[KATARIBE 31861] [HA06N]小説『左肩の少女・第五話 -残響-』 第二稿

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage


Index: [Article Count Order] [Thread]

Date: Sat, 25 Oct 2008 00:14:29 +0900
From: Subject: [KATARIBE 31861] [HA06N]小説『左肩の少女・第五話 -残響-』 第二稿
To: <kataribe-ml@trpg.net>
Message-Id: <ECA4CB23ED244C3098CF7F5A2A61FFA1@FM773AD2B0F81F>
References: <AE28A667F84D4FE99FFEA0814ACD427C@FM773AD2B0F81F> <D204296DE8E842B1ADCEAE38F664CBEC@FM773AD2B0F81F> <E299ADDB344F4EFF8A42A99394A54831@FM773AD2B0F81F> <87FCC520831E4D6EB5F4D0941D37FDB2@FM773AD2B0F81F>
X-Mail-Count: 31861

Web:	http://kataribe.com/HA/06/N/
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/31800/31861.html

-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
小説『左肩の少女・第五話 -残響-』
====================

登場人物
--------
 樫屋サトミ(かしや・−):深夜、市街を徘徊する骸骨の少女。
              生前は活発な少女だった。
 ミハイル:サトミの胸郭内に住み着いた幽霊。サトミの通訳を務める。
 宮川リエ(みやかわ・−):生前のサトミの友人。別の高校に行った。
 ?:サトミを殺害した犯人。
 

 本文
 ----

 ――その日、私は隣町にある父さんの家に行くところだった。

 私が物心付いたときから、神経質な母さんは、寡黙で物静かな父さんを事あ
 るごとに罵っていた。
 
 父さんはわたし達家族を支えるために、母さんの罵倒にずっと耐えていたけ
 れど、私が中学に上がって暫くして、父さんと母さんは別々に暮らすことに
 なった。
 
 私は父さんと暮らしたかったけれど、母さんの一方的な提案により母さんと
 暮らすことになってしまった。
 母さんはその後、別の男の人――弘和さんを新しい夫(つまり、私の新しい
 父親)として迎え入れた。
 
 私の新しい父親になった弘和さんは決して悪い人ではなかったし、母さんと
 もうまくやっているようだった。
 
 私も弘和さんを新しい父親として認めよう、いや、認めなきゃと思っていた
 けれど、それと同時に、ある日突然、母さんが連れてきた男の人が父になり
 代わることが許せなかった。
 
 それに、弘和さんの息子――私とは3ヶ月しか違わないけれど、私の弟にな
 っている――が、ねばつくような視線で私を見るのも嫌で嫌でたまらなかっ
 た。

 3年間、私は父さんのいない家で母さんと新しい弘和さん、それに弟が暮らす
 家で、どうにかやって行こうとしたのだけれど、もう限界だった。

 ついさっき、ちょっとした事が――ほんのちょっとした事だったのだけれど、
 それがきっかけで、今まで募らせてきた不満を弘和さんにぶち撒け、口論に
 なった。
 
 そのまま勢いで家を飛び出した後、父さんの家に行くことに決めたのだった。
 目を瞑ると、弘和さんの言葉が脳裏を過ぎった。

 『サトミ!どうして君はそういう事ばっかり言うんだ!!』
 『私だって、君と……君と新しい家族としてやって行きたいんだ!』
 『頼むからそんな事ばっかり言わないでくれ……』

 ……煩い!煩い!!煩いってば!!!

 耳元で聞えたような気がして、両掌を耳に叩き付けるようにして耳を塞いで
 目をギュッと瞑った。
 
 もしかしたら、私も言い過ぎたのかもしれない。
 けれど、私の中で心の整理が付くまでの間だけでも父さんと暮らそう。
 父さんだって分かってくれる筈だ。

 それに、母さんが父さんと別れるのを選んだのと同じで、私も父さんと暮ら
 すことを選ぶ権利はある筈だ。
 
 そう考えると、胸の奥につかえていたものがいくらか取れたような気がした。

 考え事をしている間に俯いていた顔を上げたそのとき
 
 「サトミ?ねぇ、サトミだよね?」

 不意に呼ばれ、声のする方を向くと、小学校からの友達がそこにいた。

 「あ、リエ、久しぶり」
 「やっぱりサトミだったんだぁ!ひっさしぶり!」
 顔中に笑みを浮かべ、私の肩をバシバシと叩く。
 
 「ちょ、いた、痛いって、オバさん臭いよ、それ」
 私が言うと
 「うぁ!ショック!久しぶりにあったらそれかよ!」
 リエに小突かれた。

 「でさ、サトミは今からどこに行くの?」
 「えっ……と」

 リエに聞かれ、私は本当のことを言うか、それとも適当に誤魔化そうか少し
 迷った末、本当のことを話すことに決めた。

 「……父さんに会いに行くとこ」
 「ああ、そうなんだ」

 リエとは小学校の頃からの友達で、お互いよく知る仲だった。
 リエには、私の苗字が樫屋から別の苗字に変わった理由も話していたし、弘
 和さんや弟と私が上手くいっていないことも話していた。
 
