[KATARIBE 31849] [HA06N] 小説『泡白兎・7 ver. A』

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Date: Tue, 21 Oct 2008 23:32:47 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31849] [HA06N] 小説『泡白兎・7 ver. A』
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2008年10月21日:23時32分47秒
Sub:[HA06N]小説『泡白兎・7 ver.A』:
From:いー・あーる


というわけで、いー・あーるです。
明日から少し仕事のほーが動くので、今日中に!
流せるところは!流す!!
<でも多分書く。話がごろごろしててキモチワルイから……

 基本は、チャットログを元にしていますが、特に六華の台詞については
かなり増えたり手を入れたりしてます。
 もし、同じように、台詞等変更があれば、お願いします>ひさしゃん

********************************
小説『泡白兎・7 ver.A』
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登場人物
--------
 本宮尚久(もとみや・なおひさ)
  :本宮家の大黒柱、妻を先に無くしている。小池の大学時代からの親友
 小池国生(こいけ・くにお)
  :尚久の親友、正体は血を喰らう白鬼。六華に近しいものを感じている。
 六華(りっか)
  :現世に戻った冬女。本宮尚久宅にて下宿中。


本文
----

 一番最初の動機は、単純そのもの。
 自分と同様、長い時を生きてきた相手。すっかり人間の世界に馴染み、最愛
の人々の為に生きている彼が……最後に残った親しい人を喪った時に、後を追っ
て死んでしまっては堪らない、と。
 それについては、確かに自分勝手な理由かもしれないが、さまで悪いことと
は六華自身も思っていない。死なないで居てくれ、と、願うことは、それ自体
は決して悪いことではないし、そこまで六華も自分を偽善者とは思っていない。

 が。

               **

 勢いよく開く扉。音と、それ以上に空気の動く感覚。
「六華さん!」 
「六華さん、大丈夫ですか!」 
 音に反応して目が開く。ぐらぐらと世界が波立つような感覚に、一瞬吐き気
を憶えた。
「っ!」
「……六華さん?」 
 聞き慣れた声が、心配そうに近付き、身体を引き起こそうとする。
 指が。
 傍らに居る、兎のすぐ傍を

「……………来ないでっ!!」 
 突き飛ばした手には、大した手ごたえは無かった。
「……え?」
 突き飛ばすと一緒に見上げた先の、ひどく驚いた……そして少し傷ついた顔
が、それ以上に痛かった。
 それでも。
「お、おじさまも、国生さんも……近寄らないで!」
 ふわふわと、片腕に触れる柔らかい感触に、六華は胃の腑が痛むような恐怖
を憶えた。

 白い髪。
 それは人間の髪が白くなるのとは違う。淡くそれ自体が光を放つような髪は、
六華にはひどく綺麗で……儚いものに見えた。
(白の鬼)
 その過去を六華は詳しくは知らない。ただ、大事な妹が居て、彼女が決して
幸せな終わり方をしていないこと、そして少し前に、最愛の人間達の一人を亡
くしたことを知っている。
(だから)
 さみしさを、かなしさを、もしこの異形の兎が掘り起こそうとしたら、それ
は六華が夢に見たかなしみどころではない痛みとなるのは確かだと思う。
 だから、出て行って。
 ベッドに座りこんだまま、睨み据える。視線の先で、けれども白鬼は、ふと
視線を険しくした。
「……これは」
 そのままずれた視線は、六華の腕のほう、斜め後ろに向かう。
「小池くん」 
「……離れて」 
 後ろから声をかける、尚久を手で制して。
「お前は、何者かな?」
 その声は、六華に向けてのものではない。六華の横、恐らくはその紅の色の
目をきらきらと輝かせて見ている、この異形に向けてのもの。
「…………来ないで……」 
 腕で押しやるようにしながら、後ろに下がる。絶対見るな、見るな、と思っ
ているのに。
「……六華さん、その兎は」 
『ほう』
「駄目!」 
 兎の声が、聞こえる。嬉しそうな、何かを言いたいことがよく判る声が。
「六華さんっ」 
『諦めてきたもの、追わずにいたもの、お前ほどではなく、けれども積み重なっ
ている』 
 ずい、と、六華の腕を押し上げるようにして、白い塊が前に出てきた。ピン
クの鼻が、うれしそうにひこひこと動いている。 


(聞かせるな)

「……で、でてって」
 腕には力が入らなかった。足はがたがたと震えた。

(それでも)

 必死で前に進む。

(絶対に)

