[KATARIBE 31911] [HA06N]小説『左肩の少女・第七話 -雨上がりの晩に-』

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage


Index: [Article Count Order] [Thread]

Date: Wed, 12 Nov 2008 17:30:07 +0900
From: Subject: [KATARIBE 31911] [HA06N]小説『左肩の少女・第七話 -雨上がりの晩に-』
To: <kataribe-ml@trpg.net>
Message-Id: <22DC96763CBA4BD0ABA3B793E79CF1D2@FM773AD2B0F81F>
X-Mail-Count: 31911

Web:	http://kataribe.com/HA/06/N/
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/31900/31911.html

どうにかこうにか仕上げました。
セリフ回しとか色々心配な部分があるので、問題点などありましたらご指摘
お願いしますー。

-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
 小説『左肩の少女・第七話 -雨上がりの晩に-』
 ====================

 登場人物
 --------
 東堂幹也(とうどう・みきや):執事風の青年。山形かずこの補佐を務める。
 山形かずこ(やまがた・−):「ひまわりの家」の園長であり、市原の魔女。
 樫屋サトミ(かしや・−):深夜、市街を徘徊する骸骨の少女。
 ミハイル:サトミの胸郭内に住み着いた幽霊。サトミの通訳を務める。


 本文
 ----
 
 サトミマンションで死人達が宴を開いていたのと丁度同じ頃、児童養護施設
 「ひまわりの家」の院長、山形かずこは事務や書類整理を一段落付け、ハー
 ブティーを淹れて一休みしているところだった。
 温かい湯気を立てるカップに口を付けようとしたところで、ドアを3回、遠慮
 がちに小さくノックする音が聞え、手にしていたマグカップを置いて、ドア
 の方を向いて呼びかける。

 「どうぞ。開いているわよ」
 「かずこ様、失礼します」

 数瞬の後、ドアが開き、昨年から執事としてかずこの補佐を務めている隻腕
 の青年、東堂幹也が入ってきて一礼する。
 いつも通りにきっちりと着こなした黒いスーツのポケットからは細い懐中電
 灯が除いていた。
 かずこは幹也のポケットから覗く懐中電灯に気付き

 「あら、お出かけ?こんな時間にどこに行くの?」
 「ええ、少し見回りに行こうと思いまして」
 「見回り?」
 
 「ひまわりの家」の消灯時間は午後9時であり、消灯前の見回りはかなり前
 に終わっている。
 一体何を見回るのだろうとかずこが思案しているところに、幹也の言葉が続
 く。
 
 「ここ最近、女子高生の失踪が相次いでいるそうで、何かの事件の可能性も
 あるのでパトロールに行こうかと」
 「そういえば、ついこの間も起こったそうね」
 「はい、三日ほど前に伊吹大学附属高校の生徒が失踪したまま帰って来なく
 なったと」
 
 伊吹大学附属高校に通う生徒の失踪、そして捜索が行われている事は、二日
 前の新聞で報じられていた。
 ただ、それはふとした弾みで見落とされてしまうか、忘れられてしまいそう
 な小さな記事だった。
 
 「……幹也君も気をつけるのよ。ケガでもしたら大変だから」
 
 かずこは暫し思案した後、幹也に言葉を返す。
 隻腕というハンデはあるものの、幹也の荒事への対処能力は高いことをかず
 こは知っている。
 殺されることはおそらく無いだろうけれど、気をつけるようにと注意を呼び
 かける。
 
 「はい。では、失礼します」
 
 入って来たときと同じように深く一礼し、幹也は部屋を出て行く。
 幹也が部屋から退出するのを見届けて暫くの後、かずこは机の上に置きっぱ
 なしになっていたハーブティーのカップに口をつける。
 それほど時間は経っていた実感は無かった筈なのに、カップの中のハーブテ
 ィーは冷めて生温くなっていた。
 
 ドア越しに、広間の柱時計のベルが12回鳴るのが聞えた。
 
 ***
 
 「ひまわりの家」の周辺から始めて、あちこち歩き回ること暫し。
 ポケットに入れたままの懐中時計を見ると、時計の針は午前1時に差し掛かか
 るところだった。
 ふと見上げると、空には上の部分が楕円に欠けた居待月の月が、暗い雲の隙
 間から顔を覗かせ、穏やかな青白い光を放っている。
 夕方まで降っていた雨は今はもう止んでいたが、雨で空気は湿気を帯び、冷
 え切っていた。
 風は無く、辺りには冷たい湿気と共に濡れたアスファルトの匂いが立ち込め
 ている。
 静かで、そして何も無い、平和な夜だった。
 
 そろそろ戻った方が良いだろうかと幹也が思案していると、不意に、街灯が
 途切れて真っ暗な道の向こうからやや高い男性の声が聞えて来た。
 
 そうそう、殺人犯……うろうろして……かえろ……
 
 かなり距離が離れていたこともあり、全て聞き取ることは出来なかったが、
 あまり良い内容ではないことは幹也にも分かった。
 声のする方を向くと、縞模様の服を着た華奢な女性のような姿が見える。
 だが、聞えてくる話し声は明らかに男性のものだった。
 
 (今、殺人犯って言わなかったか?)
 
