顔だな、これは」
 言われて、陰陽師が男の顔を覗き込んだ。
「確かに。誰かに呪い殺された、というわけでもなさそうだな」
 一つ頷く。それから、首を捻った。
「だとすると、ますます分からない。寒さで死んだか?」
「それくらい寒いと死ぬ前に目が覚めるだろう」
「うむ」
 検非違使は陰陽師を促して外に出た。それから外で待っていた雑色に人夫を
連れてくるように使いを出す。
 雑色はすぐさま都の方へと駆けていき、その姿はすぐに霧の中に消えた。
「しかし、ひどい霧だな」
 陰陽師が袖に付いた水滴を払った。
「これだけ濃いとまるでこの世では無いような感じだ」
 検非違使がふふんと笑った。
「いつの間にか、俺たちもあの世にいたりしてな」
「そして、あの男のように俺たちも小屋の中で倒れているのを見つけられるの
か?」
 うへえ、と陰陽師が嫌な顔をした。
 遠くから鳥の鳴き声が聞こえてくる。
 しかし、まだ霧は晴れない。

解説
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既存の人物とは関係ありませんし、続きません。

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