[KATARIBE 31904] [HA06N]小説『左肩の少女・第六話 -死人達の時間-』

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Date: Sat, 8 Nov 2008 00:56:36 +0900
From: Subject: [KATARIBE 31904] [HA06N]小説『左肩の少女・第六話 -死人達の時間-』
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蘇芳です。
まだ途中ですが、書いていたら量が増えてしまったのでとりあえず流します。
次は幹也君の視点からスタートの予定。

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 小説『左肩の少女・第六話 -死人達の時間-』
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 登場人物
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 大崎美和(おおさき・みわ):幽霊の女の子。おっとり系。
 樫屋サトミ(かしや・−):深夜、市街を徘徊する骸骨の少女。
              生前は活発な少女だった。
 ミハイル:サトミの胸郭内に住み着いた幽霊。サトミの通訳を務める。
 坂本麻依子(さかもと・まいこ):サトミマンション管理人。
                 里見一族によって作られたグール。
 柏木甚助(かしわぎ・じんすけ):人間のフリをする化け狸。お節介焼き。

 本文
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 「では、行ってきますねー」
 
 406号室に居候する幽霊少女、大崎美和は宙を泳ぐようにドアまで向かう。
 美和の言葉への返事は無く、代わりに少し遅れて鼾と寝息、それに歯軋りが
 帰ってくる。
 斜め下を見ると、部屋の主、柏木甚助がベッドの上に大の字になって眠って
 いるのが見えた。
 
 美和は苦笑し、甚助の足元にくしゃくしゃになって跳ね除けられている毛布
 に意識を集中する。
 数瞬の後、くしゃくしゃの毛布の塊がふわりと宙に浮き、続いてぴんと綺麗
 に広がり、ぱさりと甚助の上に落ちる。
 このマンションに入ってから覚えた、ポルターガイスト能力の応用である。
 幽霊の住処として知られるサトミマンションで暮らすようになってから1ヶ月
 余りの間に、美和は、幽霊としての自分の力が一人で彷徨っていた頃に比べ
 て段々と強まっているのを感じていた。
 
 そのまま今度は机の上に点いたままになっているランプのスイッチに意識を
 集中し、スイッチをオフにする。
 部屋は真っ暗になったが、視覚を光に頼らない美和には問題は無かった。
 
 そのまま部屋を出ようとしたところで
 「……おーい……」
 「はぃっ?」
 甚助に声を掛けられ、何事かと思って振り向く。
 「う〜ん、谷口、せんぱい……ムニャムニャ」
 大の字で横たわったまま、ろれつの回らない口調で何事か呟く。
 寝言のようだった。
 
 (誰だろう?)
 ふと疑問が脳裏を掠めたが、考えても分からないので、今度こそ美和はドア
 をすり抜けて廊下に出る。
 そのまま足元の床をすり抜けて下の貝に降りると、丁度、最近仲良くなった
 白骨死体の少女、樫屋サトミが部屋から出てくるところだった。
 
 「サトミちゃん、こんばんは」
 「こんばんは、美和さん」
 「やぁこんばんは。いつぞやのレディ。今宵は良い月の晩、人捜しには絶好
 の日和だと思わんかね?」
 
 満面の笑みを浮かべた美和をみとめたサトミは一瞬うつむき、作り物の顔に
 笑顔を作って挨拶を返す。
 ミハイルは自力では喋ることのできないサトミのために、その思念を読み取
 ってサトミ用に誂えた声で挨拶を返した後、服をすり抜けて、サトミの体の
 外に滑るように出て、まるで舞踏会で貴婦人にでも挨拶するような仕草で言
 った。
 そんなミハイルに美和は若干の戸惑いの色を見せる。
 
 「こ、こんばんはミハイルさん。……え、えと、人捜し、ですか?」
 「そう、人捜しさ。大事な人を捜すんだよ。この娘にとってのね」
 (お願い!余計なこと言わないで!)
 
