[KATARIBE 31884] [HA06N] 小説『泡白兎・11 ver. B』

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Date: Tue,  4 Nov 2008 00:28:15 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31884] [HA06N] 小説『泡白兎・11 ver.  B』
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2008年11月04日:00時28分15秒
Sub:[HA06N]小説『泡白兎・11 ver. B』:
From:久志


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小説『泡白兎・11 ver. B』
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登場キャラクター 
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 小池国生(こいけ・くにお)
  :尚久の親友、正体は血を喰らう白鬼。六華に近しいものを感じている。
 本宮尚久(もとみや・なおひさ)
  :本宮家の大黒柱、妻を亡くしている。小池の大学時代からの親友
 六華(りっか)
  :現世に戻った冬女。本宮尚久宅にて下宿中。

魔王の策
--------

 何が何でもあの兎をどうにかする。

「尚久くん、あの兎をどうにかする……という策、は」
「それを今から考えるんだよ」
「……は、はい」
 彼の言葉なら信じられる、と思ってはいても。肩透かしを食らわせる返答に
一瞬気が抜ける。
 彼は目の前でくすくすと笑いながらおかしげに顔を見てから、ふと真面目な
表情に変わる。
「あの兎をどうにかする、その前に僕なりに感じたあの兎のことについて、だ」
「はい、あれは、人ならぬあやかし」
「そう、正体が何かは僕にもわからないけれど。あの兎は六華さんの本体であ
る雪兎との兎という共通点を持って彼女にとり憑いていると見ている」
「はい」
 そして手を伸ばしてスノウドームに触れる。
「彼女の内を通してこの兎に干渉あるいは同調して、解放させようとしている。
だがそれでは奴の思いのままだ、このまま六華さんの心を完全に奪って更なる
手の負えないあやかしとなるだろう」
「……ええ、それは絶対に止めなければなりません」
「だから、この雪兎がこちらの手にあるうちは、僕らに勝機はある」
「あれは必ずこの雪兎を奪いに来る」
「そう、その時が僕らの最後のチャンスだ」
 スノウドームを手ににやりと笑う顔は、紅雀院大学で『魔王ここにあり』と
呼ばれた頃とまるで変わらず、恐ろしく何より安心させる力強さがあった。
「その為にはね、小池くん」
 じっと見つめる黒い瞳。
「はい」
「君の力が必要なんだ、彼女を呼び覚ますために」


待ち伏せる鬼
------------

 あの兎が来る。
 彼女の本体である、雪兎を奪いに。


 息を吐いて、ゆっくりと吸う。
 意識が透き通っていくのを感じる。
 全身から流れ落ちていくように、メッキを剥がすように、人としての外面が
さらさらと崩れ落ちて。

 己は人ならぬ者。その事実を染み込むように頭からつま先まで満たしていく。
 白鬼へと。

 人は『己が人である』という自意識を芽生えて始めて人となる。
 獣に育てられた子は、たとえその身が人であっても己が人という意識がない。
だからどんなに人としての己を自覚しなければ人ではないのだ。

 人たらんとするその意識が、己が鬼であるかを認めきれず『血を摂取する』
という欲求を押さえつけていたとすれば。
 鬼であるという意識が自らを更に研ぎ澄ませる。
 生血を喰らって生きる、白鬼へと。


 そして、予想道理に。
 『それ』は現れた


「雪兎をよこせ」
 開口一番、彼女の姿をした兎が要求したもの。
「断る」
 驚くほどに、自らの言葉に含まれた鋭い刃。
「断る?何の権限で」 
「権限などありませんね、私にも貴方にも」 
 彼女を引き止める権利など無い。ただ、己の理由で。己の望みで彼女を引き
止めたいと願った。
「権限は、私にはある」
 それは何故か。
「……ですが、私は拒否します」 
「何故?」 
「私の理由です」
 それは。
「あやかしは、人間に近付くと曲がる」 
「ひとはそもそも、曲がったもの」 

 そう、人は曲がったもの、なぜなら。

「……渡してもらおう。その兎を」 


懇願
----

 お願いです、どうか。
 お願いです、どうか。

 懇願する声がか細く、涙を含んでいた。


 どれほどの昔だろうか。
 ひと所に留まるはるか昔、流れ流れて住処を転々としていた日のことを。
 人の世で、人の血を啜らねば生きていけぬ者にとっては、それは生き辛いも
のだった。
 何よりもその白鬼の姿は良くも悪くも人目を惹いた。
 透けるような白い肌に何にも染まらぬ白い髪、たおやかという形容がこの上
なく似あう姿。
 しかし、目を惹くということは必ずしも白鬼にとって良いものではなく。

 お願いです、お願いです、どうか。

 その震える小さな手に握られていた、短刀。
 まだ幼い――十になったばかりの小さな娘、商家の使用人としてたどたどし
く店を手伝う姿は愛らしく、かつて失った妹を思わせた。
 同じく雇われ者の身だった白鬼にとって、短い時間ながらも共有し助け合え
る数少ない相手だった。

 国さん、洗物あったらいってくださいね。
 幼い身ながら病に苦しむ母の為に、小さな手にあかぎれを作って洗物に掃除
にとくるくると必死に働いていた姿。
 時に、僅かな給金から飴を買ってその手に渡したことも会った。
 冬の寒さに頬を赤く染め、あかぎれだらけの手で飴を包んで何度も頭を下げ
ていた、か弱く、愛らしい子。

 いつ、どこで、彼女がその話を耳にしたのかは知らない。
 ただ、事実は。

 お願いです、お願いです、どうか。
 その肉を、下さい――

 雪の降りしきる中、震える手で握っていた短刀。
 白い、どこまでも白い雪の上に広がった、赤い血の海。その小さな呼気が途
切れる間際、呟いた言葉。

 ごめんなさい――国さん

 ――――――お母さん

 白鬼、それは。
 人を鬼に変える鬼――


時系列 
------ 
 2008年10月付近
解説 
----
 作戦会議の後に、兎と対峙。そして兎が見せる過去。
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以上。



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