[KATARIBE 32020] [HA06N] 小説『 Train 〜第四事象行きの列車・上』

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Date: Tue, 23 Dec 2008 23:07:45 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 32020] [HA06N] 小説『 Train 〜第四事象行きの列車・上』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2008年12月23日:23時07分44秒
Sub:[HA06N]小説『Train〜第四事象行きの列車・上』:
From:いー・あーる


どうも、久しぶりのいー・あーるです。
復活致しました……ああ良かった良かった(号泣)

というわけで、また少しずつ流してゆきます。
今回は、8月末のログから。

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『Train〜第四事象行きの列車・上』
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登場人物
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 小池国生(こいけ・くにお)
  :小池葬儀社社長。正体は人の血を喰らう白郎鬼。
 六華(りっか)
  :現世に戻った冬女。本宮尚久宅にて下宿中。古書店蜜柑堂でバイト中。


本文
----

 幸せになってね、と、風のように通り過ぎる人達が言う。
 そりゃあ幸せになってねと、言うのは楽だし簡単だ、と六華は思う。
 言うのは構わない。けれども幸せに何故ならないの、と、不思議がられても
困ると言うものだ。

 幸せの定義すら人と異なってゆくのかもしれないのに。
 長い長い時の中で。

               **

『お疲れ。本を待っています』
 携帯に入っていたメールに、六華は一つ溜息をついた。

 古書店蜜柑堂。普通に学生達が持ってくる今時の本も扱うが、時折遠くの老
人達からも古本を引き取ってくれ、との連絡が入る。『店主の顔が広いから』
と、彼女より一年ばかり古株の学生アルバイトは言うし、そのことは六華も実
感しているのだが。
(それにしても)
 今回の相手は地下鉄に乗って30分、歩いて8分の所に住んでいた。手元の
本も読みインターネットで遊ぶ、とても80代とは思えない老人は、それでも
流石に分厚い本を抱えて持ってゆく気力は無い、という。
『送って貰ったら如何ですか』
『なんか高いところに載せちゃって危ないっていうのよ』
『……お孫さんとかにとってもらうとか』
『そういう人が居るなら、こちらに連絡は来ない』
 まあ、それはそうかもしれない。
 とりあえず、交通費も出る、一日仕事としてバイト代も出るとのことで、押
し付けられた携帯ごと六華が行ってきたのだが。
(そりゃあ、人を呼ぶわよね)
 行って、売る本を集める。そのついでに棚の上にはたきをかけ、からぶきを
する。
『あれ?黄木さんにはそのように頼んだんだがねえ……ああ、勿論こちらでア
ルバイト代は出すことになっとるよ?知らなかった?』
 先に言ってくれれば、六華も別に掃除の一つや二つ、手伝うことに文句なぞ
無いのに。
(……実際うちでだって、手伝ってるんだから)
『暑い時に悪いねえ、本当に助かった』
 まあそれでも、掃除をしてもらった老人は喜んでくれたし、アルバイト代も
弾んでくれたし。
『こういうの、若い娘さんはもう使わないかね?……ああ、使ってくれるか、
良かった良かった』
 亡くなった奥さんが昔使っていたという珊瑚の帯止めまで貰った日には、申
し訳ないくらいである。
 とは、言え。
(店主さんに言わないと。こういうことはちゃんと先に言ってくれって)
 仕事先で連絡が取れないと困るから、と、持たされた携帯をかばんに落とし
込みながら六華は溜息をついた。溜息の度に、鞄の中の大型本4冊が段々と重
くなってくる。
(さーて、と)
 戸口付近の手すりに掴まったまま、六華は数秒の間、目を閉じた。

 そして。

 目を開いた途端、慌てて身を翻した。

「……ええっ?!」
 夕刻、ラッシュアワー前とはいえ、普通に立っている人が出る程度の乗客が
居た筈の車両の中はほぼ空っぽ、隣の車両もまた人が居ない。
「あれ」
 ほぼ、と言ったのは六華以外にもう一人、スーツを着た男性が居たからであ
る。どうやらほぼ同時に空になった車両に気が付いたらしく、慌しく周囲を振
り返っている相手は、直ぐに六華に気が付いた。
「あ……六華さん」
「良かった、あたし一人じゃなくて」
 何ぼなんでも唐突に車両に一人となると心細い。それは互いに同じだったら
しく、初老の男のほうも、ほっとした顔になった。
「お仕事ですか」
「ええ、本を受け取りに……小池さんは」
「私も仕事で……しかし」
 妙に日常めいた数語の後は、また両方とも困惑した顔に戻る。
「……どうなってるんでしょうか、これ」
「判りませんが……」
 窓の外は地下鉄であることを差っぴいても、真っ暗な空間が続いている。細
かい振動は、確かに何時ものもので……だから余計に、今の状態が奇妙に見え
る。
 電車は、変わらず走ってゆく。
 普通ならそれでも汗ばむような車両内は、相変わらず強い冷房が効いている。

