[KATARIBE 31840] [HA06N] 小説『泡白兎・4.5』

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Date: Sun, 19 Oct 2008 14:14:58 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31840] [HA06N] 小説『泡白兎・4.5』
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2008年10月19日:14時14分57秒
Sub:[HA06N]小説『泡白兎・4.5』:
From:久志


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小説『泡白兎・4.5』
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登場キャラクター 
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 本宮尚久(もとみや・なおひさ)
  :本宮家の大黒柱、妻を先に無くしている。小池の大学時代からの親友
 小池国生(こいけ・くにお)
  :尚久の親友、正体は血を喰らう白鬼。六華に近しいものを感じている。
 六華(りっか)
  :現世に戻った冬女。本宮尚久宅にて下宿中。

直感
----

 通いなれた事務所への道のりを歩きながら、尚久は頭の片隅に張り付いた
疑問について考えていた。

 六華の不調。
 それだけで考えれば単に体の調子を崩したのだろうという結論にたどり着く
のだが。引っかかるのはその不調の是非よりも、朝に見た六華のどことなく
普段と違う様子のこと。
 ぴしりと背筋を伸ばして物怖じせず言うべき事ははっきりと言う。
 そんな彼女がまるで何かに怯える少女のように周囲を気にして視線を彷徨わ
せる姿というのは。

「何か、問題でもあるのでしょうか、ね」

 振り返る。
 突然の不調、怯えた姿の彼女、そして書斎で倒れていた彼女のスノウドーム。
それらのことが意味すること、その裏に仄見える何か。
 しばし考えた後、また歩き始める。


「おはようございます、所長」
「ああ、おはよう」
 所員たちに片手をあげて挨拶すると、まっすぐにデスクの席につく。
 鍵つきの引き出しを開けながら、今日のスケジュールを反芻する。
「ふむ」
 何かが引っかかる。それは仕事のことではなく。
 即座に判断を切り替えると、机の隅に置かれた個人用携帯を手に取る。

 人ならぬ身、それは尚久自身も良く知っている者と同じ。
 彼ならば、あるいは。

 今までの人生の中、尚久は自らの直感を一度たりとも疑うことはなかったし、
またその直感をそのまま放置することも一度もなかった。
 そして行動を起こす時には一切の迷いもためらいもない。

 二つ折り携帯を開いて番号を手繰って通話ボタンを押す。
 2コールの後に耳に馴染んだ声が聞こえた。

『はい、小池です』
「ああ、僕だよ」
『ええ、どうしたんですか?』
「実はね、ちょっと話しておこうと思うことがあって」
 ぎし、と。背もたれを軋ませながら、夕べから続く異変を小池に告げた。


気がかり
--------

 朝一番、胸ポケットにしまった個人携帯が震えた。
「ちょっと失礼」
「はい」
 一礼して席を離れていく幸久に小さく手を上げ、小池はポケットから取り出
した携帯番号をちらと見る。

「尚久くん?」
 彼からの電話は珍しいことではない。
 だが、朝から私用携帯に連絡というのはあまりないことだ。

「はい、小池です」
『ああ、僕だよ』
 いつものように、どこかいたずら小僧を思わせる昔と変わっていない声。
「ええ、どうしたんですか?」
『実はね、ちょっと君に話しておきたいと思うことがあってね』
 尚久の声のトーンが変わる。
「何か、あったんですか?」
 眉を寄せて声を潜める小池を肯定するように言葉を続ける。
『実はね、引っかかることがあるんだ……』
 一息置いて。

『六華さんのことで、ね』

 人ならぬ者。
 それは例えば、生きる時間の違い。生きる為の手段の違い。
 六華と会ってから、同じく人と異なるあやかしたる存在として、どこか近し
いものを感じていた。
 そして以前、自らの血肉を望む者に付け狙われて衰弱していた際、その身に
傷をつけて血を分け与えてくれた、恩人でもあった。
 その、彼女が。

 ほら、国生さん。そこで物怖じしない
 すみません……
 そこで謝らない!

 物怖じする自分を蹴っ飛ばしてでも、しっかりと意見をぶつけてきた六華が
怯える程の、何かがあるという。

『……ということでね、君には話しておきたくて。すまないね朝から』
「いいえ。ありがとう、ございます」
 携帯を持った手がかすかに落ち着きなく揺れた気がする。
「私からも連絡をいれてみます……」

 電話を切って胸ポケットにしまう。
 心なしか、落ち着かない。

「社長どうされました?」
「いや、なんでもないよ……ところで昨日の打ち合わせの件だけれど」
「はい、私がまとめたものをメールで」
 部下の報告を聞きながらも、小池の頭の片隅から何時までも不安が消えな
かった。

 何故落ち着かないのか。

 ふと、思い返す。自分が人として生きようと誓った時のこと。
 人の世で、人ならぬこの身で人にまぎれて、そして。

 麻須美と、そして尚久と出会った事。
 たとえ想いは叶わぬまでも、あの二人と共に人としてありたかった。
 同じ時を生きられなくとも、ほんのひと時でもその時間を共有し、過ごして
いきたかった。
 しかし、既に麻須美はこの世に居ない。
 残された尚久を、何にも変えてでも護っていきたかった、側で支えていた
かった、しかしその想いもいつかは淡雪のように消えてしまうのだろう。
 だが、自分は人ではない。
 それは紛れもない事実であり、自らが欲する血の渇きは抑えれば抑える程に
苦しさを増して、思い知らされる。

 そんな自分を叱りつけて血を分けてくれた者。
 同じく人の身ではなく、また、同じ諦めを知る者。
 それは彼女の強さか? 或いは……

『生きることに遠慮する必要はない。迷惑程度で生きられるなら堂々として
いていい』

 彼女の言葉が、今更のように心に響く。

 手が自然に伸びていた。
 番号を手繰って……

「もしもし、ああ、希さんですか。ええ……六華さんは?」


再び
----

『絶対、こっちにも電話を架けてくると思ったんだ』
 彼の声は、そらみたことかと弾んだ様子で。
「ええ……その、やはり気になってしまって」
『うん、それは僕もそう。なにより、ね。引っかかるんだ。わかるだろう?』
「はい」
 きっぱりと断言する彼の声。昔から迷い無く一直線で、だが決して向こう
見ずではなく。何より自分の直感を信じて、決して目を逸らさない。
『それにね……心配だから、やっぱり』
「はい、それは」
 うって変わった声は、やはりまっすぐに六華の身を案じる声で。
「今日、そちらにうかがってもよろしいですか?」
『ああ、じゃあ帰りに待ち合わせよう。場所は――』


時系列 
------ 
 2008年10月付近
解説 
----
 六華の異変に気づいた尚久、小池に連絡を取る。
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以上。

 なんか尚父といーさんとこの凪さんが似てるなと、思った。なんとなくですが。



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