[KATARIBE 31881] [HA21N] 『或る邂逅・2』

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Date: Sun,  2 Nov 2008 23:23:44 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31881] [HA21N] 『或る邂逅・2』
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2008年11月02日:23時23分43秒
Sub:[HA21N] 『或る邂逅・2』:
From:久志


続く。

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『或る邂逅・2』
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登場人物
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 ウヤダ
    :腕利きのハンター、元吸血鬼狩り組織に身を置いていた。
 佐上銀二(さがみ・ぎんじ)
    :妖刀を携えた吸血鬼。下賎な氏族の一員。

変貌
----

 キナ臭い空気になってきた。

 無人の廃ビルを見上げながら。不穏な静けさの満ちた状況に、銀二は心なし
か心を躍らせていた。
「血が騒ぐ、のぅ」
 布袋に入った白鞘の刀を握る手に力を込める。
 目を細めて笑う銀二の表情は少年ぽさの抜けない顔立ちに似つかわしくない
老練とした雰囲気をかもし出している。見た目こそ若いが死なぬ老いぬ吸血鬼
として見た目以上の年輪を重ねた重みだった。
「さて、あやつどう出るか」

 取り囲んだ三人の男、いずれも武器を手に凄みを利かせている。
「な、なんだ、この」
 怯えたようにうろたえる男の様子に気をよくしたのか、一人が大振りのナイ
フの平で男の頬を撫でるように叩いた。
「大人しく従ったほうが身の為だぜ?」
 そのまま刃を立て、男の頬へとめり込ませるように力を込めた。

 次の瞬間、男が豹変した。
 金属の弾かれる澄んだ音が広い空間に響き渡り、同時に腹の底から抉り出す
ような悲鳴が重なった。
 弧を描いてナイフが飛んで、銀二が密かに身を潜めたすぐ脇の壁に当たり跳
ね返って地面に転がった。
「う、ぐぁ……」
 右手を押さえてその場に膝をつき、目を見開いて男を見上げる。残る二人と
女も何が起こったのか理解できないといった面持ちで目の前に立つ男を見る。

 廃ビルの半分剥けた鉄骨の隙間から照らす月明かり。
 酷薄な笑みを浮かべて佇む男、手にしたナイフの切っ先が光を反射し、まる
でそこだけ時間が止まったような静寂に包まれている。つい先ほどうろたえて
いた雰囲気は跡形も無く消え、底冷えするような威圧感と肌を刺すような鋭い
殺気を放っている。振りぬいたナイフの一撃で、男は一滴の血も流すことなく
その場の空気を制していた。
「なん、だ……こいつ」
「くそっ」
「ちょっと、どうしたのよアンタ達」
 男の変貌に驚きの声を上げる姿を無感情に見つめながら。
「芝居はもういいだろう――人間ぶらなくていい」
 立場は完全に逆転していた。


 事の一部始終を眺めながら。
「ほう」
 銀二は物陰で正直な賞賛の声を上げた。
「やりおるわ」
 半ば予測していたことだったが、男の予想以上の動きに感心と同時に沸々と
血が騒いでくるのを感じた。
「だが、まだお遊びじゃな」
 暢気に呟く、が。その目は刃のように冷たく、これから起こるであろう何か
に血を湧かせていた。

「早う本性見せんかい」
 その言葉はどちらに向けて発せられた言葉か。


異形
----

 『巣』の本体はどこにある。

 三人の男、こいつらは枝。本体に芽を植えつけられて操られている、上っ面
の意識はあるが捨て駒だ。女のほう、これは中核。獲物をたらしこみ巣へと誘
い込む為の餌。
 冷然と目の前の怯える男達と震える女を見下ろして、ウヤダは淡々と状況を
把握していた。
「この……野郎っ」
 沈黙を破ったのは先ほど地面に這いつくばった男。
 武器の無い右手を振り上げ、だが、その次の瞬間男の右手が変じた。手の指
が異様に伸び、先端は尖った刃のように鋭く細り、人の形から外れた伸びた歪
な鉤爪となってウヤダの即頭部へと叩きつけられる、はずだった。
 耳障りな金属音。
「ぐぅっ」
 無造作な動きで一歩前へ踏み出し、振りぬいた腕をナイフで受け止める。
「まずは枝払いさせてもらおうか」
 背筋の凍りつくような底冷えする声と共にウヤダが動いた。
 鉤爪の男が反応する余裕を一切与えず。地面を蹴り飛び上がった姿勢から体
を捻って、渾身の力を込めて回し蹴りを顎に叩き込む。
「あぐっ」
 足に感じる、腐った肉を殴りつけたような鈍い感覚。蹴り飛ばした『これ』
はもはや人ではなく――水に汚染された『もの』
「お、おごぉ」
 砕けた顎から、濁った泥のような血とも違う体液が噴出すのを身をひねって
かわし、そのまま後方に飛び退りつつ男の腹を蹴り飛ばした。水袋を叩くよう
な鈍い手ごたえと共に男の体が吹き飛んだ。
 一人目の鉤爪の体が地面に叩きつけられた時。
 既に残りの二人の男も異形へと変じていた。手足をありえない方向にねじれ
させ、見開いた目は瞳孔の開ききった命の息吹の欠片も感じない。
 二人目、首の付け根を異様に膨らませ、小刻みに動きながら何かを咀嚼する
ような音を立てながらこちらを睨みつける肉袋。
 三人目、虚ろな目で痙攣する男の腹を突き破って突き破って蠢く四本の触手。
 足元で砕けた顎を押さえてのたうつ鉤爪に目もくれず、もはや人のものとも
思えない奇声をあげてウヤダの喉笛を噛み千切らんと突進してきた。

 粘液に包まれのたうつ四本の触手が変幻自在にうねりながら、ウヤダの頭、
脇腹、足、胸へと伸びる。
 迫りくる触手に微動だにせず、手にしたナイフをくるりと回して握りなおす。
 さながらそれは機械人形のように。
 振りぬいたナイフの軌跡、僅かに光を反射し弧を描いた筋が四つ。一ミリの
無駄も無い動きが襲いくる触手の全てを切断し、そのまま止まることなく男の
喉元に突き込むようにナイフを叩きつける。
 声にならない悲鳴を上げながら触手を失った男はその場によろめく、そのま
ま身をかがめて更に脇腹を深々と抉る。
 首と脇腹から噴出す体液をかわし、飛び退る。
 その場にくず折れた男の体は流れ出す体液と共に溶解していく。

 ナイフを軽く振る。
 対水用に特別にあつらえた刃は度重なる残撃に曇ることなく全ての澱んだ水
を弾いて鈍く光っている。
 既に二つの死体が転がり、もはやいずれも人の原型も留めぬままぐずぐずと
溶けて土気色をした塊へと化している。
 軽く息を吐き、止める。
 次の攻撃に備え、軽く膝の力を抜いた姿勢をとりながら、ウヤダは注意深く
ナイフを構えた。その足元には潰れた男の頭の残骸が転がっている。

 沈黙が破られるのは一瞬。
「しゃっ」
 歪に首の付け根の肥大した三人目が跳ねた。
 脈打つ肉袋が横に裂け、中から鋭い牙が覗く。同時に変形した右手が刃と変
じてウヤダの体を貫こう動いた、その時。

 白刃が閃いた。

「楽しそうじゃのう、御主」
 肉袋の絶叫に重なる、どこか楽しげな声。
 切断され弱々しく床を這う右手を踏み抜いて、笑う姿。

「ワシもまぜてくれい」


時系列と舞台
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 2008年春頃
解説
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 銀二とウヤダの出会い。まだつづくよ!
 BGM:『Killing Machine』    Destruction / Inventor Of  Evil
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以上



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