[KATARIBE 31864] [HA06N] 小説『泡白兎・8 . 5』

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage


Index: [Article Count Order] [Thread]

Date: Sun, 26 Oct 2008 00:41:50 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31864] [HA06N] 小説『泡白兎・8 . 5』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <20081025154150.6E80549DB02@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 31864

Web:	http://kataribe.com/HA/06/N/
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/31800/31864.html

2008年10月26日:00時41分50秒
Sub:[HA06N]小説『泡白兎・8.5』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
六華側、兎の風景です。
ほんのちみっとですが流します。

*******************
小説『泡白兎・8.5』
========================
登場人物
--------
 泡白兎(あわしろうさぎ)
  :兎の姿の妖怪。


本文
----

 だしてだして。
 だしてだして。


 多分、その風景は、かなり異常なものだったのだろうと思う。
 倒れたスノウドーム。その中でゆらゆらと液体が動いている。動かしている
のは中に入った小さな兎、それが、何度も何度も、硝子の壁面を叩いている。

 何度も、何度も。

             **

 部屋に置いてあった小さな鏡に、顔を映す。
(綺麗)
 意識の一部、どこか遠くで、そんな言葉が浮かんではじける。
(これくらい綺麗だったら、あたしは)
 その言葉もまた、兎は浮かぶがままに無視する。


 哀れである、と、兎は思う。
 兎は単純だ。嬉しければ嬉しい、悲しければ悲しい。
 だから、さみしさ、かなしさは食べる。喰らって消す。
(何と哀れなことか)
 それを、人と混ざったがゆえに、こうやってあやかしとなっても、この兎は
ひとのようにさみしさをかかえる。
 かなしさを、かかえる。

(心が変わればいいと言うの)
 それは、やはり以前自分であったモノが、床を叩きながら泣いた言葉。
(時間があれば変わると言うの。心が変われば楽になる、と)
 だけど、だけど、と、絨毯に爪をかけながら。
(心が変わることさえ……あたしは望めない!)

 哀れだ、と、過去の記憶に向かって兎は呟く。
 何ということだ、と、首を振る。

 この身体の持つ記憶を掘り出した時、それは既にいつもは忘れているような
ものであったのにも関わらず……この身体は泣き出した。
(なんということだ)
 どうして心を変えないのだ。
 どうして、心を変えることを厭うのだ。

 どうして兎のように、なれないのだ。
(だから)
(だから、彼女もまた)


 鏡の中の瞳は、柘榴の色の赤に染まっている。
 部屋の隅に、三味線が置いてあるのを、その瞳が捉えた。

 捉えた、だけだった。


「うさぎは、つれてゆく」
 細い指が、ほろり、とほどけて鏡を落とす。
 かたん、と、薄いカードのような鏡が、音をたてて落下する。
「うさぎはうさぎで、あるべきなのだから」

 この身体の主は、忘れたほうがよいと判り切っているこころを抱えて、意識
の淵に沈んでいる。
(変わったほうがいいのに)
(捨てたほうがいいのに)
(判っているのに)

「ねむらせて、あげよう」
 赤い目の兎は、すう、と、目をあげる。

「そして生きよう……永遠に」


時系列
------
 2008年10月付近

解説
----
 泡白兎、覚醒。
******************************* 

 てなわけで。
 
 であであ。
 


 ---------------------------------------------------------------------
http://kataribe.com/ 語り部総本部(メインサイト)
http://kataribe.com/ML/ メーリングリストの案内
http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/ 自動過去ログ
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/31800/31864.html

    

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage