[KATARIBE 31862] [HA06N]小説『左肩の少女・第一話 -発端-』 第四稿

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Date: Sat, 25 Oct 2008 08:05:04 +0900
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 蘇芳です。
 第一話の改行が不適切で、まだ読みにくい気がしたのでもっかい流します。
 こ、これで最後よー。……多分(ぇ
 
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 小説『左肩の少女・第一話 -発端-』
 (『あなたならどうする:街角で幽霊に出くわす』より)
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登場人物
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 柏木甚助(かしわぎ・じんすけ):人間のフリをする化け狸。お節介焼き。
 大崎美和(おおさき・みわ):幽霊の女の子。おっとり系。


 本文
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 「ふぅ……」
 
 今の勤め先である吹利学校に向かう途中の長い坂道で、甚助は自転車を停め
 て額の汗を手で拭った。
 
 9月も半ばに差し掛かり、暦の上では既に秋の筈なのだが、近頃の地球温暖化
 や何やらの影響を受けてか、吹利の町ではまだまだ熱い日が続いている。
 この日も、数日前まで続いていた涼しさとは一転して、真夏日の暑さが戻っ
 て来ていた。
 
 「暑ぃなぁ……」
 
 服の下が汗でびっしょり濡れて気持ちが悪くて思わず顔をしかめた。
 こんなことなら着替えでも持って来りゃ良かったと後悔しながら、甚助はふ
 と、あることに気付いた。
 
 左肩の辺りが妙に重い。
 痛いのではなく、何かが乗っかっているような感じがするのだ。
 寝違えたかとも思ったが、朝起きてマンションを出る前までは何も無かった
 ことを思い出す。
 
 じゃあ肩凝りかな。後で湿布で貼っておけば良いかと思いつつ自分の左肩に
 目をやる。すると、
 
 「……あれ?」
 
 左肩の辺りに、見慣れない女の子の顔があった。
 
 ――幽霊だろうかとふと考える。
 
 普段は人間の姿をしているものの、本性は妖怪の一種化け狸である甚助は、
 こういった幽霊や怪奇現象の類には慣れている。
 
 だが、朝っぱらから人に取り憑く幽霊なんていうのは甚助もあまり聞いたこ
 とが無かった。
 
 それに、疲れて幻覚が見えているだけなのかもしれない。
 昨夜は授業の準備に時間を取られ、結局2時間くらいしか眠れなかったせい
 で、まだ疲れが取れていない気がする。
 
 二度三度、目をゴシゴシと擦ってからもう一度、自分の左肩に目をやる。
 やっぱりそこには女の子が、甚助の左肩に手をかけるようにしてそこにいた。
 
 ふと、目が合い、咄嗟に何を言ったら良いか逡巡していると
 
 「おはようございます」
 
 左肩に乗っかった女の子が先に声をかけてきた。
 
 「え?ああ……おはよう」
 
 ああ、やっぱり幻覚じゃなかったんだなー、などと考えながら挨拶を返す。
 
 「おじさん、わたしの事が見えるんですね。良かった」
 「うん、見えるけど……ってちょっと、おじさんって俺!?」
 
 まだ戸籍と見た目の上では26歳、まだオジサン呼ばわりされるとは思ってい
 なかっただけにダメージは大きかったようだ。
 
 「勿論です」
 「そーかぁ、おじさんかぁ……はぁ」
 
 屈託無く笑いながら答える少女に何も言えず、甚助は溜息をついた。

 ***

 「――じゃあ、美和ちゃんは何で幽霊になったのか覚えてないのか?」
 「はい……」
 
 左肩に乗っかったままの少女と話しつつ、甚助は自転車を押して坂道を登る。
 
 少女の幽霊は大崎美和と名乗ったが、覚えているのは名前だけで、自分は元
 々どこの誰で、何故幽霊になったのかはまったく覚えていないのだと言った。
 
 とにかく、自分がどこの誰だったのかを知りたくて、吹利の町のあちこちを
 回っては目に付いた人に話しかけて見たものの、殆どの人は幽霊である美和
 の存在を認識できず、それ以外の少しの人達は美和の姿に驚いて逃げるか、
 慌てて退治しようとするばかりで、これまでまともなコミュニケーションが
 取れなかったのだという。
 
 「酷ぇなそりゃ、本当について無かったよなぁ」
 「ホントです。でも何故でしょう」
 「うーん」
 
 日頃の行いとか言う単語が脳裏を過ぎったので急いで削除。
 
 (俺だって日頃の行いあんまり良くねーし)
 「どうしたのですか?」
 「あぁ、いや、何でもないよ」
 
 きょとんと見つめる美和に、甚助はちょっと慌てて言葉を返す。
 左肩に乗った少女はどう見ても、人を呪ったり祟ったりするようには見えな
 い。
 
 「……やっぱり、運、だよな」
 
 つい言葉に出る。
 
 「ほえ?」
 「いや、独り言だよ」
 「そーですかー」
 
 また誤魔化すも、あっさり納得してくれたようだ。
 
 「まぁ、そのうち何か思い出すかもしれねーし、暫くの間は……」
 
 ウチで過ごさないか?と言おうとした甚助の言葉に被さるようにして、吹利
 学校の始業を告げるチャイムが高らかに鳴った。
 喋りながら歩いているうちに、いつの間にか学校には着いたようだが、遅か
 った。
 
 「や、やべっ!」
 
 手で押していた自転車に飛び乗り、血相を変えて駐輪場まで走り込む。
 自転車を駐輪場に突っ込んでから職員室まで駆け込むが、時既に遅く、職員
 会議は既に粗方終わっていた。
 
 職員会議終了後、遅刻の理由は寝坊であると答えてしまった甚助が学年主任
 の先生にこっぴどく怒られたことは言うまでもない。

 ***

 大崎美和と名乗る幽霊の少女は結局、死者達の住処であり、現在の甚助の家
 でもあるサトミマンションで暮らすことになったのだが、その話はまた別の
 機会になるだろう。


 時系列と舞台
 ------------
 2008年9月半ば頃、ある晴れた平日の朝

 解説
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 学校に行く途中、何だか肩が重いと思ったら左肩に幽霊の女の子が乗っかっ
 ていました。

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 以上です。
 お読みくださりありがとうございました。 


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