[KATARIBE 31919] [HA21N] 『或る邂逅・5』

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Date: Tue, 18 Nov 2008 01:25:34 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31919] [HA21N] 『或る邂逅・5』
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2008年11月18日:01時25分33秒
Sub:[HA21N] 『或る邂逅・5』:
From:久志


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『或る邂逅・5』
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登場人物
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 ウヤダ
    :腕利きのハンター、元吸血鬼狩り組織に身を置いていた。
 佐上銀二(さがみ・ぎんじ)
    :妖刀を携えた吸血鬼。下賎な氏族の一員。

巣
--

 生暖かい、異臭を含んだ湿った呼気が吹きつける。
 それは直視するのも憚られる程の異様な姿だった。

 女の喉から全く不似合いな野太い咆哮が響く。
 裂けた服の間から覗く、波打つような白い肌。しかしその腰から下の地面を
這った歪な胴は一言で表せば、複数の男の体を溶かしてでたらめに混ぜ合わせ
てできた軟体動物としか言えない吐き気のするようなおぞましい代物だった。
 半ば溶け崩れた肉塊を小刻みに痙攣しながら、女の姿を保った上半身がゆら
りと仰け反った。
 破けたブラウスの合間から覗く白い乳房の間からへそにかけて、縦に一筋の
裂け目が走り、一瞬置いて、内側からせりあがるように眼球が覗いた。

「巣は、そこか」
「ほぉう」
 目の前の事態にまるで動じた風もなく、抜き身の刃のような冷ややかな目で
見据えるウヤダと、緩さを見せつつも獲物を狙う蛇のような油断ならない空気
を漂わせる銀二。
 白目を剥いて完全にその意識を失った上半身の女、その両腕がうねるように
伸び、さながら白い触手のように地面をのたうった。
「くるぞ」
 攻撃は予測できていた。
 だが。
「っ!」
「うぉ」

 閃いたのは、幾筋もの光条。

 耳をつんざくような風切り音と叩きつける衝撃波。
 先程対峙した男達とは桁違いの鋭さと速さを持った、鋼の鞭にも似た白い腕
が変幻自在に撃ちつけられる。
「くっ」
 一方がウヤダの肩を掠め、ナイフで捉える隙を全く与えず退いていく。
「がっ」
 もう一方が受け止めようとした銀二の白刃を弾き、すかさず脇腹を抉って走
りぬけ、引き際に体を跳ね上げるように打ち据える。
 先程まで人並みはずれた死闘を繰り広げていたウヤダと銀二でさえも、一瞬
動きを捉え損ねる程の猛攻に二人の体が数歩下がった。

 白い大蛇のように地を這い、うねり、跳ねて、のたうち襲い来る二本の腕。
その動きは余りにも速、寸分の隙も無い。
 反撃の糸口の掴めぬまま、防戦する二人の前で勢いは尚も止まらず、全くあ
らぬ方向から襲う攻撃。

「こりゃラチがあかんのうっ」
 在らぬ方向から振られた腕から叩きつけられる打撃を辛うじて弾き、銀二が
大きく後退する。同じく後退したウヤダがナイフを構えたまま腕の動きから目
を離さずに言葉を続ける。
「しかし長さは無限ではないようだな、距離をとれば腕を余裕が減り、勢いは
削げる、が」
「攻めようがないっちゅうことか」
「そうだ」
「困ったもんじゃのう」
 表情一つ変えずに答えるウヤダに軽く竦めてみせる。

 再び、鼓膜を切り裂くような風切り音と白い軌跡。
 だが叩き付けた地面に既に二人の姿はない。
 跳ね上がり、全神経を四方に向ける。前後左右上下いずこから襲い来るかわ
からない攻撃に辛くも反応すると、二人は既に示し合わせたように動いていた。

 半分鉄骨がむき出しになった廃ビルの壁を垂直に駆け上がる二つの影。

「悠長に距離をとる余裕もなさそうだな」
「全くじゃの」
 淡々と告げながら一歩も揺るがずに壁を駆け上がるウヤダと、白刃の峰を肩
に乗せて楽しげに走る銀二。
「片方を抑えられれば、勝機はあるな」
「ほぉう、名案でもあるんか?」
「なくはない、やるか?」
「おう」
 何をやるかも聞かずに即答する銀二に一瞬呆れたような表情を浮かべて。
「わかった」
 返事と同時に躊躇なく銀二の脇腹に蹴りを叩き込んだ。
「ぐおっ」
 不意の一撃を喰らって、無理な体勢で壁を駆け上がっていた銀二の体が大き
く揺らいで下へと落下する。
 その隙を見逃すはずもなく、壁を跳ねるように昇ってきた女の貫手が銀二の
腹に深々と突き刺さった。
「ぐっ」
 腹を貫通した腕、串刺しになった銀二を壁に叩きつけようとしたその時。
 ナイフが閃いた。
 ぶしっと音を立てて、銀二の目前で白い腕が皮一枚まで切り裂かれ濁った体
液が噴出する。
 一瞬に鈍った動きを見逃さず、すかさず銀二の襟首を掴んで、皮を千切って
戻ろうとした腕に深々とナイフを突き立てた。