 人影は幹也のいる場所より手前の曲がり角を曲がって行った。
 幹也は急いで不審な人影を追って曲がり角へと入り、そのまま歩き去ろう
 とする人影に向かって声をかける。
 
 「こんばんは」
 
 人影は不意に背後からかかった声に、びくっと弾かれたように振り返り、言
 葉を返す。
 
 「あ、こ、こんばんは」
 
 返ってきた声はさっき聞えていた男性のものではなく、明らかに女性の声だ
 った。
 それならさっき聞えてた声は一体、と幹也が考えているところに少女の言葉
 が続く。
 
 「……何か、ご用ですか?」
 「いえ、特に用があるというわけでは」
 「あの、用が無いのになぜ……」
 
 少女は露骨な警戒のまなざしを幹也に向けるが、幹也はそれに動じることな
 く言葉を返す。
 
 「防犯パトロール中でして」
 「あ、そうでしたか。私はちょっと、その、お散歩を」
 
 幹也の理由に納得したのか、少女はわずかに警戒の色を薄れさせる。
 だが、歯切れの悪い、はっきりとしない少女の言葉に、何か後ろめたいもの
 があるのではないかと幹也は考える。
 
 「そうでしたか。いつもこの時間帯にこの辺りを?」
 「いえ、この辺りは初めてですけど。……あの、何かあったんですか?」
 「いや、最近女子高生の失踪が相次いでいるそうで。考えすぎかもしれませ
 んが、事件の可能性もあるので」
 「え……あ、あの、詳しく聞かせてもらえませんか?」
 
 改めて幹也は少女を見る。
 ほっそりとした、人形のような丹精な顔立ちで、歳はさほど幹也と離れては
 いないようだった。
 一体どういう関係なのだろうと、幹也は暫し考えてから答える。
 
 「私も詳しくは分かりませんが、この辺で最近相次いでいるそうですよ」
 「あ、そ、そうなんですか。……あ、それで心配してくださったんですね。
 ありがとうございます」
 「いえいえ。そうだ、私もご一緒しましょう」
 「え……?あ、あの、そろそろ帰ろうかと思いますので」
 「そうでした、引き留めてしまい申し訳ありません」
 「いえ、あの、それじゃ失礼しますね。見回りご苦労様です」
 
 踵を返して立ち去る少女を見送り、その姿が見えなくなったのを確認してか
 ら、幹也は再び歩き始めた。
 
 ***
 
 幹也――執事姿で隻腕の青年の姿が見えなくなるところまで走ってから、少
 女――サトミは今来た道を振り返る。
 
 あの人、こんな夜中に何をやっていたんだろう。
 それに何であんな、執事さんみたいな服を着ていたんだろう。
 片腕が無かったけれど、何かの事故か病気で無くしたのかな。
 それに……
 
 「妙な気配が漂ってた、だろ?」
 
 服を透過してサトミの腹腔から滑るように出てきたミハイルが、サトミの言
 葉を継いで続ける。
 
 「怪しいねぇ。見るからに怪しいじゃないか」
 
 神妙な表情で、しかし言葉と仕草の端々に嬉々とした表情をにじませてミハ
 イルが頷く。
 
 「あの青年、間違いなく普通の人間じゃないね。君も分かってただろう」
 
 サトミは些か自信なさげに小さく頷く。
 確かに黒服の青年は、常人とは違う特有の気配を纏っていたものの、だから
 といって自分を殺した犯人と決め付けるのは何か違うような気がした。
 
 「いや、でも見るからに怪しいじゃないか」
 
 確かに怪しいのは怪しいけれど、やっぱり悪い人には見えないように思えて
 来る。
 
 「けど君、相手の顔をきちんと覚えていないんだろ」
 
 どうしても件の執事風の青年が犯人と思い込んでいるらしいミハイルに、サ
 トミは何と言葉を返して良いか思案していると
 
 「しょうがないね、私が尾行しておいてあげようか?」
 
 そんなの必要ない、とサトミは心の中でイメージするが、ミハイルはそれを
 遠慮と受け取ったようで
 
 「なに、遠慮しちゃいけないな、君と私の仲だからね」
 
 それだけ言うと、ミハイルはサトミの答えを待たず、先ほど黒服の青年が行
 ったであろう方角に向かって飛び立っていった。
 サトミはミハイルを呼び戻そうかと思案したが、何だか酷く疲れた気がして、
 マンションに戻ることに決めた。
 マンションでは死人組がパーティーを続けている頃だろう。
 ふと、初めてパーティーに参加すると言っていた美和のことを思い出した。
 
 楽しめているかな。そうだ、久しぶりに参加してみようかな。
 
 そう考えて、今まで来た道をマンションへと引き返して行った。
 
 ***
 
 ミハイルが戻って来たのは明け方近く、丁度死人パーティーが終わろうとす
 る頃だった。
 あの後、ミハイルは幹也の後をついて何か不審なことは無いかと調べたもの
 の、幹也は言葉通り、ただパトロールをしていただけだった。
 
 「普通に見回りしてたよ、ああうん、特に変なことは考えてなかった。残念
 だけど違うみたいだねえ、あ、いやそんなつもりじゃないんだよ。私は純粋
 に君のためを思ってだね……」

 さも無念そうに残念ながらシロだったと語るミハイルに、サトミはやっぱり
 ね、と思念で応じる。
 
 あの人も、妙なことに巻き込まれなければ良いけれど……。
 
 ふと、思った。
 
 時系列と舞台
 ------------
 2008年10月頃、ある晩。
 第六話からの続き。

 解説
 ----
 サトミと幹也、深夜の邂逅。
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=

以上です。
さて、次か次の次辺りで真犯人を動かし始めないと……。

それから美和もちゃんと活躍させてあげないとっ 


 ---------------------------------------------------------------------
http://kataribe.com/ 語り部総本部(メインサイト)
http://kataribe.com/ML/ メーリングリストの案内
http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/ 自動過去ログ
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/31900/31911.html

    

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage