[KATARIBE 31880] [HA06N] 小説『泡白兎・11 ver. A』

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Date: Sat,  1 Nov 2008 01:53:18 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31880] [HA06N] 小説『泡白兎・11 ver.  A』
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2008年11月01日:01時53分17秒
Sub:[HA06N]小説『泡白兎・11 ver. A』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーる@むっちゃねむー です。
少しずつ、少しずつ流します。

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小説『泡白兎・11 ver. A』
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登場人物
-------- 
 小池国生(こいけ・くにお)
  :尚久の親友、正体は血を喰らう白鬼。六華に近しいものを感じている。
 六華(りっか)
  :現世に戻った冬女。本宮尚久宅にて下宿中。

本文
----

 ある意味では、彼らは……理想のようなものだったと思う。
 人と鬼。男と女。どれも3つでは本来成り立たない形態が、しかし見事なバ
ランスと互いの慈しみによって成り立っている姿。

 羨ましいと思った。
 あんな風になれたらいい、と思ったのは確か。でも。
 自分が近付いて崩れるくらいなら、遠くから見ていたい、と。

 息を吹きかけることすら惜しむような。
 それくらい……綺麗な三角形。

 
           **

「……この身体を維持するには、まだ足りないのか」 
 ゆらり、とベッドから立ち上がりながら、六華の形を持つ何かは、そうぶつ
ぶつと愚痴った。
 沈黙し、己の思いをただ抱えている少女。既に恐るるに足りぬ存在ではあっ
たが、しかし。
(この身体が本体かと思えば……他に本体があるとは)
 しかしまあ、考えてみれば、と兎は思い直す。
 人間形の身体を持ち、人間に近い意識を持つ彼女が、それでもはっきりと兎
の気配を漂わせていた……のだ。
(そりゃあ……本体くらいは兎だろう)
 
 雪兎に乗り移った人間の魂魄は、その雪兎を核として、人間の姿を紡いだ。
 従って……この人間の身体は、それだけでは成り立たない。ある術によって
永遠に溶けることなく保たれた雪兎。それが無ければこの身体の、不老不死な
ど絵に描いた餅でしかない。

「そうか、あの雪兎が必要なのか」 
 黒い髪、白い肌。
 その中に、柘榴の色の目だけがひどく目立つ。兎の色に目を染めながら、六
華の姿を持つモノは、するり、と、ベッドから降りた。
「……では、取りに行こうか」 


 ぱたり、ぱたり、と、足を鳴らす音が響く。
(ああめんどくさい)
 あやかしを見つけた。
 それも自分にとてもとても似たあやかしだった。
 悲しんでいた。だから悲しくないようにと、そのかなしみを喰らおうと思っ
た。
 それでもかなしみを背負おうとするあやかしを、だから心を除いて乗り移り、
己のものとした。

 そうすれば、彼女も幸福になる。
 そうすれば、自分も生きることが出来る。

 人の呪縛より解き放たれれば、彼女もきっとわかるだろう。自分の選んだ道
がどれほど愚かしく、また同時にどれほど不幸なものであるか。

 人であることが、どれほどに愚かしく……不幸なことであるのか。


「……しかし愚かしいこと。何故あの兎をひとなどに渡すのか」 
 身体を共有している限り、彼女の記憶もまた共有することが出来る。雪兎を
預けた相手を記憶より思い出して、兎はぶつぶつと呟いた。
 ぱたり、ぱたり、と、兎は進む。
 部屋を出、廊下を進み。
「どこにある」
 ゆっくりと進んで、六華の記憶の中の、『見慣れた』扉を開く。
 きしむ音もそのまま、開いた扉の奥には。

 白い、鬼が立っていた。

             **

 その人はとても綺麗で。
 ぼんやりと光を放つような白い髪も、その髪に包まれた顔立ちも。
 でもそれ以上に……その心が。

 とてもとても、綺麗で。

 人間界にあらざるような三角形。それが成り立つ理由をもし求めるなら、こ
のひとの心にあるのだろうか、と、考えたことがある。
 無論それだけではない、と、残った三角形のうちの二辺ともがいいそうな気
はしたけれど。

 綺麗なものを綺麗なままに保ちたい。
 降ったばかりの白い雪を、そのまま残しておきたい。

 最初は……ほんとうに、そういう心、だったのに。
 それだけは絶対に……紛いがない、のに。

         **

 すう、と、兎は手を伸ばした。
「雪兎をよこせ」 
 白い髪に黒い服。ぞっとするほどに美麗な鬼は、しかし穏やかな顔立ちに似
合わぬ鋭い目で兎を見返した。
「断る」
 断じる口調に、兎は首を傾げた。柘榴の色の目が、ひどく人間からかけ離れ
た彩を示す。
「断る?何の権限で」 
「権限などありませんね、私にも貴方にも」 

 おかしいな、と、兎は内心首をひねる。
 この身体の中の記憶にある白い鬼。その鬼の表情と、今の彼のそれとは大き
く異なっている。
 不思議だ、と思いつつも、兎はぽん、と胸を叩いた。
「権限は、私にはある」
 小さく丸まった、その者の姿が同時に浮かぶ。
 愚かしくはあるが……ある意味では兎に都合の良い姿。
「あのものは、私の中にある」 
 疑いもなく、悪意もなく、ただ淡々と語る言葉を、しかし白い鬼はやはり厳
しい表情でせき止めた。
「……ですが、私は拒否します」 
「何故?」 
「私の理由です」 
 紫の目が静かに兎を見つめている。
 その穏やかさが、兎にはまやかしのように思えた。
 
「あやかしは、人間に近付くと曲がる」 
 すう、と兎は手を振り上げた。 
「ひとはそもそも、曲がったもの」 
 生きて、幸せであろうとするのは、人だろうがあやかしだろうが違いは無い。
だのに人は、幸せには絶対なれない道に迷い込もうとする。
 だから。兎は人の中で、こんなに泣き悲しむほど曲がってしまった。

 ……だから兎はあやかしに帰るべきで。
 …………だから。

「……渡してもらおう。その兎を」 

 ざん、と振り下ろしたその指で、兎は彼の過去を抉り出した。


時系列 
------ 
 2008年10月付近
解説 
----
 兎vs白鬼。第一ラウンド(違)
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 ってわけです。
 あのログ、一挙に話にでけたらいんだけど
それにはちょーーーっと長すぎなので。

 であであ。 
 



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