 安寧・平穏・沈黙・安逸・安堵・平静。
 どの言葉で形容しても形容し足りない、その穏やかな感覚。
 その安堵と引き換えに記憶を……否、記憶の中の手の届かない思いを消すか。

「……一体」 
「出て行ってえぇっ!!」 

 半ば倒れる、その勢いをぶつけるように相手を押した。
 恐らく無意識に差し出された手が、倒れかける上半身を支える。あやかしと
しては肉体的な力を持たない六華には、実際に彼等を動かすことは出来ない。

(お願い)


『さみしさだ、さみしさだ!』 
 視野が、歪む。
 いや、と、六華はどこかでひどく冷静にその感想を訂正する。視野が歪むの
ではない。この周りの世界が揺れるだけだ。
 自分と、彼等を包んだまま。
 歓喜する声を止めようと、六華は声をあげようとして。

 ふと、気が付いた。

 目の前の二人を見ている、この視界に重なってもう一つの二人の像。もっと
低い位置から、もっと輝くように……もっと鮮やかな色を纏って見える……否。
(さみしさだ)
 とろり、と、ひどくさみしい琥珀の色が流れる。
(まさか)
 六華が気が付くと同時に、兎はひょん、と、もう一度跳ねた。
『お前からは得られぬが、あの御仁は旨そうだ』 
「だめえええっ」 
 手で払おうとした。
 兎は、ひょん、と、高く跳ねた。
『さみしさだ、さみしさだ』
「……なに、を」
『極上の、さみしさだ……!』

 ひょん、と、その歓喜を示すように高く飛んだ兎は……いやその視野は、次
の瞬間さっと灰色に変わった。
 そして。

『?!』
「……っぁああっ」
 兎の疑問符と六華の悲鳴が重なった。


 何も見えない。
 ただ、兎の可聴域外の悲鳴が、頭の中を鋭い糸のように刺し貫き跳ねてゆく。
 背中から倒れる、それを止めようも無いまま引かれる力に従って……それが
がくん、と止まった。


「……要因は君のようだね」 
 それもまた聞き慣れた声。いつも穏やかな、時々はからかうように笑う声が、
今は厳しい響きを帯びているのを、六華はぼんやりと聞いた。
(だしてだしてだしてだして)
 声にはならない、抗議。それは自分の内奥から聞こえる。
(……まさか)
 自分よりも体温の高い腕が、自分の身体を支える。その中で六華は、血の気
が引くのを感じた。
(兎と……重なりだしてる?)

 兎の視野が自分のそれと重なり。
 兎の声が、己の内奥から聞こえ。

 ごつごつ、と、何かが小刻みに当たっている音がする。
 ごつごつ、と、六華の額に何かが当たる感触がある。
「……随分、元気のいい兎だね」 
 ぼそり、と、発せられた声は、何故か耳にひどく近く聞こえた。

(そうか、出さないか)

 ふ、と、聞こえたその意思。そしてその意図するところ。
 
(それ……っ)

 額に熱が集った。頭蓋の内側に光が、熱が……そして召還する言葉が集る。
 内奥から、そして彼女の傍らから。
 全く、同時に。
『吾子らよ、来たれ、この地の子供らへ!!』 

 
 何も見えない目に、暗い海が映る。
 打ち寄せる波、その波頭の白い泡がふっと浮き上がり、海の上の冴え冴えと
した黝い空へと駆け上がってゆく。
 高く跳ねる小さな小さな兎達の群。
 それはゆっくりと天空を横切り……そして。

「だ、駄目ええっ!!」 
 後で考えるに、多分兎のほうも、そうやって召還するのに必死だった分、六
華との連結が外れたのだろうと思う。無論その時、六華にはそんな理由は必要
なく、ただ、叫んだら声が出た、状態だったのだが。
「六華さん……これは」 
 すぐ近くから降る声のほうに、彼女は必死に顔を向けた。
「……ひまわりの、いえに、れんらくを」
 
 小さな小さな、あどけない動きのまま。
 白い小さな兎達は、ゆっくりと近付いてゆく。夜目にも見える、見慣れた建
物と付随した少し広めの庭に。

(ひまわりの家の子供達)

