[KATARIBE 31867] [OM04N] 小説『鬼の泣き声』

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Date: Mon, 27 Oct 2008 00:02:45 +0900
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小説『鬼の泣き声』
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本編
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 夜な夜な鬼の泣く声がする、という相談が陰陽寮の頭である賀茂保重のもと
に持ちかけられたのは風が木犀の香りを運んでくる秋の日のことであった。
「泣き声、ですか」
 保重はそう言って顎に手を当てた。彼の前にはその相談の主である貴族が
座っている。その声のせいで眠れてないのか目の下にはうっすらと隈ができて
いた。
「それは毎日のことですか?」
 保重の問いに貴族は一度頷きかけて、いや、と途中で止めた。そして腕組み
をして首を捻った。
「昨夜は聞こえたが、その前は聞こえなかったような気がする。その前は……
はっきりとは覚えていないが恐らく聞こえなかったはずだ」
 なるほど、と保重は頷いた。
「泣き声が聞こえる日に何か変わったことはありませんでしたか?」
「変わったこと?」
 再び考え込もうとする貴族に保重は手を横に振った。
「ああ、変わったことと言ってもそんなに特別なことでなくても構いません。
例えば、雨の降った日に…… そういえば昨夜は風が強かったですね?」
「そう……だったか?」
 訝しげな表情で貴族は首を捻る。
「ええ、確か夜更けに」
 保重は頷いた。
「ま、まあ、何にせよ。困っておるのだ」
 貴族はふわぁと大きなあくびをした。
「……よろしく頼む」
「はい」
 保重は眠たげに目を擦る貴族に頭を下げた。


「と、いうわけだ」
「鬼の、ですか」
 陰陽師の秦時貞はそう言って眉をひそめた。その姿を見て保重は少し笑う。
 ここは時貞の屋敷。保重が訪れたときにはまだ辺りは明るかったが、少し
経った今では既に真っ暗になってしまっている。向かい合って座っている二人
の間には燭台があり火がともされていた。
「何か?」
 暗いながらもその表情に気づいた時貞が保重に尋ねる。
「いや、俺もその男から聞いたとき、似たような返しをしたのでな」
「そうですか」
「ただ、俺は『泣き声』に引っかかったが、お前はやはり『鬼の』に引っか
かったな」
 時貞は見透かされたような気がして、ぐ、と小さく唸った。それを見て保重
はハハ、と笑った。それから顔を横に向けて庭の方を見た。月が出ているのか
幽かに明るい。草花が伸びたい放題になっている庭であった。
 保重は再び顔を時貞の方に戻した。
「だが、俺もそれが気にならないわけはない」
 笑みを引っ込めて保重は腕を組む。
「その貴族の屋敷の裏には林があるのでしょう?」
「ああ。だから木の洞だと思うだろ?」
「……違うのですか?」
「その男が屋敷の者に探させたらしいが、それらしいものは見あたらなかった
そうだ」
 ほう、と時貞は少し声を上げて、身を前に乗り出した。
「もっとも単に見つけられなかっただけかもしれんがな。如何せん、あの林は
広い」
「確かに」
 それに、と保重は続ける。
「もう一つ奇妙なことがある」
「何です?」
「その男の屋敷がどこにあるかは分かるな?」
 時貞はしばらく考え、やがて「はい」と頷いた。
「その周りにも同じような身分の方が住んでいる」
「……その人からは訴えがない、と?」
 保重は大きく頷いた。
「なるほど。ですが、単に気づいていないだけということは?」
「あり得るかもしれん」
 時貞は乗り出していた身を引いて、顎に手を当てた。保重も黙って腕組みを
している。
 カサカサと草の葉が擦れる音がして、少し後に二人の元に風が舞い込んでき
た。ひんやりとしたその風が燭台の火を揺らす。
 二人の影が大きく揺れた。
「というわけで、だ」
 保重が口を開く。
「悪いが少し調べてくれんか」
 時貞は頷いた。
「では、邪魔したな」
 そう言って立ち上がった保重に、そういえば、と時貞は声をかけた。
「なんだ?」
「気になることが、一つ」
「『鬼の』、か」
「……御頭も気になってましたか」
 保重は頷いた。
「単なる木の洞が鳴る音であれば、それで片づけるだろうし、鳴き声にしても
獣か何かと思うだろう」
「だが『鬼の』と言っているからには」
「心当たりがあるのだろうな」
 保重はククク、と小さく笑った。
「……企んでますね」
 さあな、と答えて保重は庭に降りた。
「とにかくよろしく頼む」
 時貞にそう言うと、彼は跳ねるような足取りで数歩前に進む。
 そして、そのまま闇に溶けるように姿を消した。


解説
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続きはネタが思いつけば。

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