[KATARIBE 31920] [HA21N] 聞こえる嗚咽

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Date: Tue, 18 Nov 2008 22:53:48 +0900
From: Subject: [KATARIBE 31920] [HA21N] 聞こえる嗚咽
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[HA21N] 聞こえる嗚咽
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登場人物
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HA21C:Midnight Step:淡蒲萄(うすえび)[うっちゃん][USB][ロリ系エロカワ]
[吸血鬼]
    http://kataribe.com/HA/21/C/0005/
HA21C:時をかける少年:大沢那琴(おおさわ・なこと)
    http://kataribe.com/HA/21/C/0029/


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 目覚まし時計は、もうすぐ20時を示そうとしていた。
 部屋の主、大沢那琴の耳に小さな衣擦れの音が聞こえる。ベッドで眠っている
淡蒲萄が少し身動きしたのだろう。先刻、ベッドから抜け出す時には、きちんと
肩までシーツをかぶっていたのを思い出し、那琴は再び書き取りに意識を戻した。

 吸血鬼である彼女と、人間である那琴の生活時間にはどうしてもずれが生じる。
本来日中は眠っている筈の彼女は、以前は日が落ちてから会いに来たものだが、
最近はこうして日中から訪れている。淡蒲萄が少々無理をしているのは那琴
にもわかっているのだが、彼女の気持ちを考えるとなかなか止める気にもなれ
ないのだった。

 また衣擦れの音がしたが、那琴は深く書に集中していた。その為、淡蒲萄の
小さな寝言は紛れてしまいその耳には届かなかった。眠っている淡蒲萄の小さな
唇が、二度三度と動いていた。

「泣いてる……」

 淡蒲萄の耳には、誰の物ともつかないか細い泣き声が聞こえていた。
 泣き声を耳にすること自体は珍しいことではない。齢百を少し超える程度と
はいえ、淡蒲萄はこの霞の街で、少女達の守護者として存在し続けてきたのだ。
幾度となく彼女たちの泣き声、叫び声は耳にしてきた。
 しかし。
 声の主も定かではないが、泣き続けているだけに思えた。そして、その声は
ただ聞こえてくるだけだった。淡蒲萄にしても、こんな聞こえ方は初めてだ。
浅い、水面すれすれを漂う眠りのなかで耳を澄ませても、その声の元はわから
ない。
 嗚咽は止まなかった。ただただ泣き続けるその声は、小さな子供のものの様
にも思えたし、彼女の護るべき対象である、少女のものにも思えた。

「どこに……」

 ふとした集中の途切れに、淡蒲萄の小さなつぶやきが聞こえ、那琴は手を
止めた。振り返ると、こちらに背中を向けた格好で、淡蒲萄が眠っている。
肩までかけていた筈のシーツは半ばずれおちて、白い背中が露わになっていた。
 シーツをかけ直そうと近づいたところで、また淡蒲萄の声が耳に届く。

「わからない?」

 淡蒲萄の手は、何かを探しているようにも思えた。それがちょうど、先ほど
まで自分が眠っていたあたりだったので、那琴はその手を握りシーツを肩まで
かけ直す。さらさらと肩を流れる黒髪に、思わず手が伸びた。
 一撫でしたところで、淡蒲萄は目覚めたようだった。

「大丈夫、ここにいるよ」

 応えるように、手が握りかえされる。

「うん……今、何時……?」
「まだ八時だよ」
「八時……」

 ぼうっとしたまま、もぞもぞと起き上がる。胸元にシーツを抱きしめたまま
で、まだはっきりとは目覚めていないようだった。その隣、ベッドの隅に那琴
が腰掛けると、淡蒲萄はすぐさま抱きついた。何度となく抱きしめている筈
なのに、軽さと柔らかい感触には未だ慣れない。赤面しながらも抱きとめると、
胸板に顔を埋めたまま淡蒲萄は訊ねた。

「……さっき、夢見てた……寝言、言ってた? あたし」
「うん」

 以前と違って、那琴の背丈も随分と伸びている。出会った当初はわずかに
彼女の方が背が高かったのだが、今は追い抜いて久しい。肩も背中も、時折
だが小さく映ることもある。それでも立場が入れ替わったとは思えない。当初
から淡蒲萄はどこか年上ぶるところがあって、それは今でも変わっていない。
こうして抱きしめていても、尚更そう思える。

「なんて言ってた?」
「泣いてる。どこにいるか分からない?って。意味はよく、わからなかったよ」
「なんかね、泣き声……泣いてる声が聞こえたの」
「知ってる人の声?」
「ううん。知らない……でも、普段聞こえるのとは、なんか違ってて……ただ、
泣いてるだけみたい」

 那琴の首に腕を回して、首筋に軽く口づける。無論、那琴の血を吸うつもりが
あるわけではない。ただ、甘えているだけだ。もっとも、未だに那琴は慣れずに
いるので、動揺しているのも悟られているのだろう。まだまだかなわない。でも。

「そ、そうなんだ」

 一息、軽く咳払いをして、那琴は続けた。恋人は、ただ聞いてほしくて言って
いるわけではない。

「助けを求めてるのとは違う?」
「それも、よくわかんない……もしそうだったら、引っ張られるはずだし」

 引っ張られるという表現はなかなか上手いものだと思った。彼女自身、少女
たちを助ける意思を最上のものとしている為、問題はないのだが、淡蒲萄には
選択権がない。少女達の声は、淡蒲萄に届き、淡蒲萄はただ呼び出されるだけ
なのだ。だから、淡蒲萄にとっても不可解なのだろうと思った。これまでで
あれば、声だけがずっと聞こえていることなどなかったのだから。

「泣くことしかできないのかもしれないね」
「泣くことしか? どういうこと……?」
「淡蒲萄さんに届くほどの嘆き、か」

 それは、とてつもなく深い嘆きなのかもしれない。助けを呼ぶことにも、
意識が及ばないほどの嘆き。もしかすると、助けを呼ぶことすら知らないの
かもしれない。だが、それを考えることに意味はあまりない。
 だから背中を押すことにした。淡蒲萄が今、そうしてほしがっているのを
那琴は知っている。

「問題は、淡蒲萄さんがどうしたいかってことだよ。泣いている人を見て」
「助けたい……ううん、助けなきゃいけない……」
「じゃあ、そうすることにしよう」

 ね、とまっすぐに目を見て微笑む。淡蒲萄は目を細めて、那琴に抱きついた
まま、ベッドに倒れ込んだ。

「……うん。そうする。ありがと、ナコトくん大好き」
「う、淡蒲萄さん……」

 そのまま唇を塞がれて、那琴は言葉を続けられなかった。


時系列と舞台
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11月

解説
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えろいけどえろくならないようにがんばりました。


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Toyolina
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