 宿主の意思などお構い無しにぺらぺらと喋りだすミハイルを諌めるために、
 サトミは慌てて心の中で言葉をイメージしてミハイルに送る。
 だが、トーキング・ゴーストの異名を持ち、一度喋り始めたらなかなか止ま
 らないミハイルは、構わず続ける。
 
 「そうさ、とてもとても大事な人物なのだよ。この娘は名前も顔も知らな
 ……いてててててて!!」
 
 突然言葉を切ると、ミハイルは首の辺りを掻き毟るようにして空中を激しく
 のたうち回る。
 美和が見ると、ミハイルの喉元に巻かれた蔦のような何かが首を絞めるよう
 に、キリキリと締まっているのが見えた。

 「あ、あの……」
 
 更に戸惑う美和に、サトミは、何でも無いから気にしないで、とでも言うよ
 うに、手をぱたぱたと振りつつ身振りで返事をする。
 
 「そ、そうですか……」
 
 サトミのジェスチャーは美和に通じたようで、美和は顔を引きつらせ、呆然
 としながらもカクカクと頷く。

 「ぜぇぜぇ……。まったく、乱暴な娘だ。一体誰のお陰で喋れるようになっ
 たと思って……」

 蔦の締め付けから開放されて、ブツブツと文句を言い続けるミハイルに、サ
 トミはじろりと睨み付けるように目を向ける。
 無表情で冷たい、しかし眼力の篭ったガラス球の目に射竦められ、ミハイル
 はそれ以上続けるのは諦めたようで
 
 「……はいはい、マジメに働きますとも」
 するりとサトミの胸郭の中に納まる。
 
 「えーと、ちょっと散歩に行こうかと。月も綺麗ですし」
 「そ、そうですか。月、綺麗ですよね。……赤すぎる気もしますけど」

 サトミ用の声に戻したミハイルの苦しい言い訳に、美和は怪訝な表情をしつ
 つも頷く。
 ふと目を向けた廊下のガラス窓の先には、ねじくれた木々が立ち並ぶ林の真
 上に、大きく月が懸かっているのが見えた。
 少し上が欠けて楕円形になった居待月の月は、何だか血でも浴びたような赤い
 色をしていた。
 呪われた館とも言われるサトミマンションでは、窓から見る景色も外で実際
 に見る景色よりも不吉なものになっているのが常だった。
 
 「ところで、美和さんは何をしに?」
 「あ、えーと、管理人さんからパーティーに呼ばれたんです。下でやってる
 から来ないかって」
 
 サトミマンションの管理人であり、死体を蘇生させることにより作られたグ
 ールである坂本麻依子は、他の死んだ(つまり麻依子と同じように一旦死ん
 でアンデッドとして生き返った)住人達を集め、マンション1Fのロビーや裏
 庭で、空が白々明けるまで夜通し飲んで歌っての大騒ぎを繰り広げている。
 美和もマンション死人組の一員として、死人達の集まりに出てみないかと麻
 依子から誘われたのだった。
 
 「サトミちゃんは真夜中のパーティー、出たことありますか?」
 「ええ、割と良く。けど、今日はちょっと用事があるので」
 「そうですかー」
 
 用事って何だろうと、ふと美和は考えるが、何だか聞いてはいけない気がし
 たので聞くのは止めた。
 けれどもやっぱり気になり、色々と考えを巡らす。
 
 やっぱりその、大事な人繋がりなのかな。
 いつもと違う服なのは、その、大事な人に会うから?
 それより大事な人って誰だろう。家族の誰かかな、それとも友達?
 覚えてないけど、わたしにも大事な人って、いたのかな。
 あれ、わたし、何かとても……とても大変なことを忘れてる、気がする……。
 何だろう、酷く気持ちが悪い。
 懐かしい、けれど同時に気持ちが悪くて怖気が走るような。
 
 だいじな、ひと。
 なつかしい。こわい。おぞましい。
 わたしを、わたしを……
 
 「……美和、さん?」
 「えっ?」
 
 ふと声をかけられてハッとすると、サトミが心配そうに覗き込んでいるのが
 見えた。
 
 「どうしたんですか?急に……」
 「あ、えーと……い、いえ、何でも無いですよっ!」
 
 気付かぬうちに顔が強張っていたらしい。
 美和はムリヤリに笑顔を作って見せる。
 
 「ホラ、大丈夫、大丈夫ですよ」
 「あの、ごめんなさい。私が、変なこと言ったから……」
 「サトミちゃんは何にも言ってないですよー。さ、行きましょ行きましょ」
 
 美和は階段の踊り場の方までサトミを誘導する。
 幽霊であり実体の無い美和は、甚助に取り憑かずに移動するならば、階段を
 使うよりも天井と床をすり抜けた方が早い。
 けれども、サトミと一緒に行きたかったので、久々に階段で下まで行くこと
 にした。
 1階ではもう他の住人達がパーティーを始めているのか、悲鳴と歓声のどちら
 ともつかぬ声と共に、ギターの陽気なメロディと歌声とが流れてくる。
 
 「あ、この声……」
 「ほらほら君達、早く行きたまえよ」
 
 サトミの胸郭からするりと出てきたミハイルに急かされ、美和とサトミは階段
 を下りる。
 階段を降りる途中、美和は今までずっと同じだった筈のサトミの服が、以前と
 違うことの気付く。
 
 「あれ、サトミちゃん、その服……」
 「ええ、この前に甚助さんに買って貰った服、着てみたんです」
 
 白と黒のボーダーのタイトなニットワンピースとレギンス、それにブーツ。
 目覚める前、ちょっと嫌な夢を見たから、気分転換にいつもと違う服を。
 
 「似合ってますよー」
 「ありがとうございます」
 
 気付いて貰えたのが嬉しかったのか、サトミは嬉しそうな仕草を見せる。
 サトミの部屋のある3階から1階まで降りるのに、それほど時間はかからな
 かった。
 既に消灯時間を過ぎて真っ暗になったロビーには、ギターの音色と歌声が響
 き、その中を幾つもの青白い人影が浮かんでいるのが見えた。
 実体のある者もいれば、霊体だけの者もいた。
 天井近くに浮かぶ者もいれば、フロア付近にいる者もいた。
 忙しく飛び回る者がおり、他の死者達と歓談する者もおれば、輪の中に入ら
 ずに少し離れた場所で眺める者もいた。
 その中心、ソファーやローテーブルが設えてある一角で、マンションの管理
 人であり死者の一人、坂本麻依子がオットマンに腰を下ろし、ギターを手に
 歌っているのが見えた。
 
 「麻依子さんだったんですね。さっきの歌」
 「ええ、麻依子さん、昼間は駅前なんかでよく歌ってるって言ってましたよ」
 
 歌詞の内容は英語だったから歌の内容は美和にはよく分からなかったけれど、
 麻依子の甘くハスキーな声とギターが奏でる軽妙なメロディが耳に(耳で聴い
 ている訳では無いけれど)心地良かった。
 
 麻依子の歌が終わると同時に、周囲の死者達が喝采を送る。
 美和とサトミも拍手し、ミハイルはサトミの腹から這い出て指笛を鳴らす。
 麻依子は輪から少し外れた所で立っている美和とサトミ、それからミハイルに
 気付いて手を振る。
 「おーい!美和ちゃんもサトミちゃんもこっちこっち!もう始めてるよー!」
 「ほら、呼ばれてますよ。早く行かなきゃ」
 一瞬の間に顔の表情を笑みに変えたサトミも、ミハイルの声を借りて美和を促
 す。
 「はーい!お待たせしましたー!」
 美和はロビーの麻依子達に向かって手を振り返し、それからサトミ達のいる筈
 の方を向き
 「それじゃ、サトミちゃん達の気をつけて……って、あれ?」
 つい今しがたまでサトミとミハイルがいた筈の場所には、誰もいなかった。
 
 時系列と舞台
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 2008年10月頃、ある晩

 解説
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とりあえず、今回はここまで。
続きはこれからー。 


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