[KATARIBE 31903] [HA06N] 小説『泡白兎・最終章』

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Date: Fri,  7 Nov 2008 00:45:52 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31903] [HA06N] 小説『泡白兎・最終章』
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2008年11月07日:00時45分52秒
Sub:[HA06N]小説『泡白兎・最終章』:
From:いー・あーる


てなわけで、いー・あーるです。
なんとか……なんとかこちらのサイドは終了だぜ!

BGMは、「マカロニ」。

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小説『泡白兎・最終章』
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登場キャラクター 
---------------- 
 小池国生(こいけ・くにお)
  :尚久の親友、正体は血を喰らう白鬼。六華に近しいものを感じている。
 本宮尚久(もとみや・なおひさ)
  :本宮家の大黒柱、妻を亡くしている。小池の大学時代からの親友
 六華(りっか)
  :現世に戻った冬女。本宮尚久宅にて下宿中。


本文
----

 そして、彼女が見つかった、と、2日後に連絡が来た。

           **

 小さな手提げから石をひとつひとつ出しながら、六華は目を細めて海を見や
る。秋の、ひどく高い空の下、海は柔らかく打ち寄せる。
 ひとつ。
 またひとつ。

 彼女がどうして死を選んだのか、六華は知らない。知ることは容易かったけ
れども……何といっても尚久と小池が、彼女の身元も全て調べて連絡をしてい
たのだから……ただ、知ろうとは思わなかった。
 死に至る理由。それは人から見てどれだけ莫迦らしくても、その人にとって
はどうやっても飛び越えられないことだったに違いないから。

(忘れてしまいたかった)
(忘れてしまいたい、と、せめて願いたかった)
(せめてそんな心に……)


 掌の小石を、一度弾ませて海へと放る。
 ぽちゃん、と、本当になんでもない音がした。


 ひまわりの家の兎達は、職員の人々や、丁度訪ねてきていた人達が早急に集
めて一箇所に封じていた、という。
 彼女のポケットから出てきた石は、17個。
 17羽の兎、一羽一羽に石を落とす。と、ふわりと泡が潰れるように、兎達
は消えていった。

 17個の分割した石。
 生きたくなる、と、彼女は知っていたのだ。
 伸ばす手を、自分で叩き折るための17個の石。
 手の中の石はそんなことは全く知らぬげに見えて……六華は何か声をあげて
泣きたいような気持ちになった。

 これは最後の未練。
 彼女からこの世に繋がる未練の数。

 ぽちゃん、と、また一つ、六華は石を海に返す。

「……全く同じ境遇で、あたしはこうやって生きていて」
 ほろり、と零した言葉に、傍らを歩いていた国生がふと顔を上げた。
「生きられる、と……兎はあたしを見て思った」
 海へと入っていった彼女。
 生きられるものなら生きたかったに決まっている彼女。
 その彼女が、唯一残した生への未練。

「多分、それは希望だったでしょうのにね……」 
「……ええ」 

 雪兎を見たことを憶えている。
 生暖かい血の、その金臭い匂いの中から少しだけ視線を持ち上げて。
(生きたかった)
 その未練が雪兎に混じって……そして生まれた自分というあやかし。

「……運以外に、違いはないのに、あちらは消えて、こちらは生き延びている」

 また一つ、手提げから石を出して海へと放る。
 白い兎の残像くらい見えてはくれないものか、と、六華はふと思う。

 背中から剥がれた兎は、月の映った水へと還った、という。
(そこから、月に戻ったんじゃないかね)
 そうであって欲しい、と……切実に、願った。

「でも、彼女は自ら死を選んだ」
 穏やかな声。
 尚久の言葉は、声に反して……厳しい。
「この差は、とても大きいですよ」 
 厳しいけれども本当。本当だけれども……辛い。
「……それでも……」 
 簡単には頷けないまま、視線を落とした六華に、声はいい募る。
「貴方は生きている、それは幸運であることでしょう。だがそれを貴方が後ろ
めたく思うことなどない」 
 ぴしゃん、と言って、尚久は砂の上を、波打ち際から遠ざかってゆく。
 さく、さく、と、足音だけが残る。

 その言葉が誰の為のものか……と、六華とて判らないわけではない。
 自分の生を……肯定してくれる、その為の言葉とは、判っている。

 けれども。

 手の中の、小さな石。
 こんな風に分割してでも居ないと、彼女は不安だったのだ。
 
 簡単にこちらに戻るのではないか、死ねないのではないか、と。

(どうして人間は!)
(どうして!)

 あの兎の叫びの意味が、今こそ判る気がして……
 ……六華は小さく首を振った。

「……たった一つの希望、を」 
「…………はい」 
「目の前で……引き剥がして捨てられたら」 
 
 もし兎が自分に遭わなければ。
 諦めた、とは思わない。けれどもここまで切実に、『生きたい』と思っただ
ろうか。
 もっとゆるやかに、もっと何とか……なったのではないか。
 そんなことは無いかもしれない。どちらにしろ同じ結末なのかもしれない。
 けれども。

「運だけの、違いなのに……って」 
 息を吐いて、手の中の石を、また投げる。
 ぽちゃん、と、はかない音に重なるように、国生が口を開いた。

「……それでも、その違いにあなたが引きずられることはない、と思います」 

 その言葉はありがたい。本当に……ありがたい。
 でも。

「……運がいい、だけなんですよ」 
 手に包んだ石は、秋の透き通るような空からの陽光で、すっかり乾いて温まっ
ている。その石をそっと指先で撫でながら、六華は繰り返した。
「運だけで……あたしはここに居る」 
 滑らかな、石の表面。
「必然でも何でもない」
 
 風は海からの水を含んで、けれどもさらさらと流れてゆく。
 秋の海の、静かな波の音が繰り返し繰り返し、響く。

「それでも」 
 ふ、と途絶えた声。息を一つ吸う、その間の後に。
「いて欲しいと、私は思いますよ」 
「…………っ」 

 小さく息を呑んで、六華は動きを止めた。

 午後の日はあっというまに傾いて、同時に影も長くなる。
 波打ち際をなぞるように影が伸びる。

 ゆっくり、ゆっくりと息を吐く。
 六華は海を見ている。
 
 その唇だけがかすかに動いて、ありがとう、と紡いだ。

 小さな声で、はい、と。
 その言葉が、返った。


 秋の海は繰り返し繰り返し打ち寄せる。
 空の高く澄んだ青を映して、海の色はやはり明るく青い。
 波頭の白く泡立つ、その色。

 
 ぽちゃん、と、六華が、また石を投げた。

時系列 
------ 
 2008年10月付近
解説 
----
 泡白兎、最終章。
***********************************

 てなわけで。

 おわったぞーーっ(欣喜雀躍)
 であであ。
 
 


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