[KATARIBE 31948] [HA21N] 小説『仕事風景』

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Date: Tue, 25 Nov 2008 01:05:40 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31948] [HA21N] 小説『仕事風景』
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2008年11月25日:01時05分39秒
Sub:[HA21N]小説『仕事風景』:
From:久志


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小説『仕事風景』
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登場人物
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 陣内蒼助(じんない・そうすけ)
    :諜報機関に所属するエージェント。超再生体質を持つ。
 ウヤダ
    :腕利きのハンター、元吸血鬼狩り組織に身を置いていた。

夜
--

 糸のように伸びる、白い煙。

「任務完了」
 誰に聞かれるともなく、蒼助は無感情につぶやいた。
 夜の帳に覆われたその場所は死臭に満ちていた。

 血の海に立つ男。

 口から吐き出す細い煙。
肉、骨、五臓六腑の揺蕩う湖面で一服。返り血を浴びたタバコの味は独特だ。
 ここで何があったのか。理由は特筆すべき事ではない。
 ただ仕事を与えられ、こなした。彼にとって今はそれだけである。

 自責にとらわれるのは明日か、数十年後か。
 何にしろ、今は肉片を一瞥しながらの一服に耽るのである 

「夕飯は肉だな。食いたいからしかたない」

 男はぺちゃりぺちゃりと靴から滴るものを鳴らし、その場を去る。


仕事仲間
--------

 その日は珍しく一人ではない仕事だった。

 賞金稼ぎとしてあるときは殺し屋としてウヤダの仕事は常に一人だった。
 一人で計画を立て、対称の環境・状況・動向を調べ上げ、その行動を予測し、
幾通りもの行動予測と各状況下での対応を頭に叩き込み、実行する。
 危機に陥ったことは一度や二度ではない、命の危険を感じたことなど数え上
げたらキリがない。それでも、常に己の腕のみで切り抜け、渡り歩いてきた。
それだけの実力と実績を積んできた自負はある。
 だからこそ自分以外の人間と組むという事態は、正直あまり歓迎したくない
事だった。

「陣内蒼助だ、よろしく」
「ウヤダだ」
 目の前の相手、今回の相棒となる男は。一見からして普通ではない存在感と
威圧感とを、ウヤダに与えた。
「君達の依頼だ。水売りと、その裏の販売元をつぶしてくれ。陣内くんの方に
は上から話が通っているはずだ」
「了解している」
「わかった」
 一言二言、実務的な話をしながら。
 目の前の相手を分析する。
 正直、この陣内と名乗った男はウヤダにとってわかりやすい相手といえた。
 任務を最優先し、その為には方法をいとわない。そのムラのない忠実さを感
じる雰囲気はウヤダには理解しやすく、その考えと行動に安心感を憶えた。
 かつての、自分がそうだったように。
「ウダヤ、では場所を移すか」
「ああ」
 小さな名前のいい間違い、しかしその間違いを正そうとも思わなかった。
 ウヤダという名がどれだけの意味があるか、個人を判別するために便宜上
つけられた以外の意味はない。それが己を特定する為の記号として機能するの
なら、多少のいい間違いなど気にも留めることもない。


 握り締めたのは、普段の得物とは違う固いグリップの感触。銃口を上に向け、
銃身を肩に乗せて助手席に揺られる。
「もうすぐだ、ウダヤ」
「わかった」
「皆殺しか?」
 頭をこつこつと指先でつつく。
「ここも殆ど溶けかけらしい」
 水売りと販売元を潰す、具体的に言えば殲滅。少数での手合いならば愛用の
得物であるナイフで充分だが、今回は個の実力は低くとも数が多い。
「ならしかたがない。皆殺しで行こう」 
「ああ」 
 手にしたカービン銃、予備としてM29、そしてやはりナイフはいつものよ
うに腰に差してある。
「数は?」
「恐らく20は堅い」
「わかった」
 両手に構えた銃、無造作に歩く蒼助に続いて。ウヤダも手にしたカービン銃
を握りなおす。
「いくか」
「ああ」


 仕事の内容は、語るまでもなかった。
 許容量を超えた『水』の浸蝕で、相手は既に脳も体も辛うじて原型を留めて
いるかどうかの状況だった。

 嵐のように響く銃撃。
 逃げ惑いあるいは襲い掛かり、そして崩壊し異形へと化した者たち。
 いずれも物の数にもならない者ばかりだった。

 ものの半刻もしないうちに、状況は終わりを告げた。


 声を掛けたのは戯れだったが、その男は意外なほどに気さくに飲みの誘いに
乗ってきた。
「やはり味が違う。赤い味だ」 
 仕事の後に飲む一杯。
 この時の味だけは、ウヤダにとって格別だった。
「……ウダヤはこの味のなにに惹かれる?」 
「そうだな、どんなに安ウィスキーだろうと……仕事の後の一杯だけは違う、
それだけだ」
 フラスクを置いて、目の前でグラスを傾ける男を見る。
「そうだな、仕事の後の酒は同じ味だ。赤い味だ」 
「……血の味か、飽きもしないが好んで味わいたくもないな」 
「いつか味が変わるかもしれない。それまでは飲み続ける」
 任務に忠実であり、無駄がなく、だがそれでいて刹那的な。
 どこか自分と近しい何かがある。
「酒がうまいと感じられる間は、な」 
「そうだな…直ぐに黒い味になる」 
「……金は唸るほどあって、自由に使える時間もいくらでもある。だが、
酒がまずい」 
「黒よりは赤の方がマシか……」
 ふと、蒼助の胸ポケットから個性のない機械的な着信音が響いた。
「はい……ええ………」
 丁寧で、かつ、まるきり簡素な口調で答えながら。
「分かりました、そのように…ええ、いつも通りに」
 携帯を切り、ポケットから札を取り出してテーブルに置いた。
「仕事が入った。失礼するよウダヤ」 
「わかった」
 片手に持ったグラスを軽く上げて、見送る。


時系列と舞台
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 2008年春頃
解説
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 蒼助とウヤダとの出会いとか。
 BGM:『Damage Done』  Dark Tranquility / Damage Done
   『Angel Of Death』  Slayer / Reign In Blood
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以上


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