 私が今まであの家でどうにか我慢できたのも、何かと話を聞いてくれたリエ
 のお陰もあったのかもしれない。
 
 「やっぱり、新しいお父さんとうまくいってないんだ?」
 「まぁ……ね」
 「そっかぁ……お父さんに会えるといいよね」
 「うん、そだね」

 屈託無く笑うリエにつられて、私も笑った。

 と、そこに
 「間もなく、1番線に列車が参ります。黄色い線の内側でお待ちください」
 私が向かう方面への電車が、ホームに入ってきた。

 「あ、私、こっち行くから」
 「うん、じゃ、また今度ね」

 リエに手を振り、私は電車に駆け込んだ。

 近鉄吹利駅から2つ目の駅が、父さんの家に一番近い駅だった。
 父さんの家は駅から歩いて30分くらいの場所にあった。

 もう夜も遅いしタクシーを使おうかと思ったけれど、1000円近くかかるのを
 思い出し、やっぱり歩くことにした。

 体を動かすのは嫌いじゃないし、美容と健康に良いと思えば、良いことづく
 めだ。
 そんな訳で、私は父さんの家まで歩いて行くことにした。

 今から思えば、あのとき、タクシーで父さんの家まで行っていれば良かった
 のかもしれなかったけれど、当時の私はそんな事は考えもしなかった。

 国道沿いの大きな道から外れ、住宅街の間の狭い道を歩くこと暫し、あと少
 しで父さんの家に着くというところで、不意に電柱の影から何か、いや、誰
 かが飛び出して来た。
 
 不意に飛び出して来た誰かに押さえつけられ、口元に化学薬品のような臭い
 のする湿った布のようなものを押し付けられた。
 
 私は暴れて振りほどこうとしたけれども、押さえつける誰かの力は私には振
 りほどけないほど強かったし、口元に押し当てられた布の嫌な臭いのせいで、
 段々気が遠くなって行き――

 そこで、私の意識は途切れた。

 ***

 ――少しずつ、視野が明瞭になってゆく。
 
 まだ少しぼやけている私の視界に、よく見慣れた天井が映る。
 豪華な、けれどもあちこちに人の顔のようなシミの浮いた天井。
 
 サトミマンションにある私の部屋の天井が、私の肋骨の下にある魔導器、骨
 だけになった私を動かすモノから出ている赤い光に照らされて、薄暗くぼん
 やりと見える。
 
 「やぁ、起きたかい?」
 お節介焼きで変人幽霊のミハイルさんが天井近くの空間を漂い、私を見下ろ
 している。
 
 「変人とはこれまた酷いなぁ」
 私の思念を読み取り、ミハイルさんは不満そうに眉根を寄せて抗議する。

 「ところで、またあの夢を見ていたのかい?」
 
 日が落ちて、私の体に埋め込まれた魔導器が起動し、全身にエネルギーを行
 き渡らせるまでの僅かな時間、私は夢を見る。
 夢の内容は大抵、10年くらい前、私がまだ人間だった頃の最後の記憶だ。
 
 それはさておき、また勝手に覗き見されていたかと思うと気分が悪くなった
 ような気がする。
 いつも思うけれど、セクハラされるってきっとこんな気分なんだろうな。
 
 「なんとも悲劇的だねぇ、とても悲しい」
 うんうん、とミハイルさんが頷く。
 言葉とは裏腹に、何だか満足げなのが余計に腹が立つ。
 「ちょっとした口論が元で家を飛び出したけれど、父にも母にも義父にも会
 えない……悲しいことだなぁ」
 
 本当に悲しんでくれているのかどうか怪しい。
 これは多分、いや絶対喜んでいる!
 顔がにやけているし!!

 「でも、どうせ見るのなら、この前みたいにお父さんとい」

 枯れろ!枯れちゃえ!!

 セクハラ幽霊の言葉が終わる前に念じる。

 「いててててててて!」
 首に巻かれた蔦がキリキリと締まり、ミハイルさんは空中をのたうち回る。
 
 とりあえず、ミハイルさんは放っておいて、先に着替えることにする。

 いつもの格好じゃなくて、少し前に甚助さんが買ってくれた白と黒のボーダ
 ーのニットのワンピースと黒のレギンスにすることに決定。
 それから、前に達大さんに買って貰った黒の帽子も合わせてみよう。

 いつもと違う服を着るのは久しぶりだ。
 自分で言うのも何だけれど、鏡に映してみると結構似合っている気がする。

 私、まだイケるよね。
 
 一瞬そう思ったけれど、服の隙間から見える骨が目に付いて、ちょっと悲し
 い気分になる。

 「……さて、もう準備出来たかね?」
 丁度身支度を終えた辺りで、ミハイルさんから声がかかる。

 うん、そろそろ行こう。

 「じゃあ、恒例の夜回りと行きますか」

 するりと服をすり抜けて、ミハイルさんは私の肋骨の内側に納まる。

 「あー、あー、あー……」
 私向けの声を作ること暫し。

 「よし、それじゃあ行こう」
 ミハイルさんが私の声を真似て言う。

 ドアノブに手をかけ、部屋の外に出る。
 さぁ、行こう。
 私を殺した誰かを探しに。

 時系列と舞台
 ------------
 2008年10月初め頃、ある晩

 解説
 ----
 サトミが夢に見た生前最後の記憶と、目覚めたサトミが部屋を出るまで
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 


 ---------------------------------------------------------------------
http://kataribe.com/ 語り部総本部(メインサイト)
http://kataribe.com/ML/ メーリングリストの案内
http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/ 自動過去ログ
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/31800/31861.html

    

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage