[KATARIBE 31937] [HA06N] 小説『雪上臈』

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Date: Mon, 24 Nov 2008 19:04:48 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31937] [HA06N] 小説『雪上臈』
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2008年11月24日:19時04分47秒
Sub:[HA06N]小説『雪上臈』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
風邪だーというわけで。書いてみました。
(そこ、それは順接で繋げる文章なのかっ)

******************************
小説『雪上臈』
==============
登場人物
-------- 
 本宮幸久(もとみや・ゆきひさ)
  :葬儀屋。本宮家三男。霊を見る目を持つ。六華とはそのはじめから親しい。
 六華(りっか)
  :現世に戻った冬女。花魁だった過去を持つ。本宮尚久宅にて下宿中。


本文
----

 雪野は雪上臈。
 そう、あの頃は言われていた。
 どれほど口説いても落ちぬ。泣いても怒っても動かぬ。

(お前はそれで良い)
 洒脱に遊ぶ男達は、そう言って笑った。誰にも転ばぬ、誰にも独占できぬ、
あどけないと同時にあでやかな女。
 
 こうやって生きることが始まっても、自分の中に何か動かぬものがある。そ
う思うことがあった。
 だから、それが自分なのだ、と。

                **

「六華、お前さあ」
 ふい、と改まって声をかけてくる相手に、六華はきょとんと顔を上げた。
「あいつと、付き合ってんの?」
「……は?」
「いやだからさ……」
 黒尽くめの服装、少しつり上がり気味の目。悪戯小僧が困っているような表
情を浮かべた男は、黒い髪の毛をかきまわした。
「あの、白い髪の男だよ」
「…………え」
 

(この、長くも不安定な道を……むごい世界を)

 ひどく綺麗な鬼を知っている。
 時に風に大きく揺らぎながら、しかし動かぬ鬼を知っている。

(……ゆっくり歩いていきましょう、共に)


 以前から、何度か見かけられていたのは確か。一緒に道を歩いているところ、
お茶を飲みながら話しているところ。確かに相当親しい、と思われるだろうし、
その点については六華も否定しようとは思わないのだが。
 でも。
(……付き合ってる、というのか)
 泡白の兎の一件以来、確かに彼は近くなった。ことさら話さずとも、ただそ
の隣に座っていられるほどには。
 けれど。
(ゆっきーさんの付き合っている、というのとはかなりそれ違う気がするし)
 彼が結婚するまでの騒ぎ。最終的に全てが収まるところに収まったとはいえ、
それがどれだけ大変だったかは、傍で見ていても確かで。
 でも、そういう関係では、多分、無い。

「……六華、お前」
 沈黙の意味をどう取ったか取り違えたか、唖然とした声に、六華は顔を上げ
た。視線の先で、その声の通り、唖然とした顔の幸久がこちらを見ている。
「やっぱり」
「やっぱりって……いや、そういうことじゃなくて!」
 絶対にこれは誤解している、と、六華は思う。百歩くらい譲って、自分達が
付き合っているという範疇に入るにしても、彼が思っているような状況ではな
い。
「……て、てか……なんでそんなにゆっきーさんっ」 
 こういう場合、六華の選ぶ方向は……最大の防御方法である。とりあえずこ
ちらから打って出た場合、付き合うの付き合わないの、ということは飛ばせる
かもしれない。
「……つ……付き合ってるとは言わないけど、でも、付き合ったって……別に
それはっ」 
 言い募る六華に、幸久は一瞬ひどく心配そうな顔になった。
「だ、だ、だってよ、今までだって、色々あっただろ?ほら、桜木とかよ」 
 その言葉に、ぐっと詰まった。

 達大とのことは、最初から最後まで幸久夫妻を巻き込む形で進んだ。
 沢山の心配をかけたことを知っている。
 責められるべきは自分。けれどもその間、決して彼らは六華を責めなかった。
 そのことがあの時、どれだけ有難かったか。

「今度の奴は……まあ、いい奴そうだけどよ……」 
 黒服の腕を組んで、ふん、と鼻を鳴らして少し横を向く。本当にずっと心配
をかけていたのだろう、と、その仕草の一つ一つが告げる。
「…………あの、ええとね」
 ふう、と一つ息を吐いて、六華は言う。
「……あのね、恋愛とかじゃないの、多分」 
 一瞬目を見開く相手の、その機先を制するように、六華は言葉を続ける。
「それよりも……一緒に居る、のが、主眼、かな」 
「…………むぅ」 
 唸りながらも、その表情は六華の言葉を肯定し、認めている。
「一緒に居て……ほっとするの。ああ一緒だから良かったなって」 
 ううん、と、幸久は小さく頷いた。
「まあ……なんだ、うまくいってるならいいんだよ。俺はよ………うん」
 うんうん、と、今度はやたらはっきりと頷く。 
「うまく、というか……」 

(貴方にとって、ここが良い場であるなら)
(いつまでも留まってください)

 いつもふわりと笑っている顔。
 綺麗な綺麗な……白い鬼。

「!?」 
 ふわりと赤くなった六華に、幸久のほうが驚いた。彼女の過去やどうやって
ここに居るかを、詳しく聞いたことこそないが、しかし恋愛にはかなり縁が無
い、とどこかで思っていた。
 恐らくはその過去の故に、恋愛とは程遠いのだろう、と。
 それが。
「……上手くいくというの、あたしには判らないから」 
 抜けるように白い肌をやっぱり紅に染めて、ぽつりぽつりと六華が言う。
「…………うまく、いってる、のかな……どうなのかな……」 
 視線を逸らせて、ぽつぽつと言う、その頬から顎の線。
 妙に気弱な、その顔に。
「なんだ、気になるのか!よし、任せろ」 
 きっぱりと幸久は言い切った。

「へ?!」
 大慌てで六華は振り返る。
「ま、任せろって何をっ」
「いやそりゃ」
「ってかゆっきーさん、そういうの別にいいから!ほんといいからっ!」
「で、でも、気になんだろ?つーか、大丈夫なのか、まじで」
 相手は本当に、純粋にこちらを心配してくれている。
「……大丈夫っていうか……」 
 それが判るだけに……困ってしまって六華は下を向く。
「……つかな、気になるならいつでも言えよ?こういうことならな、俺はちょっ
と積み重ねたものが」 
 あるからな、と、胸を張る。
 美絵子さんが聞いたら何というだろう、と、頭の隅で六華は思う。
「…………あのね、その……」 
 だが、無論彼女はここにおらず。
「……説明しづらいなあ……」 
 彼の言葉がどうであれ、自分の立場は変わらない。
「……一緒に居たいなって、あたしは思うし……多分、あちらも…………思っ
てると、思う」 
「………………そうか」 
 沈黙の後の声は、暖かいものだった。
「まあ、あれだよな……うん、最初はそういうもんだから」
 ぽんぽん、と、手を伸ばして六華の肩を叩く。丁度妹に兄がするような、そ
んな仕草で。 
「……最初?」 
 きょとんとして六華が問うのに、幸久はうんうん、と頷いた。
「気にすんな。うん、そういうのが大事だかんな」 
「……はあ……」

 絶対に何か誤解があるなとは思ったが、とりあえず六華は黙った。

            **

「雪上臈だの」
 吸い付けた煙管を受け取って、男は笑った。
「はい?」
「こんな折れそうな指をして、こんな細い身体をして」
 伸びた指が腕を撫でる。
「決して落ちぬ」
 目を丸くした雪野の顔を見て、男は笑った。
「別にそれがどうこうとは言わぬよ。お前はそういう者なのだろう」
 けれどね、と、親子ほども年の違いそうな男は、ふっと真顔になった。
「お前が落ちる時は、どうなるだろうねえ」
「どう?」
 ふわり、と、纏った衣の袖を翻す仕草が一瞬彼女の顔を隠した。
「落ちることなどございませぬ」
 大きな、目尻のほんの少し上がり気味の目が、いっそ小気味良いほどの笑み
を浮かべる。傲慢な、そして……その傲慢さを裏付ける強さを伴った笑みを。
「雪野は雪上臈。ならば落ちる時は……私が溶ける時」
 紅をさした唇がにっこりと笑った。
「私はまだ、溶けたくはございませぬ」
 笑みの可憐さと、裏腹に挑むような目と。
 男は少し笑って、そうか、と言った。

             

(落ちる時は溶ける時)
 ゆっくりと三味線の糸に指を滑らせながら六華は思う。
(落ちる時は……消える時)

 多分その時、自分の抱えているだろう願いは叶わぬから。
 叶うとは思えないから。

 ぽろ、ぽろ、と、小さく爪弾く弦の音が、その内心を静かに認める。
 その、音のように聞こえて。

「……六華さん?」
 ふと、問いかけられるような声に、六華は顔を上げた。
 にっこりと、もう既に習性とも化した笑顔を浮かべる。

「ああ。次には、何を弾きましょうか、国生さん」


時系列
------
 2008年10月付近

解説 
----
 泡白兎の一件の後。幸久との会話。
***********************************

 てなもんです。
 であであ。
 
 


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