「……あの、小池さん、もしかして」
「はい?」
「私達に、周りの人が見えなくなってるだけ、とか……」
「……」
 一瞬黙って周囲を見回した小池は、いえ、と小さく首を振った。
「……もしそうであっても、向こうもこちらが知覚できていないと思います」
「…………じゃあ、とりあえず」
「はい?」
「ここに座ってもいいですよね」
 言うと同時に、目の前の座席にぼん、と、鞄を下ろす。呆れたような顔にな
りかけた小池は、その音に少々納得した表情になった。
「何が入ってるんですか」
「……本です」
 なんせ重い。
 がたん、ごとん、と、揺れる車両は、気が付くと隣の車両に向かう扉が閉まっ
ていた。その向こうもまた真っ暗で何も見えない。

「……困りましたね」
 何にせよ大型本4冊入りの鞄を下ろせたことは助かる。ほっと息を吐いた六
華の隣に、ふわりと小池が座った。黒のスーツに黒のネクタイ、髪の色は変わ
らず白い、けれども。
「…………そっちのほうが本当なんですか?」
 白い残像はやはり淡く光るように見える。白い髪ではなくても相当に人目に
立つだろう顔立ちの青年は、振り返ると苦笑した。
「このほうが……楽ですので」
「……なるほど」
 つまり年を取った状態ってのは、かなり無茶をしているのね……と、六華は
納得したものだが。
「驚きませんね」
「いえ、驚いてますけど」
 驚いてはいる。しかし。
(驚いてうろうろしてもどうしようもないもの)
 かつて自分は、冬にのみ現世に現れ、冬の終わりと共に消えていた。それが
どういうからくりで行われていたかは未だに謎だが、それが実際に上手くいっ
ていたのも事実である。
(……ありえる話だよね、だから)
 それ全然驚いてないから、と、多分彼女の友人である真帆がここに居たら断
言するだろうが……残念ながら彼女は居ない。
(…………つまんない)
 こういう状況でこういう感想を持てる辺り、大物と言えば言えるかもしれな
い。

 がたんごとん。
 大きすぎず細かすぎず、その揺れの具合がやはりあまりに普通に過ぎて。
「あ」
 ふと、驚いたような声に、やはり驚いて、六華は小池のほうを見る。腕時計
を見ていた小池は、困ったような顔になって六華のほうを見た。
「六華さん、時計動いてますか?」
「え?」
 慌てて六華も携帯を引っ張り出す。スイッチを押すと、確かに画面は明るく
なるが、受信のアンテナは立ってないし、時刻も記されていない。
「……無い……というか、判りません、これ。小池さん、時計はどうなってる
んですか?」
 返事の代わりに、小池は腕ごと時計を差し出した。かなり高そうな時計は、
しかしどう考えてもあり得ない時間を示したまま止まっている。
「……十二時って……」
「午前でも午後でも変でしょう」
「……」
 時間を刻むことを放棄した時計の盤面が、そのまま今の奇妙な状態を象徴し
ているようで、六華は小さく息を吐いた。

 怖くは、ない。
 ただ、もしかしたらこれから怖くなるかもしれない。そういう予測は、しか
し妙に平坦なこの風景の中、実感を得られないまま転がってゆくような気がす
る。

 がたんごとん。
 錯覚であってもその位置を揺るがすまい、とでもしているのか、列車の揺れ
る音は絶え間なく流れる。
 時折明るく照らされる車外の、その灯りの元に見えるのは汚れたようなコン
クリートの壁、そのあまりの普通過ぎる様子に、六華は一つ溜息をついて。
 そして、ふと息を止めた。

「……!」
 唐突に袖を掴まれて、小池はすばやく横を見た。
「見ましたかっ?!」
 見上げてくる目が、どこか切羽詰った色を浮かべている。
「というと?」
「え……あ、ほら!」
 白い指が示した先は、ぼんやりと頼りない灯りの元。そこに浮かんでいる、
どこか白茶けた色合いの顔に、今度は小池が小さく息を呑んだ。

 やさしそうな、顔だった。
 白い額、笑ったように少し細められた目。黒い髪は綺麗に額の上で分けられ、
そのまま後ろへと流れてゆく。

「……お知り合いですか」
 いつの間にか袖を掴んでいた手は離れていた。もうすっかり落ち着いた声で
投げかけられた問いに、小池は少し微笑んで答えた。
「私の縁の者です」
 でも、と、小さく笑った声に、今度は六華が少し首を傾げる。その仕草が可
笑しかったのか、青年はにっこりと笑って指差した。
「あちらの方は、知りません」
 どういう仕掛けになっているのか、窓の外の女性はするすると流れるこの車
両についてきている。その隣の窓ガラスの外、やはりほんのりと明るい光の中
に、少し目を伏せている女性の顔を見て……六華は一瞬くしゃり、と顔を歪め
た。
「……ええ、それはそうだと思います……あ、でも」
「はい?」
「貴方が色街にでも行っていれば会ってたかも」
 くすり、と、悪戯小僧のような口調に、小池が苦笑する。六華は肩を竦める
ようにして笑った。
「……あたしの、胞輩です」

時系列
------
 2008年8月終わり頃

解説
----
『華白鬼・起』より、暫く経った頃の話。偶然か奇縁か、一緒の電車に乗った
あやかし達の巻き込まれた話。
******************

 というわけで。
 続きは……………早急に対処したいと思っておりますええ。

 であであ。
 


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