[KATARIBE 31901] [HA21N] 『或る邂逅・3』

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Date: Thu,  6 Nov 2008 01:15:17 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31901] [HA21N] 『或る邂逅・3』
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2008年11月06日:01時15分17秒
Sub:[HA21N] 『或る邂逅・3』:
From:久志


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『或る邂逅・3』
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登場人物
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 ウヤダ
    :腕利きのハンター、元吸血鬼狩り組織に身を置いていた。
 佐上銀二(さがみ・ぎんじ)
    :妖刀を携えた吸血鬼。下賎な氏族の一員。

闖入者
------

 突然現れた男の出現にウヤダは舌打ちした。
 行動の読めなかった四人目の出現、それも『枝』を掃って『巣』を追い詰め
る肝の段階になってというタイミングの悪さに苛立ちを感じた。

 音もなく気配もつかませず、空気さながらにそこに立った男。
 先ほどまで掃ってきた『枝』連中とは質が違う。
 月明かりが差し込むだけの薄暗がりの中、青白い燐光を放つ一振りの刀を手
に軽快な笑みを浮かべ、しかしサングラスの奥からでも隠しきれない眼光と、
全身から湧き立つような殺気が帯電しているかのような空気を漂わせている。

 沈黙を破ったのは、右腕を切断された肉袋の耳障りな咆哮。

 怒りの矛先を白刃の男へと切り替え、肉袋からむき出した牙から濁った唾液
を滴らせながら、跳ねた。
 男は刀の峰を肩に乗せたままの姿勢で微動だにしない。
 侮りと取ったか、諦めと取ったか、あるいは思考する力すらもはや残ってい
ないのか、空中で肉袋が裂け、内側から二重にむき出した牙が襲い掛かる。

 獲った。
 その場で足を止めたままウヤダは感慨もなく確信する。
 無論、獲ったのは――

 閃いたのは二筋、一振りの刀からほぼ同時といっていい速さで繰り出された
剣撃は喰らいつく顎のように上空から迫り来る肉袋を捕らえた。
 肥大した首の付け根を真っ二つに断ち割られ、男の上体がゆっくりと傾ぎ、
音もなくその場に倒れた。悲鳴もなく鮮血を噴出しもせず、あまりにも速すぎ
る剣撃が時間すらも斬り捨てたかのように。
 無造作に振った刀から散った血だけが、確かな証拠を残して。

 残されたのは。
「さて、これで終わりっちゅうわけでもないじゃろ」
「ひっ」
 集まる視線、その先で褪せた金髪の女が足を竦ませる。

 女が先か、男が先か。
 男を殺る間に中核の女を逃がすわけにはいかない。だが、この正体のわから
ない男の居る状況で暢気に巣を探す余裕もない。
 張り詰める空気の中、ウヤダが音もなく袖に仕込んだ二本目のナイフを抜き
放ち、投げる。
「があっ」
 狙いは過たず女の足の甲を貫きそのまま地面に縫い止める。
 猶予は三秒。

 そのまま止まる事無くウヤダの体が跳んだ。
 重く澱んだ夜気の包む中、一歩後ろに踏み込み低く屈めた銀二の頭上を重い
うねりが薙いだ。
「っと」
 即頭部を蹴り抜こうとした足を辛くもかわす。だがその顔は何ともいえない
愉悦と湧き立つような歓喜の表情を浮かべて。
 なおも止まらず、さながら弾丸のように突撃するウヤダ。踏み込んだと同時
に突き出したナイフは狙いを過たず相手の心臓を貫く、はずだった。
 甲高い金属音。
「問答無用かい」
 遅れて茶化すような声が響く。
 阻まれながらも止まることなく、受け止めた白刃にそのままナイフの刃を滑
らせ突っ込んでいく。
 刃と刃の擦れあう耳障りな音と、爆ぜるような火花が舞った。
 一気につめた間合いから、ウヤダの刃が閃く。
「……っ!」
 至近距離から繰り出された、肉を切り裂き、頚骨を絶ち割る一撃。すかさず
身を離したウヤダの脇で鮮血が飛び散った。
 一瞬置いて転がり落ちた首と、ゆっくり膝をついて崩れ落ちる体。

 二秒半。

「さて」
 もがく女に向き直る。
「ぐっ」
「お前が最後だ」
 くるりとナイフを逆手に持ち替える。

「最後ちゃうぞ」

 ウヤダが弾かれるように振り向いた先。
 血塗れのシャツはそのままに、斬りおとされたはずの首筋を撫でて口元を歪
ませて笑う男の姿。
「不死者か」
 舌打ちが混じる。
「生憎、首を落とされたくらいでは死ねんのでなぁ」
 ちらと女を見やってから、再びナイフを構えなおす。
「お前の目的は何だ?」
「目的、か。そうじゃのう……手ごたえのある奴とやりおう事、かのう」
 ゆっくりと切っ先を上げ、左足を前に踏みしめ、軽く腰を落としながら僅か
に剣先を傾ける、八相の構え。
「御主のような、手練とな」


時系列と舞台
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 2008年春頃
解説
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 銀二とウヤダの出会い。
 BGM:『Twist Of Fate』 Destruction / Inventor Of  Evil
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以上



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