「兎を近付けたら、だめ!!」
「わかりました」
「小池くん、早く」
 慌しく交わされる声の、合間に。

『喰らえ、吾が同族達!』
 押さえつけられているのかどうしたのか、動けない筈の兎の、高らかなその
声。
『あの子供等のさみしさを!あの子供等のかなしさを!』

「……だめ……駄目、絶対に!!」 
 いつもさみしそうな多菜。傷だらけの身体を長袖に隠しているくるよ。
 語られることを憚るような、そんなむごい過去を背負った子供達。
 感情を消す以前に、兎は彼等の記憶を掘り起こす。
 触れれば血を噴き出すような、まだ彼等の記憶に新しい過去を。

「駄目!」 
 
 支えてくれる手を払う。と同時に、先程途中で止まった落下が、そのまま一
度、恐らくはベッドの上で完了し、そのままずるずると床への落下へと切り替
わる。
「六華さん?!」
 驚いたような声が、耳元で響く。
 そこでようやく、六華は現状を理解した。

 ひっくり返された、灰色のゴミ箱。それをしっかり押さえる手。
(物理的には、兎は動けないかもしれないけど)
(でも)

 手を伸ばして、ゴミ箱を揺する。虚をつかれたのかわざと逆らわなかったの
か、抑えていた手はすぐに離れた。

「その子達は、駄目!」 
 白い兎は、ぴたり、と動きを止めていた。
「さびしいなら、あたしが行くから……」 

 あたしの過去を食べなさい、と、言う積りだった。
 それが……微妙に違う言葉が、するりと滑り出てきた。

「あたしを連れて行きなさいっ!」 

 放った言葉が耳に届く前に、確信する。
 この言葉で……正しかったのだ、と。

『来るか。きてくれるか』 
 ぴょんぴょん、と、兎が跳ねる。
『お前も兎、私も兎……兎を放て!』 
「黙らないか」
 ぴしり、と、鋭い声に、しかし兎はやっぱり跳ねる。
『さみしさを抱え、泣くばかりの声を響かせ、そのくせそのさみしさを後生大
事に抱え込んで動きもせず』 
 柘榴の色の目は、彼女の揺らぐ視野の中で、ひどく鮮やかに、艶やかに見え
た。
『それが人なら、兎は兎』 
 艶やかに、揺らぐことなく……その存在は言葉を紡ぐ。
『この兎は私が連れて行こう』 
 白と、紅。
 その色は、六華の頭の中を埋め尽くした。


「…………やめなさい」 
 微かに躊躇うような気配が、声と共に伝わる。
『……ほお』 
 半ば崩れるように床に座り込んだ六華の、伸ばした手をするりとかいくぐっ
て、兎はぱたりぱたりと大きすぎる足を動かした。鼻をひこつかせて、真っ直
ぐに白い頭の青年を見上げる。

(言うな)
 六華の声は、多分聞こえたのだろう。ふん、と、笑うように鼻を動かして、
それでも兎は断言した。

『お前もさみしい』 
 
 ざわり、と、空気が揺れるのを、六華はその目に見ないまま感じ取った。


 動揺。
 蘇る記憶、その中で欲したもの、手を離したもの。
 そして……諦めた時の、喪失感。
 ひくひくと嬉しげに鼻を動かす兎の、その目に映る……恐らくはとても美味
なる絶望。
「小池くん?」 
 かけられた声が、聞こえているのかいないのか……


「…………っ!!」 
 立つことも、動くことも、不思議なほどやすやすと出来た。
「出て行け!!」 
 兎と小池、その間を遮るように立って……突き飛ばしざま怒鳴りつける。
(揺らぐなら)
(記憶が)
(想いが……痛むなら)
 
 青褪めた顔のまま、白い髪の青年はしかし、動こうとしない。

(……どうして)
 苛立ちと、それ以上の恐怖にうろうろと視線を逸らした六華の目と、尚久の
目が合った。
 厳しい目元はそのまま、尚久は一つ頷くと、青年の腕を掴んだ。

「な、尚久くん?」 
「……今は、出直しましょう」 
 そのままぐいぐい、と、引っ張ってゆく。うろたえたような声と表情のまま、
小池は一緒に引っ張り出されてゆく。
「尚久くん?六華さん……?!」 
「……出て行けええっ!!」 

 ばたん、と、六華の声を遮るようにドアが閉まった。
 ぱたん、と、その気の抜ける音と一緒に。

 ぱたん、と、身体が床にぶつかる音を、六華は聞いた……


時系列
------
 2008年10月付近

解説
----
 小池さんと尚父、兎に出会う。
*******************************

 というわけで。
 BGMは、今回、KOKIAの調和をがんがん書けてみました。

 であであー。


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