[KATARIBE 31905] [HA21N] 『或る邂逅・4』

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Date: Sat,  8 Nov 2008 01:28:38 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31905] [HA21N] 『或る邂逅・4』
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2008年11月08日:01時28分37秒
Sub:[HA21N] 『或る邂逅・4』:
From:久志


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『或る邂逅・4』
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登場人物
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 ウヤダ
    :腕利きのハンター、元吸血鬼狩り組織に身を置いていた。
 佐上銀二(さがみ・ぎんじ)
    :妖刀を携えた吸血鬼。下賎な氏族の一員。

愉悦
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 僅かに傾いた切っ先を照らす月明かり。

 対峙するのは、片や元吸血鬼狩り組織の精鋭として数え切れぬ程の吸血鬼達
を屠ってきた男、ウヤダ。そして片やゴキブリとも揶揄される極めて強い再生
能力を持つ吸血鬼氏族の一人、銀二。
 ナイフを構えたまま、ウヤダは撃ち込むタイミングを計る。
 銀二もまた、淡く光を帯びた妖刀を八相に構えたまま微動だにしない。

 静まり返った空間、二人の間の距離およそ15メートル。
 単純な間合いで言えば日本刀とナイフとでは刀の方が優位と取れるかもしれ
ない。だが、つい先程見せたウヤダの弾丸さながらの跳躍とその足から繰り出
される強烈な蹴撃は間合いの不利などかるく覆すだろう。
 切っ先を僅かに揺らし、銀二は知らず笑みが零れていた。
「強いなぁ、御主」
 返答はない。
 ただ肌を焼くような静かな殺気だけが答えだった。
「久方ぶりに、血が湧いたぞ」
 静かなる睨みあい。だが、もう既に水面下での戦いは始まっていた。
 焼付くような緊張の中、互いの動きを詠み合い、いかに虚を突き、いかに踏
み出し、いかにその息の根を止めるか。

 既に命のない冷え切った体に満ちてくる高揚感。
 呼吸も心臓の鼓動もない動く屍たる吸血鬼の銀二にとって、戦いの中で滾る
このひと時が、かつてあった生を思い出させる。
 動く屍ではない、かつて魂を燃やす者だった遠い過去の事を。

 僅かに体を前に傾けウヤダが駆けた。
 その手に握った刃が閃いたと思うと、ほぼ一瞬の間にその姿が迫り、低姿勢
から銀二の一歩手前、刀の届くギリギリの位置から前傾姿勢で水平に薙いだ。
「くっ」
 咄嗟に足を引いて切断は辛うじて免れたものの、繰り出された一撃は左足の
膝の皿を真っ二つに割り、銀二の体勢が僅かに崩れた。
 その隙をウヤダは逃さない。足を斬られつつも振りぬこうとする刀をナイフ
で受け流しながら地面を蹴る、一瞬置いて渾身の力を込めた踵が銀二の肩に叩
きつけられる。
「……っ!」
 砕かれた。
 膝を切り裂いた傷は直に復元する、が。鉄槌のごとき後ろ回し蹴りを叩き込
まれた肩は歪にへこみ、刀を握る手が僅かに揺らいだ。
「これじゃのう」
 左肩の骨はほぼ粉砕状態、復元には少し時間を要するだろう。左手は辛うじ
て刀から離れずにいるだけで、握りこむ力が入らない。
「御主のような奴が居るから」
 銀二の声などまるで耳に入らぬかのように、その心臓めがけて更にナイフを
突きたてようと振りかざす。
「やめられんのじゃ!」
「っつ」
 右手のみで振りぬいた刀は咄嗟に防ごうとしたナイフを弾いてウヤダの即頭
部を掠めるように斬りつけた。
 断ち切られた褪せた金髪がばらばらと散る。
 すかさず後退し、ずるりと剥がれ落ちるようにウヤダの頭から金髪と鬘と作
りものの皮膚が剥がれ落ち、灰色がかった髪が零れた。
「それが素顔かのぅ」
 真っ直ぐに切っ先を正眼に構え、口元に笑みを浮かべる。内側から軋む音を
立てながら左肩の骨がゆっくりと再生していく。
「もう少し、楽しませてくれんか?」
 答えの代わりに、ぎりと噛み締める音。
 再び緊迫した水面下での戦いになろうとした時。


 その足元から地響きのような鼓動が響いた。

 いつの間にか、広間に重く澱んでいた夜気が生暖かい呼気に変わっている。

 二人が同時に顔を向けた先、女が倒れていた場所に『それ』は歪な体を横た
えていた。上半身はその形を残し、宿主である女は既にその意識は無くだらり
と口から泡を吹いたまま体を揺らし、下半身には複数の男のバラバラになった
手足胴が歪に溶け合った肉塊が不気味に蠕動していた。
「ほおう、本体か」
 ひゅうと、口笛を吹いて。
「おい」
 無言だったウヤダが訝しげに口を開いた。
「なんじゃ」
「もう一度聞く、お前の目的は何だ?」
「さあのぅ。御主も良いが、あやつも中々に手ごたえがありそうじゃ」
 再生した左肩を軽く回し、刀を構えなおす。
 薄笑いを浮かべて『巣』に向き直る姿を見て呆れたようにウヤダが呟く。
「理解できん」
「どうでもええこっちゃ――殺るか?」
「それが仕事だ」
 邪魔したのはお前だろう、とは口に出さなかったが。


時系列と舞台
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 2008年春頃
解説
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 銀二とウヤダの出会い。
 BGM:『Lost To Apathy』 Dark Tranquility / Character
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以上


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