[KATARIBE 31866] [HA06N] 小説『泡白兎・9』

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Date: Sun, 26 Oct 2008 19:21:18 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31866] [HA06N] 小説『泡白兎・9』
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2008年10月26日:19時21分17秒
Sub:[HA06N]小説『泡白兎・9』:
From:久志


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小説『泡白兎・9』
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登場キャラクター 
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 小池国生(こいけ・くにお)
  :正体は血を喰らう白鬼。六華に近しいものを感じている。
 六華(りっか)
  :現世に戻った冬女。本宮尚久宅にて下宿中。

白い花
------

 白い花が、風に揺れる。
 冬の終わりと共に山の一面を埋め尽くすほどに咲き誇る、一輪一輪は小さく
とも、慎ましくも愛らしい。
 もう見かけることも無い、記憶の中にしか咲かない花。

 この花のように、慎ましく愛らしい子が居た。
 両手に摘んだ花を手に届けてくれた子が居た。

『あにさま』

 艶やかに流れるような白い髪、見つめる紫の目。幼い面差しはかつてここで
はない所に居るはずの母親の面影を残した。

『あにさまのお好きな花よ』

 小さな手に握られたのは、白い花のささやかな花束。

『ありがとう、白麗』

 かつて共にあった、誰よりも幸せで居てほしかった。
 そして、護れなかった――妹。


 白鬼。
 その髪は白く、瞳は深い紫。生ける者の生血を啜る鬼。
 その血喰らわば如何なる深手の傷をも塞ぎ。
 その肉喰らわば如何なる死病も癒すという。

 人はか弱く、無力だった。
 僅かな傷であろうと悪化すれば簡単に命を落とし、ひとたび流行り病にかか
ろうものならなす術もなくばたばたと倒れていく。
 か弱い人の目に、白鬼がどのように映っていたか。
 神秘のようなその血肉の力にどれほどの価値を見出していたのか。

 今も昔も、大した変わりはないようにも思えた。


 何故、あの人間を信じてしまったのか。
 何故、あの鬼を裏切ってしまったのか。

 混じる記憶。


膝枕
----

 居てもいい。
 それだけの一言が彼女にとってどれだけの重みがある言葉だったのだろう?

 ソファに腰掛けたまま首を傾げて悩む姿。
 への字に曲げた口にきゅっと眉根を寄せて、こちらをちらと見上げている。
「六華さん?」
「……いえ、あの」
 問いかけると、おもむろに背筋をぴしりと伸ばしてもごもごと呟くように
遠慮がちに口を開いた。
「この前、膝枕して貰った時に……」
「ああ」
 以前、彼女がここへ訪れた時。隣に座った六華がことんと膝に頭をのせて、
そのまま膝を貸してそっと寝かせていたこと。
 微かに寝息を立てて丸まるように眠る姿は幼い子のようで。

「……兄さんのような……家族みたいな、気がして」
 一瞬、心の内を見透かされたような気がして小さく息を飲んだ。
 この手で育てて、護って、そして……殺めてしまった、たった一人の。

「妹が、いました」

 たった一人の肉親。
 異界よりの流刑の地で、只一人自分を支えてくれた同胞。
「歳の離れた幼い妹で、二人きりで……幸せで、居て欲しかった」

『生き延びておくれ、私の為に』
 何を失っても、お前が居れば生きていける。
 本当に、只それだけを願っていた。

 何一つ約束を果たせないまま、全ては踏み躙られ。

「…………居て、欲しかった……?」 
 遠慮がちに問う声に、答えを返さず。ただ曖昧に笑って目を伏せた。

 人喰い鬼。
 武器を手に罵る言葉、追い詰める者達の憎しみ、そして振り下ろされた刃。
 手にした肉を貪り、血を啜っていたのは、鬼か、人か。

 ふと、腕を引かれて。
「はい?」 
「座る、そこ」 
「は、はい」
 有無を言わさず、と言った風に。隣に座らせると頭を膝へ倒されて。
 見上げた先、長い黒髪がさらりと落ちかかって。
「……六華さん……?」 
「……あたしには、兄と……弟妹がいました」 
 ひどく昔のことを遠くから眺めるような顔で。
「兄は総領だから、お前は金になるからって……だから売られました」
「……はい」 
 雪野太夫、彼女がかつて人で会った時の。
「兄は、ちっとも優しくなかった。あたしや……弟にも、小さな妹にもすぐ拳
を振るった」
 額に張り付いた白い髪をそっと冷たい手が払いのける。
「父も同じ。母は……弟妹と自分を守るのに必死で、あたしまで手が廻らな
かった」 
 淡々と、語る言葉。だが余計にそんな風でなければ語れない深い重みが彼女
の内にあって。
「……こんなにしてて、殴られないのって…………」
 言葉はそこで途切れて。
 だが、何となくそこに続く言葉が理解できて。

 細い指が膝の上の髪を撫でて、無言で見下ろしている。
 長い年月を超えてなお、言葉にし切れない深い想いに縛られたままの彼女の
姿が、痛々しかった。
 彼女になんと言葉をかけるべきなのか。

「…………貴方にとって、ここが良い場であるなら」 
 全てを理解することは出来ないのかもしれない、けど。
「……いつまでも留まってください」 
 せめて。

 頬に、雫が落ちた。

「六華さん……?」
 額に触れた指先が震えている。

 微笑みながら、彼女は泣いていた。


時系列 
------ 
 2008年10月付近
解説 
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 小池、失った妹を思いつつ。六華との会話を反芻。
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以上。



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