「うおおぉぉ」
 突きたてた刃を引っ掛けながら腕が退き戻る力を利用して、さながら一本釣
りのように跳ね上げられた二人の体が宙を飛ぶ。
 投げ出された体をもう片方の腕が狙おうとするも、既にナイフを抜いて本体
へと一気に跳躍していた。

 『巣』に溶けた者達が一斉にぬめった目をこちらに向けた。
 生気も意志も全く失った目、無数の男の頭部がろくろ首のようにのたうち伸
び上がりながら牙を剥いて襲い掛かってくる。
 ナイフが閃き、ウヤダの目の前を半分に断ち切られた男の顔通り過ぎていく。
「めちゃくちゃしよるわっ」
 銀二も襟首を掴まれたままの不安定な姿勢から器用に刀を振るって襲い来る
頭部を切り捨てた。
「あとは頼む」
「何?」
 空中で、再び背中を蹴り飛ばした。
「ぐおっ」
 蠢く本体へと、目掛けて。


 さながら密集した鯉の群れに投げ込まれた餌のごとく。

「おおぉのれがぁぁ!」
 柄で喉に食いつこうとする顔を殴りつけ、返す刀で足に群がる首を叩き斬り、
腹に食いついた首を毟りとって地面に叩きつける。
 なおも後から後から湧き出る首相手に飛沫を散らして刀を振るう。
「やったるわ!」
 背後から急襲した触手を振り向きざまに刃で受け止め、そのまま受け流しな
がら前方から迫る首を掃いぬける。
「くそっ」
 止まらない猛攻に毒づいて再び刀を構えた時、すぐ脇で赤い飛沫が上がる。
「……っ!」
 銀二の足元に跳ねた白い腕を踏みつける。

 『巣』はその両腕の半ばを断ち切られ、その胴に蠢く無数の顔も切り裂かれ
歪に波打っていた。

「随分、荒っぽいことしてくれるのう」
「おかげで腕は片付いた」
「死んだらどうする気じゃ」
 血を吐き出しつつ、濡れた刃を構えなおす。
「死なんだろう、貴様は……いくぞ」
 悪びれる様子もなく血のついたナイフを手に狙いを違わず斜め上方へと振り
ぬいて、そのまま『巣』の女の脇腹を蹴って飛び退る。
「これで……しまいじゃ!」
 ウヤダが離れたタイミングと同時に、白刃を下段の構えから擦り上げるよう
に斬り上げた。

 撥ねた血が飛び、逆袈裟に切り上げられた胴がゆっくりと斜めにずり落ちる。
水袋が破裂したかのように濁った血が地面に溢れて。

 それきり蠢く胴も女の姿も濁った汚泥と化して消えた。


仕事の後
--------

 建物の隙間からかすかに照らす月明かり。その下に立つのは二人。

「……止まれ」
「なんじゃ、まだ殺る気かの」
 足を止めて両腕を上げてみせる銀二を一瞥する。
「貴様、何者だ」
「ワシは佐上銀二、そうじゃなあ……荒事好きの便利屋ちゅーとこかの」
「『水』との関わりは?」
「興味は無いのう、危険なもんらしいっちゅうのは知っとるが」
「じゃが『水』絡みの連中とは中々に面白い戦ができる奴が多くてな」
 口元を歪めておかしそうに笑う。

「御主のように、な」

 一つ、ウヤダが息をつく。それが呆れかため息か。
「物好きだな」
「ははは、よう言われる。ところで御主は『水』を狩る為に戦っとるんか?」
「『水』に興味はない。これは仕事だ」
 ようやく一息ついたように、ウヤダが胸ポケットからフラスクを取り出し、
親指で蓋を弾いて開ける。一口、琥珀の液体を口に含んでウヤダは満足げに小
さく息をついた。
「仕事の後の一杯か」
「そうだ、この一杯のうまさは格別だ」
「御主、『水』に興味はないと言うとったが、何故にこの血なまぐさい仕事を
しとるんじゃ?」
 純粋な問いに、何の感慨もなくウヤダが答える。
「この一杯の為だ」
「仕事の後の一杯の為、か。これは」
 くつくつと、喉の奥からこみ上げるように。
「面白い奴じゃ」
 白鞘に収まった刀を片手に自らの肩を叩いて笑う銀二の姿に、フラスクを持
つ手を止め、訝しげな顔でウヤダが顔を上げる。
「それは……俺のことか?」
「おや、気に障ったかの」
「いや、その言葉……そのままお前に返す」
「そうか?」
 くくっと喉の奥で笑いながら。
「飲めん身にはうらやましいのう」
「それは、辛いな」


時系列と舞台
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 2008年春頃
解説
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 銀二とウヤダの出会い。
 BGM:『Needled 24/7』 Children Of Bodom / Hate Crew Deathroll
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以上



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