[KATARIBE 31883] [OM04N] 小説『気づかぬ男』

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Date: Mon, 3 Nov 2008 01:02:14 +0900
From: Subject: [KATARIBE 31883] [OM04N] 小説『気づかぬ男』
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小説『気づかぬ男』
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本編
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 時貞は筆を置いて溜息を一つついた。肩を回して、部屋の中を見やる。途中
で同じ部屋にいた同僚と目があったが、その男は慌てて視線を外した。
 ここ最近、自分の周りの空気が変わっていることに時貞は少なからず気付い
ていた。
 周囲の人々が自分のことを見ていることが多くなっているのである。無論、
彼自身が陰陽寮でも変わっている者であるということは自覚しているが、だか
らとしてもそれは昨日今日の話ではない。陰陽寮で仕事をするようになってか
ら何年も経ち、変わっているということが当たり前になっているはずである。
「時貞よ、仕事手伝ってやろうか?」
 別の同僚の陰陽師の一人が彼に声をかけてきた。その男の顔を見て彼は怪訝
そうな表情を浮かべる。
「どうした?」
 それに気づいた男が尋ねた。
「いや、そんなことを言うのは初めてではなかったかなと思って」
「そうか?」
 男は首をかしげる。とぼけているようであった。
「それに」と時貞は続けた。
「そのようなことを言ってきたのはお前で三人目だ」
 時貞のその言葉に男はぐっ、と喉の奥を鳴らした。
「そうか。それは奇遇だな」
 ハハハとどことなく乾いた声で男は笑う。
「気を使ってくれるのはありがたいのだが……」
 そう言いながら、時貞は文机に置いてある紙を一枚手にした。先ほどまで書
いていた物である。それを男に見せる。
「代わって書いてくれるか?」
 彼が見せたものに男は「それは無理だ」と苦笑いを浮かべた。
 それは符であった。漢字でも仮名でもない文字がそれに書かれてある。
「邪魔して悪かったな」
 そう言うと男は出ようとした立ち上がり、一歩踏み出したところで再び時貞
の方を向いた。
「何かあったらいつでも言ってくれよ」
 その言葉に呆気にとられた時貞を残して、男は姿を消した。
 いつの間にか先ほどまでいた者の姿は消え、部屋には彼一人になっていた。
 眉をひそめて、腕を組む。
「どういうことだ……」
 やけに周囲の連中が親切になっているような気がする。いつもは無視されて
いるというわけではないが、特に用もないのに話しかけてくるということはな
かった。
 一人だったら気変りでも起こしたかと思うだけですむが、三人となれば皆が
皆そうとは考えにくい。
 時貞はここ数日の自分の行動を思い出してみた。しかし、周りに心配させる
ようなことをした覚えはない。特に忙しかったというわけでもなく、ほとんど
変わりのない日々であった。
「どうした、難しい顔をして」
 声がして顔を上げると、保重が立っていた。
「いえ、別に……」
「何か悩みでもあるなら聞いてやるぞ」
 御頭もか、と時貞は思った。
「御頭こそ何かあったのですか?」
「どういうことだ?」
 保重は首を捻った。
「そんなこと今まで一度も言ったことがなかったではないですか」
「……そ、そんなことはないぞ」
 保重は微妙にうろたえた。そのうろたえぶりに時貞は更に疑念を持った。と
は言え、この男のことだから単なる気紛れということもあり得る。
「まあ、何かあれば」
 とりあえず時貞はそう応えた。
「ということは、今は何もないのか?」
 保重が尋ねる。
「何かあってほしかったのですか?」
「いや、そういうわけではないが」
 ともかくいつでも話は聞くぞ、とだけ言い残して保重はそそくさと部屋を後
にした。
 再び部屋は時貞一人になった。
「気にかけてもらうのはありがたいのだが…… どうも気味が悪いな」
 そう言って寒くもないのに彼は腕をさすった。

時系列と舞台
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[KATARIBE 31196] [OM04N] 小説『話し合う二人』の続き。

解説
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当人が気づかないというのはよくある話。

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